42 / 48
WORKS4 転生社畜、女子高生とはじめる
💰ボクと取引をしない?
しおりを挟む夕食の間、ダリスはずっと「もうダメだ」とか、「出る杭は叩かれるんだ」とか、「クレープもいいな」とか、一人でブツブツと呟いていた。
すっかり参ってしまったらしいダリスの様子に、チトセはチャンスが訪れたことを確信する。
真っ青な顔で執務室へと戻っていく、ダリスの背中を静かに追う。
頭の中がいっぱいいっぱいなのだろう。
チトセがすぐ後ろを歩いているのに全く気づかない。
ダリスが入った執務室の扉は、あの日からずっと壊れたまま。
本来開く方向とは逆側に開いている扉を、静かにノックして室内に入る。
「……チトセか。何の用だ?」
いい加減、助けを求めれくればいいものを。
こんなにボロボロの状態になっても尚、チトセの前では強がった態度を崩さない。
チトセが扉を壊した日から、二人の間にはちょっとした溝ができている。
だからチトセは、自身の目的のためにこの溝を利用することにした。
困っているダリスをここまで放っておいたのは、そのために必要だったから。
チトセは満を持してダリスに問いかける。
「ねえ、ボクと取引をしない?」
「取引?」
そう。取引だ。
ダリスと出会った日にも、二人は取引をした。
チトセは彼にこの世界で生きていくためのサポートをしてもらう代わりに、彼の剣となってモンスターと戦うことを約束した。
あの頃のチトセは、取引に出せるモノなんて何も持っていなかった。
だけど、今は違う。
ホークスブリゲイドの人海戦術によって、ダリスは危急存亡《ききゅうそんぼう》の秋《とき》を迎えた。
今こそ、チトセにとって有利な条件を引き出せる千載一遇のチャンス。
「ボクが、ダリスを勝たせてあげるよ」
「………………」
しばらく待つも、返事が返ってこない
「ホークスブリゲイドに、ショウに勝ちたくないの?」
「………………」
返事どころか反応もない。
ただの屍じゃないんだから、「うん」とか「すん」とか「ぽん」とか言ってくれ。
デスクに置かれた燭台の薄明りに、ぼおっとダリスの顔が照らされている。
顔はチトセの方を向いているのに、よくよく見たら目の焦点が合っていない。
まるで幽鬼のような顔をしたダリスが小さく口を開く。
「……そうだな。……チトセなら、アイツにも勝てるんだろうな。きっと」
「ダリス?」
「でもそれは、チトセが勝つんであって、俺が勝つわけじゃない」
「なに言って――」
「そうじゃないか! 俺なんかじゃショウには勝てないって、だから自分が力を貸してやるって、そう言いたいんだろ!?」
ダリスの両掌《りょうて》がテーブルを強く叩いた。
バンッと音が響いたあとは、堰を切ったように、次から次へと言葉がこぼれ出す。
「俺は……前世で社畜だったんだ。来る日も来る日も、与えられたノルマをこなすために営業をかけて、上司から指示されたとおりに交渉をして、終電で帰って、始発で出社して、もちろん勤怠システムは九時六時に固定で残業代なんか都市伝説。何のために仕事をしているのか、この仕事がどういう役に立っているのか、わからないまま、わかろうともしないまま、ただ命令されるがままに意思もなく働き続ける、会社に飼われた家畜だった。
だからこの世界に転生して、真・鑑定のスキルに気がついたときは本当に興奮した。他人のステータスを判別できるこの能力さえあれば、今度こそ俺は成り上がることができるって、俺だって何者かになれるって、そう思ったんだ。
でも……世の中はそんなに甘くないってことだよな。俺なんか器じゃないっていうか、生まれ変わっても無能は無能っていうか、きっとこの世界でも…………って。ねえ、俺の話、聞いてる?」
大きなあくびを左手で隠しながら、チトセはコクコクとうなずく。
「聞いてた。ダリスは前世で社畜だったんだね。そっか、そっか」
「一番最初のワンセンテンスで力尽きてんじゃねえか」
仕方がないじゃない。
オッサンの自分語りとか、校長の式辞挨拶と同じくらい退屈なんだから。
ましてや中身がオッサンの前世語りなんて、眠らずに起きていられただけでも褒めて欲しいくらいだ。近代史の授業の方が何倍も面白い。
「大変だったんだなあ、って思いましたまる」
「感想が小学生並みっ!!」
「それはともかく。ダリスは大きな間違いをしているよ」
「間違い?」
「そう。大きな大きな間違い。ダリスに本当に必要なものは、モンスターを倒す戦闘力でもなければ、駆け引きを制する頭脳でもない。もちろん、ビジネスの知識なんかでは絶対にない」
「なんだよ、それ。戦闘力でもなくて、頭脳でもなくて、じゃあ、本当に必要なものってなんなんだよ」
「それはね、『決める』こと」
「決める?」
世に経営者と呼ばれる人は数多いるが、生き残れる者はそう多くはない。
では生き残れる者と、敗れ去る者の大きな違いはなにか。
「生き残るために、勝つために、何をすればいいかを判断する。考える役目は自分でなくたって構わない。選択肢はどれも正しく見えるけど、選べるものは一つだけ。それでも歯を食いしばって選ぶ。それが『経営者』に本当に必要なもの」
それは正しい判断と、迅速な決断である。
正しい判断を出来なければ会社は衰退していくし、決断を先延ばしにするほど問題は大きくなっていく。
もちろん技術レベルが高かったり、営業スキルが高い経営者は優秀だ。
でもそれらは、社内、もしくは社外の人に任せることができる。
唯一、判断と決断だけは絶対に経営者がやらなくてはならない。
今の状況だって元はといえば、ショウから取引を持ち掛けられたときに、ダリスがくだらない理由で断った――判断を間違った――ことから始まっている。だけどまだ、ここから巻き返すことはできる。
「それじゃあ、もう一度聞くよ。ボクと取引をしない?」
これでも決断できないようなら、彼はそれまでの男だということだ。
だけど、ダリスならきっと。
💰Tips
【危急存亡の秋】
生き残れるか、滅亡するかの瀬戸際の時期。
危急存亡の“時”ではない。
三国志に登場する諸葛亮孔明が書いたとされる文書に記されていた「今天下三分して、益州疲弊す。 此れ誠に危急存亡の秋なり」に由来する。
秋は生きていくのに欠かせない穀物の収穫時期であり、一年で最も重要な季節であったことから、『重大な時期』という意味がある。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる