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第三章 一世一代の大博打

特別なアレを使っても伝説のアレは制御できなかった

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 ラキス達は森から山へ走った。
 山頂に着くとゴブリンの斥候スカウトを喚び、松明で明かりを確保する。

 山頂から陥没した巨大な穴を覗きこむと、眠っていたはずの古龍が胴をうねらせて空を泳いでいた。

古龍アレ、浮いてないか?」
「浮いて……ますね」

 古代のドラゴンは大蛇のようだと思っていたら、まさか空飛ぶ蛇だったとは。
 
 だが翼も無く、どうやって空を飛んでいるのだろうか。
 世の中は広い。まだまだ知らないことだらけだ。

 古龍の頭、その後方に人影が見える。
 乗っている……というより振り回されている?

「なんでしょうね、あの人影アレは」
「宙に浮く蛇でロデオとは珍しい趣味だ」

 腕を組んでしみじみと語るラキスの隣で、アリアが慌てていた。

「なんでそんな悠長なのッ!! 古龍が目を覚ましちゃってんだよ!?」

 全くもってアリアの言う通りなのだが、どうにも気持ちがついていかない。

 モンスターの声が空に響いたとき、ラキスもアークも「やられた」と思った。
 古龍はルシガーの手に落ち、手のつけられない状況を頭に浮かべた。
 なのに、息せき切って駆けつけてみたらどうだ。
 古龍はいまだ山頂に居て、こともあろうかロデオに興じているではないか。

 つまり……拍子抜けしてしまった。

「で、ルシガーアレは何をしてるんだ?」
「光ってる手綱みたいなのアレが怪しいですね」

 目を凝らすと、確かに古龍の頭のあたりが光っていた。手綱……か。
 しかし、あれだけのサイズの手綱……まさか普通の手綱ということはないだろう。

「なんか……特別な手綱アレか」
「きっと特別な手綱アレですね」
「で、特別な手綱アレを使っても古龍アレは制御できなかったと」
「みたいですねぇ。伝説の古龍アレですから」

 アークがなぜか少し胸を張る。

「さっきからアレアレうるさいっ! いいから、さっさと古龍アレをなんとかしようよ」

 そう言うアリアも釣られている。
 それはさておき、空中で暴れている古龍をどうするか。

 当然だが、攻撃する手段は限られる。
 あのサイズのモンスターで鱗まであるとなると、とても弓兵アーチャーの矢が刺さるとは思えないが……。

「一応、射かけてみるか」

 ラキスはゴブリンの弓兵に古龍を狙わせる。

 ヒョウと風を切る音と共に、矢が古龍へと走る。
 案の定、放たれた矢は体表を覆う鱗に弾かれ、穴底へと落ちていった。

 古龍は痛痒つうようすら感じていないのだろう。
 こちらを一瞥いちべつもせず、引き続きグネグネとうねるばかり。

「気づいてもいないようですよ。いやあ、流石は古龍ですね」

 さっきから、「古龍はスゴい」と自慢気なアークが鼻につく。

 まあ、気持ちはわからなくはない。
 自分達が必死で封印してきたモンスターをサクッと倒されたら、これまでの努力は何だったんだって話だ。

 さて、次にやれることは……。

「じゃあ、ボクが眠らせてみるよ」
「ああ。やってくれ」

 アリアは頷くと、サンドマンをんだ。

 古龍までは結構な距離がある。
 ここから眠りの砂を撒いても届かない。

 アリアさらに、ドライアドを喚び出す。
 ついつい忘れそうになるが、このドライアドは【高速飛行】のスキル持ちだ。

「よしっ。行っておいで」

 サンドマンを抱えて、ドライアドが空を飛ぶ。
 小型の妖精が二匹、空を飛んでいる様子に場がさらになごんだ。

 なかなかシリアスなテンションには戻れない。

 古龍は絶えずグネグネ動いている。
 妖精たちもなかなか照準が合わないようだ。
 それでもなんとか、二匹は古龍の近くで眠りの粉をサラサラと撒いた。

 暗闇の中でキラキラと光りの粒が見えた……気がする。
 遠いし暗いからよくわからん。

「どうだ、上手くいったか?」
「う、うん。多分?」

 アリアも自信無さげ。当然だ。

「大丈夫。ちゃんと頭の上で撒けてますよ」

 アークだけは自信満々で言いきった。
 そういえばさっき、光る手綱もすぐに見つけていたことを思い出す。

「まさかお前、古龍アレがはっきり見えるのか?」
「え? はい。手綱アレも見えてますよ。これくらいは見えないと守護者は務まりません」

「「マジか」」

 やってたよ。
 も見えずに守護者やっちゃってたよ。

 ラキスはアリアと目を合わせて肩をすくめた。
 言われてみれば、朝も夜も無く侵入者を撃退しているのだから夜目は大事だ。

 さて、効果のほどは……と見守るも、古龍にさしたる変化は見られなかった。

「眠りの粉もダメ、と」
「そうでしょう。そうでしょうとも。伝説の古龍ですからねぇ。うん、うん」
「ムカつくー! ……あっ」

 アリアが古龍を――いや、古龍に捕まっている人影ルシガーを指差した。
 古龍に振り回されている状況は全く変わっていないが、どうも様子がおかしい。

 フラフラしているというか、態勢が崩れているというか。

「眠りの粉が効いた、のか?」
「効いちゃったみたいですね」
「あのままルシガーが落ちたら、古龍はどうなると思う?」
「「「………………」」」

 嫌な沈黙が流れた。
 いま古龍が暴れているのは、ヤツが握っている手綱らしきものが原因だろう。
 原因が取り除かれたとき、ここに残るのは『目を覚ました古龍』だけだ。


   §   §   §   §   §


「なぜだ!? どうなっている!」

 ルシガーは混乱していた。
 モンスターにをハメたところまでは完璧だったハズだ。

 手綱を握り、いざ穴から出ようとしたらモンスターが暴れ出した。
 しかも、翼も持たないのに宙に浮くなんて。
 パッと見は、誰がどうみても巨大な蛇だ。まさか浮くとは思わない。

 それよりも問題は黄金のだ。
 たしかに口にハマっているし、手綱もしっかりと握っている。
 なのになぜ、このモンスターは支配できないのか。

 ルシガーは必死で手綱を握りこみ、振り落とされないようにするので精一杯。
 これでは王国を蹂躙し、帝国を支配することなど出来ようはずもない。

「認めぬ、認めぬぞ! 俺は! こんなところで終わるわけにはいかんのだ!!」

 多くの仲間を犠牲にしてここまで来た。
 この賭けに失敗すれば、彼らの犠牲も全て無駄になってしまう。

「これは……なんだ?」

 計画の崩壊に戸惑うルシガーの目に、光る粒子が飛び込んできた。

 その瞬間、突如として襲ってきた眠気。
 逼迫ひっぱくした状況にもかかわらず、意識が刈り取られそうになる。

「くっ! なぜ、こんなときに」

 慌てて空を見上げると、どこかで見た妖精がサンドマンを抱えて飛んでいた。

「こいつは……あのときの!!」

 森でさらった少年召喚士。
 アイツが召喚していたモンスターに違いない。

「ここに来て、この俺の邪魔をするか!!」

 あのとき、何が何でも殺しておくべきだった。
 などと、今さら後悔しても取り返しはつかない。

「おのれ! おのれーー!!」

 怨嗟の声を上げても、睡魔には抗えない。
 再びルシガーの意識は刈り取られ、二度と戻ることは無かった。


   §   §   §   §   §


「あ、落ちた」
「落ちましたね」

 古龍の頭から人影が落下していった。
 光の手綱も持ち主がいなくなったことで、その光を失っていく。

「ヴオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!」

 己を縛っていたものが消え、古龍が大きく吠えた。

 もう暴れてはいない。
 その場で悠然と漂い、こちらの様子を窺っている。

「あのまま古龍アレを放っておく、という選択肢はないか?」
「ずっと、静かにしてくれる保証があればいいんですけどね」

 それはそうだ。
 こんな危険なモンスターを野放しにしていては、おちおち寝ることもできまい。

「……あっ!!」

 突然、アリアが大声をあげた。

「思い出した! 古龍アレ、どっかで見たことあると思ったら……。 プレシア姉さんのモンスターとそっくりだ!!」
「なるほど」

 そういうことは、もっと早く思い出してくれ。

 ※   ※   ※   ※   ※

 こちらで第三章完結となります! 盛大に拍手! クラップ! クラップ!!

 なんと、ここまで約11万字!
 めちゃくちゃスゴいッ!!
 まさか……『お気に入り追加』まだ押してない人います?

 もしいるなら、今からでも遅くありません。
 コッソリ押しちゃいましょう♪


 感想もお待ちしております!!
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