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WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
🤑幕間のアオハ その3
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「いらっしゃい、アオハ。久しぶりだね」
「私もダリスお兄様に会えて嬉しいですわ」
いまアオハは、ダリスが暮らしている屋敷の応接室にいる。
遠巻きに様子を見るだけのつもりだったのだけど、双眼鏡で覗いているところを奴隷に見つかって、あれよあれよという間にココに座らされていた。
「ちょっと待ってて。今、お茶を入れてきて貰うから」
ああ、本物のお兄様が目の前にいらっしゃる。
アオハは少しでもダリスの匂いを感じようと、大きく深呼吸をする。
すーーーーっ、すーーーーっ、すーーーーっ。くるしぃ。
でも、せっかく肺に取り込んだこの空気を放出したくない。
そんなもったいないこと……でき……な、あ、流石にもう限界だ。
はああああぁぁぁぁーーーーーーっ。
「お待たせしました」
ちょうど深呼吸が終わったところで、テーブルにお茶が届いた。
持ってきたのはウサギの亜人だ。
執事のルピリオから聞いてはいたけれど、人間によく似た見た目でありながら耳は動物のそれというアンバランスな異形。こんな気色の悪い生物と一緒に生活をするなんて、アオハにはとても耐えられない。
こんな異形が持ってきた飲み物なんて……、気持ち悪くて飲めたものではない。
アオハは差し出されたお茶には手をつけず、ダリスの顔をじっと見つめる。
そもそもお茶なんて要らなかったのだ。
ただダリスさえ居てくれれば、ほかには何も要らない。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「えっ、あっ、ダリスお兄様が奴隷を買われたと伺ったものだから、ちょっと見てみたいなって思ったんですの」
ダリスの顔に見惚れていたところに、いきなり質問をしてくるものだから慌ててしまった。遠くから様子を見て帰るつもりだったから、訪問の理由なんてものはない。
結果的に『ダリスお兄様が奴隷とどんな風にイチャイチャしているのか見たかった』という気持ちが、薄いオブラートに包まれて口から飛び出した。
「わざわざ奴隷を見に? クラノデア家にだって奴隷くらい――」
「私はお兄様の奴隷を見たいんです。怪しい奴隷を買わされてたりしてないか、妹が心配して何か問題でも?」
「お、おう、そうか。いや、特に問題はないよ。俺ってそんなに信用ないのか……。うん。……ジュハ、ちょっとチトセとヨミを呼んできてくれ。妹に紹介したいんだ」
しばらくして、二人の女奴隷が応接室へと入ってきた。
「チトセです。ダリスにこんな素敵な妹さんがいたなんて――」
チトセと名乗った黒髪黒目の女。彼女が口にした言葉にアオハは怒りで顔が熱くなった。今、あの女は愛しい兄のことを『ダリス』と呼んだのだ。
「ちょっと待ちなさい。ダリスお兄様を呼び捨てにするなんて、どういう了見なのかしら?」
憤るアオハと、何を怒っているのかわからないという顔で首を傾げるチトセ。突如として発生した剣呑な空気の間にダリスが割って入る。
「いいんだ、アオハ。彼女は異国の出身ということもあって文化が違うから、そのあたりは自由にさせているんだ。この国の言葉だって、最近覚えたばかりだし――」
「でも、お兄様。こういうことは早いうちにしっかり躾けておかなくては、奴隷の恥は家の恥になってしまいますのよ」
「わかってる。わかっているから。そのあたりは追々、な。ほら、次の奴隷を紹介するから」
言い分には全く納得できなかったのだけれど、ダリスがそこまで言うのならと不承不承ながらアオハは矛を収めることにした。
黒髪黒目のクソ奴隷の後方、隠れるように立っているもう一人の女奴隷に「さっさと名乗りなさい」という思いを籠めた視線を投げる。
「……………………」
「……………………」
しかし、待てど暮らせど口を開く様子がない。
ただただ沈黙の時間が流れる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
すぐにでも「これは何の時間なのよ!!」と叫びたいのは山々だ。
しかし、この場ではすでに我慢比べが始まっていた。
ルールは簡単、先に口を開いた方が負け。
女と女の意地がぶつかり合う戦場がここにあった。
アオハはただ黙って女を見つめる。
それにしても、なんと顔の整った女だろう。
貴族でも、これほどの美形はそうそうお目に掛かれない。
さらに豊満なバストと引き締まったウエスト。
アオハは先ほどから「えっろおおおぉぉぉっ!!」と声を張り上げたいのを、貴族令嬢のプライドで押しとどめている。我慢比べに負けたくないという一心が、魂の叫びを封じていた。
永遠に続くかと思われた無音の空間。
耐えきれずに静寂を破ったのは、
「彼女の名前はヨミだ」
最愛の兄、ダリスであった。
💰Tips
【不当廉売】
採算度外視の価格設定など、不当に安い価格で商品やサービスを提供すること。
ダンピングとも呼ばれ、適切な価格で商品を提供している事業者が、不当に不利益を被るため法律等で規制されている。
ダリスの『うろこの盾』は主な原料の一つである『ナーガリザードの鱗』の原価が不明(相場価格が存在しない)であるため、不当廉売に該当するかを筆者には判断することができないが、結果的に不当廉売と同様の結果を引き起こすことは想像できる。
【おねがい】
こちらで『WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける』・完 です。
続いて『WORKS4 転生社畜、女子高生とはじめる』をお楽しみください。
WORKS4 にて完結。ここからが本作のクライマックスです。
よければ最後までお付き合いください。
手に汗握る剣と魔法のバトルはこの後もありません。
もし、お気に入りに登録がまだの方はそろそろ【★お気に入りに追加】のボタンをどうぞ。
感想もお待ちしております。
また、本作は『第16回ファンタジー小説大賞』のエントリー作品となります。
読者投票の候補として頂けると嬉しいです。
「私もダリスお兄様に会えて嬉しいですわ」
いまアオハは、ダリスが暮らしている屋敷の応接室にいる。
遠巻きに様子を見るだけのつもりだったのだけど、双眼鏡で覗いているところを奴隷に見つかって、あれよあれよという間にココに座らされていた。
「ちょっと待ってて。今、お茶を入れてきて貰うから」
ああ、本物のお兄様が目の前にいらっしゃる。
アオハは少しでもダリスの匂いを感じようと、大きく深呼吸をする。
すーーーーっ、すーーーーっ、すーーーーっ。くるしぃ。
でも、せっかく肺に取り込んだこの空気を放出したくない。
そんなもったいないこと……でき……な、あ、流石にもう限界だ。
はああああぁぁぁぁーーーーーーっ。
「お待たせしました」
ちょうど深呼吸が終わったところで、テーブルにお茶が届いた。
持ってきたのはウサギの亜人だ。
執事のルピリオから聞いてはいたけれど、人間によく似た見た目でありながら耳は動物のそれというアンバランスな異形。こんな気色の悪い生物と一緒に生活をするなんて、アオハにはとても耐えられない。
こんな異形が持ってきた飲み物なんて……、気持ち悪くて飲めたものではない。
アオハは差し出されたお茶には手をつけず、ダリスの顔をじっと見つめる。
そもそもお茶なんて要らなかったのだ。
ただダリスさえ居てくれれば、ほかには何も要らない。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「えっ、あっ、ダリスお兄様が奴隷を買われたと伺ったものだから、ちょっと見てみたいなって思ったんですの」
ダリスの顔に見惚れていたところに、いきなり質問をしてくるものだから慌ててしまった。遠くから様子を見て帰るつもりだったから、訪問の理由なんてものはない。
結果的に『ダリスお兄様が奴隷とどんな風にイチャイチャしているのか見たかった』という気持ちが、薄いオブラートに包まれて口から飛び出した。
「わざわざ奴隷を見に? クラノデア家にだって奴隷くらい――」
「私はお兄様の奴隷を見たいんです。怪しい奴隷を買わされてたりしてないか、妹が心配して何か問題でも?」
「お、おう、そうか。いや、特に問題はないよ。俺ってそんなに信用ないのか……。うん。……ジュハ、ちょっとチトセとヨミを呼んできてくれ。妹に紹介したいんだ」
しばらくして、二人の女奴隷が応接室へと入ってきた。
「チトセです。ダリスにこんな素敵な妹さんがいたなんて――」
チトセと名乗った黒髪黒目の女。彼女が口にした言葉にアオハは怒りで顔が熱くなった。今、あの女は愛しい兄のことを『ダリス』と呼んだのだ。
「ちょっと待ちなさい。ダリスお兄様を呼び捨てにするなんて、どういう了見なのかしら?」
憤るアオハと、何を怒っているのかわからないという顔で首を傾げるチトセ。突如として発生した剣呑な空気の間にダリスが割って入る。
「いいんだ、アオハ。彼女は異国の出身ということもあって文化が違うから、そのあたりは自由にさせているんだ。この国の言葉だって、最近覚えたばかりだし――」
「でも、お兄様。こういうことは早いうちにしっかり躾けておかなくては、奴隷の恥は家の恥になってしまいますのよ」
「わかってる。わかっているから。そのあたりは追々、な。ほら、次の奴隷を紹介するから」
言い分には全く納得できなかったのだけれど、ダリスがそこまで言うのならと不承不承ながらアオハは矛を収めることにした。
黒髪黒目のクソ奴隷の後方、隠れるように立っているもう一人の女奴隷に「さっさと名乗りなさい」という思いを籠めた視線を投げる。
「……………………」
「……………………」
しかし、待てど暮らせど口を開く様子がない。
ただただ沈黙の時間が流れる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
すぐにでも「これは何の時間なのよ!!」と叫びたいのは山々だ。
しかし、この場ではすでに我慢比べが始まっていた。
ルールは簡単、先に口を開いた方が負け。
女と女の意地がぶつかり合う戦場がここにあった。
アオハはただ黙って女を見つめる。
それにしても、なんと顔の整った女だろう。
貴族でも、これほどの美形はそうそうお目に掛かれない。
さらに豊満なバストと引き締まったウエスト。
アオハは先ほどから「えっろおおおぉぉぉっ!!」と声を張り上げたいのを、貴族令嬢のプライドで押しとどめている。我慢比べに負けたくないという一心が、魂の叫びを封じていた。
永遠に続くかと思われた無音の空間。
耐えきれずに静寂を破ったのは、
「彼女の名前はヨミだ」
最愛の兄、ダリスであった。
💰Tips
【不当廉売】
採算度外視の価格設定など、不当に安い価格で商品やサービスを提供すること。
ダンピングとも呼ばれ、適切な価格で商品を提供している事業者が、不当に不利益を被るため法律等で規制されている。
ダリスの『うろこの盾』は主な原料の一つである『ナーガリザードの鱗』の原価が不明(相場価格が存在しない)であるため、不当廉売に該当するかを筆者には判断することができないが、結果的に不当廉売と同様の結果を引き起こすことは想像できる。
【おねがい】
こちらで『WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける』・完 です。
続いて『WORKS4 転生社畜、女子高生とはじめる』をお楽しみください。
WORKS4 にて完結。ここからが本作のクライマックスです。
よければ最後までお付き合いください。
手に汗握る剣と魔法のバトルはこの後もありません。
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また、本作は『第16回ファンタジー小説大賞』のエントリー作品となります。
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