28 / 45
第三章 一世一代の大博打
ドラゴンのようなゴブリンだからドラゴブリン
しおりを挟むラキス、アリア、アークの三人が、古龍について話し合っている。
そこへ音も立てず、気配も無く、一匹のゴブリンがスッと現れた。
「ん、戻ったか」
ゴブリンの密偵が帰ってきた。
召喚状態を維持したままでの単独行。
気配遮断、忍び足、上級開錠技術。
このゴブリンのスキルは潜入に特化している。
ロゴールの部屋から金を奪ったときにも活躍したゴブリンだ。
こいつが宮廷、さらには王宮へと潜り込み、アリアの手紙をプレシアへと届けてきた。
「ボクも行きたかった……」
ゴブリンを行かせる、と伝えたときと同じようにアリアが文句を言う。
「お前じゃ、姉の部屋にたどりつく前に捕まる」
「そもそも人が忍び込める場所じゃないですし」
「それはわかってるけどさぁ」
理解はしているが、納得はできない。
そんな顔でアリアは口をとがらせていた。
「だいたい行ってどうするんだ。姉に挨拶でもするつもりか?」
まだ里心が抜けないのか、と暗に伝える。
「そんなつもりはないけどさ。プレシア姉さんの顔を、遠くからでも見ておきたいって思っただけ」
もう二度と会えないかもしれない。
別れの言葉も交わせていない。
そう思えば顔くらい見たいとも思う、か。
弟と突然の別れを強いられたラキスにも、彼女の気持ちがわからないではない。
「……即位式」
「え?」
「即位式なら、王女も公の場に出るだろう」
「……うん。そっか、即位式か。そうだな!」
姉に会える、とまではいかないが、遠くから見るくらいの願いは叶うだろう。
「目標が出来たのは良いことです」
そう同調するアークの顔は、まったく『良いこと』という顔をしていない。
「ですが、ルシガーの野望を止めなくては、王国も即位式どころではなくなりますよ」
「……ううぅ」
もしルシガーが古龍を手に入れたなら、真っ先に支配されるのはこの王国だ。
逆にルシガーが古龍を支配出来なくても、目覚めた古龍が襲うのはこの王国だ。
どちらにせよ、即位式など悠長なことをしている余裕は無いだろう。
この王国の未来は、非常に危ういところまできている。
「でもでも! それはプレシア姉さんに手紙を届けたわけだし」
アークが右手を額にあて、「ハァ」とこれ見よがしなため息をつく。
「それは打てる手のひとつでしかありません。王国が立場上、ヤツに意見を出来なかったら? ヤツが王国の言うことを聞かなかったら? 次善の策は、常に用意しておく必要があります」
正論すぎてアリアも反論の余地がないようだ。
少しうつむき「そうだけど」とつぶやいている。
「そうアリアをいじめるな。 別に人任せにするつもりで言ったわけじゃない。 ただ、平穏な未来に期待したいだけだ」
ラキスがフォローを入れると、アークは眉根を寄せた。
「ラキスさんはアリアさんに甘すぎます!」
「お、おう。……すまん」
あまりの剣幕に思わず謝ってしまった。
あの山から戻って以降、アークは少し変わったようだ。
喋り方は今まで通り。
だが、ハッキリ言うようになったというか、猫を被っていたのが素に戻った感じがする。
「さて、次善の策についてですが……」
「俺たちのレベルアップ」
「ご名答。正確にはラキスさんとアリアさんのパワーアップです」
これを策と呼ぶのか、という疑問はあるが。
前にアークが言っていたとおり、人を集める、というのは現実的ではない。
禁足地、踏み入った者は二度と帰れない。
そんな場所を護るために集まる者などいるまい。
ならば、今ある戦力の増強は当然の選択。
「なんでボクとラキスだけなの? アークもパワーアップした方がいいじゃん」
「時間があれば、そうしたいところですけどね。 剣技の成長曲線はどんどん緩やかになるんです」
アークの剣技はすでに一定以上のレベルにある。
これ以上を求めるのであれば、相応の時間とコストが必要になってくる。
つまりパワーアップを図るには効率が悪い。
「その点、ラキスさんとアリアさんなら――」
「そっか! モンスターを育てればいいのか!!」
アリアは飛び跳ねるように体を起こし、瞳をらんらんと輝かせている。
「そのことで、アークにひとつ頼みがある」
「なんでしょう?」
ラキスが「サモン」とつぶやくと、一匹のゴブリンが隣に姿を現した。
そのゴブリンは、ほかのゴブリンとは少し違う。
額には小さな二本の角。
背中には翼竜のような翼が一対。
紅葉色の肌には鱗のようなものがある。
「こいつは、赤と白のドラゴンを生贄にしたゴブリン、ドラゴブリンだ」
――――――――――――――――――――
【名称】ドラゴブリン
【説明】
生贄によってドラゴンの力を得たゴブリン。
鱗はあるがそれほど堅くない、翼はあるが飛ぶことはできない。
「あれはドラゴンなのか? ゴブリンなのか?」
「そりゃおまえ、ゴブリンだろうよ」
「うわっ! 火を吹いたぞ!! やっぱりドラゴンじゃないか」
「火を吹けばドラゴンってぇなら、あそこの旅芸人もドラゴンってことになるな」
【パラメータ】
レアリティ C
攻撃力 C
耐久力 C
素早さ D
コスト B
成長性 A
【スキル】
火炎の息吹
炎耐性(中)
――――――――――――――――――――
「ああ、覚えていますよ。 たしかアリアさんが盛大にお腹を鳴らしたときの」
「その話はいま要らなくない⁉」
顔を真っ赤にしたアリアが、アークに全身で抗議の声を上げている。
「こいつに剣技を教えて欲しい」
「モンスターに剣を、ですか?」
「弓は時間をかければ的に当たるようになったが、剣は相手がいないことには練習にならなくてな」
剣術を学んだことも無いラキスでは、ゴブリンに剣を仕込むことは出来なかった。
だからずっと弓兵が戦力の中心。
野良で契約したゴブリンは色々いるが、元々、戦闘技術に特化した種ではない。
契約したゴブリンのほとんどは、原始的な戦い方をするただのゴブリン。
たまに変わったヤツも出てくるが、爆弾魔みたいな尖ったヤツばかり。
生き残れば勝ちという防衛戦ばかりの頃は、前衛は大楯兵で事足りた。
だがこの前は、その弱点を突かれたかたちだ。
もし剣士がいたならば、易々とルシガーを取り逃すことはなかっただろう。
ラキスの隣で、アリアがゴブリンの弓兵や大楯兵について説明している。
モンスターを育成する、という突飛な話。
最初のうちはアークも怪訝な顔をしていたが、最後は無理やり納得することにしたらしい。
「なるほど。わかりました。生贄を見たときも驚きましたが、モンスターが剣術や弓術を習得するとは。私からしたら、もはや怪奇現象ですよ」
ラキスさんが全ての元凶ですけどね、とアークが肩をすくめる。
なんにせよ、納得してくれたのならいい。
「コイツはここに置いていくから、みっちり鍛えてやってくれ」
ドラゴブリンの頭をポンポンと叩く。
「&:%○■!※♭×☆!!」
気合の入った返事が戻ってきた。
本人もやる気満々だ。
「じゃあ、ラキスはボクに付き合ってね!」
「そのつもりだ」
アリアはニッコニコの笑顔で、ラキスの外套の袖を引いた。
かたや、アークは再び目を丸くしている。
「フフッ。召喚を維持したまま、自分は別の場所でパワーレベリングですか。薄々感じてましたが、あなたもバケモノですね」
やや引きつった笑いをしていたが、ラキスはいつも通り気にしないことにした。
「このあたりでモンスターが多い場所は?」
ラキスの問いにアークが指差したのは、先日も登った古龍の眠る山だった。
「あの山にある洞穴がオススメです。古龍が眠っているからでしょうか……。ほかよりもモンスターが少し狂暴ですけど」
ラキスさんなら問題ないです、とアークは笑った。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる