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第三章 一世一代の大博打
……おや!? ユニコーンのようすが……!
しおりを挟むヒュンッ、ヒュンッ、ガガッ!!
ゴブリンの弓兵が放った矢が、ヒートロックゴーレムに突き刺さる。
「すごいっ! あの矢は岩にもささるのか!!」
「二射とも同じ場所を狙っている」
一射では効果が無くても、二射ならば。
おなじ場所に続けざま衝撃を与えれば岩もうがつ。
「だが……毒はダメだな」
矢にはゴブリン特製の神経毒を仕込んである。
並みのモンスターなら一射で動けなくなる猛毒。
しかしそれは、モンスターだから効くのではなく、生物だから効くのだ。
岩が集まったヒートロックゴーレムは生物とは言いがたい。
「コアを壊さんことには、どうにもならん」
「コア?」
「ゴーレムはコアが本体だ。コアに岩が集まって身体を構築している」
「んー。それはつまり……。あの岩のどこかにあるコアを破壊しろ、と」
「そういうことだ」
「どうやって?」
「…………くるぞっ」
「あっ! またごまかぎゃああぁぁぁっ!!」
毎度、大袈裟な叫び声をあげながら、さりとてアリアは飛来する岩をスレスレで器用に避けている。
ラキスはさっきのように大楯兵にガードさせた。
――――――――――――――――――――
【名称】ゴブリンの大楯兵
【説明】省略
【スキル】
鉄壁の防御+ 《LV UP!!》
大楯コーティング(炎・熱) 《NEW!!》
かばう
――――――――――――――――――――
「ハァ、ハァ、ハァ。死ぬかと思ったよ」
ひとしきり岩に追われたアリアが、息を切らしてラキスの隣に逃げ込んできた。
「生きてて良かったな」
「ラキスは大楯があっていいなぁ」
アリアが恨めしそうに大楯を見上げる。
そんな彼女を、ラキスは一瞥して言った。
「貸さんぞ」
「ちぇっ、ケチ」
「この戦いが終わった貸してやる」
「それじゃ意味が無いんだよっ」
アリアが両手で口の端を引っ張って「イーーッ」とやっている。
怒りの自己表現まで幼いな。
とても成人を迎えているようには見えないが、これでも自称十六歳。
その話はさておき。
「ひとつ、案がある」
「大楯兵を増殖する裏ワザ?」
「そっちじゃない。コアを破壊する方法だ」
「ああ、そっちか。そうだった」
コイツ、大楯兵に気を取られて、本来の目的を見失っていやがったな。
色々と思うところはあるが、いま機嫌を悪くされても困るのも事実。
この方法では、アリアにも仕事をしてもらうことになっている。
「まず、コアは矢で破壊する。二、三射同じ場所を射抜けば問題なかろう」
「コアはどうやって見つけるの?」
「爆弾魔に爆破させる」
「おおっ、過激派だ」
「爆弾は一発だけ。そこでひとつ問題がある」
「なに?」と訊くアリアの顔は、どう見ても自分を枠外に置いているヤツの顔だった。
「爆弾に気づかれないようにしたい」
「うんうん、そうだね。気付かれたら大変だ」
「だからお前に囮をやってもらいたい」
「なるほど、なるほど。ボクが囮ね。……え! お、おとりぃぃぃ!?」
まるでノリツッコミのような驚き方だ。
元第二王女様は芸達者であらせられる。
「慌てるな。別にお前自身が囮になる必要はない」
「え? どういうこと?」
「お前は召喚士だろう」
召喚士ならモンスターを使え。
十分後。
ゴッ、ガッ、ゴッ、ドォーン!!
降るわ、降るわ、真っ赤な岩の雨。
ふたりは大楯兵に守られながら、時おり矢を射て抵抗の意思を見せる。
本気で攻めるのはもう少しあと。
いまは大楯兵、弓兵、爆弾魔を同時召喚して機を待っていた。
「どうだ?」
「見えないからわかんないよ」
「見えなければ感じろ。お前のモンスターだろう」
「無茶なこと言わないで。あっ、着いたみたい」
アリアの視線の先、ラキス達から二時の方向に切り立った崖がある。
その崖の上、やや平たくなったスペースにザントマンが立っていた。
ヒートロックゴーレムからは完全に死角。
ザントマンは、今度は高い場所から『眠りの砂』を撒く。
もちろん、眠らせられるとは思っていない。
そもそも、ヒートロックゴーレムに『目』があるのかもわからない。
だがアイツは、ついさっきザントマンの砂を腕で振り払った。
理由はわからないが、あの砂を危険だと感じているのだろう。
つまり、今回の砂も……。
「ウゴオオオオオォォォ!」
死角であるにもかかわらず、ヒートロックゴーレムは後方を振り向いて腕を振る。
眠りの砂がキラキラと光りながら、風圧で流されていった。
「いまだ!」
ゴブリンの爆弾魔がお手製の爆弾を投げ込む。
危険度が高い順に感知、処理しているのか、ヒートロックゴーレムは爆弾にもすぐに反応する。
「3」
しかし一度上向きに大きく振るった腕は、すぐに下へは戻せない。
腕をバラし、岩を宙に浮かせはじめた。
岩の雨で爆弾を排除するつもりのようだ。
「2」
ヒュンッ、ガッ!!
ヒュンッ、ヒュンッ、ガガッ!!
浮いた岩を、弓兵が連続で矢を射る。
さすがに全ての岩を打ち落とすには至らない。
しかし新たな敵意を感知したヒートロックゴーレムは、岩を飛ばす先を爆弾と弓兵に散らした。
「1」
ビュウ、と風を切って岩が飛んできた。
もちろん爆弾の方にも岩が向かっている。
だが、遅い。
「どかん」
ドゴオオオオオオォォォォン!!
凄まじい爆発音と共に、ヒートロックゴーレムの身体を構成していた岩が吹き飛んだ。
白く立ちこめる土埃の中。
ラキスは赤く煌めく光を視界に捉えた。
「あれだ!」
ラキスの指差した方へ、弓兵がすぐさま矢を放った。
ヒュオオオォォォ、ガガガッ!!
立ち上る白塵を貫いて、三本の矢がヒットした音。
パキッ、パリン。カラカラン。
想像していたよりもずいぶんと軽い音がした。
土埃が流れたあと、その場に残っていたのは四角錐の塊がふたつ。
元は四角錐の底面がくっついた形だと思われる。
赤いメタリックカラーの塊。
これがヒートロックゴーレムのコア。
「アリア」
「うん。……サモン。サクリファイス」
アリアの隣に眩いほどに美しい一角獣が現れる。
光に包まれたゴーレムのコアは、スイッとユニコーンの肢体へ飛び込んだ。
「ヒヒィーーーーーン!!」
直後、ユニコーンが前脚を上げていなないた。
これまでには見られなかった反応だ。
「ユニコーン! どうしたんだ!?」
「アリア。ランクアップだ」
フェアリーがドライアドになったときも。
ゴブリンたちが別のゴブリンになったときも。
これほどの反応が出たことはなかった。
聖獣にどのような変化が現れるのか。
ラキスにとっても興味深い。
白く輝いていた馬体が漆黒に染まる。
澄んだ碧眼が深紅になる。
大きさもひと回りふくらんだ。
「これが……新しいユニコーン」
アリアの前には体に炎を纏った黒い馬がいた。
短くなったが額に一本の角があるのは一角獣の名残り。
「いや、炎馬。これからもよろしく」
「ヒヒーーーーーン!! ブルルルルル」
ユニコーン、もとい炎馬は、意気込むかのように足踏みした。
「でも……もう君には乗れないね」
体の至るところに炎を纏った馬。
もちろんタテガミも燃え上がっている。
これにまたがるのは、自殺行為と言わざるを得ない。
アリアは少し哀しげ瞳で、すっかりたくましくなった相棒を見つめた。
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