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WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
💰ATTENTION PLEASE
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「ジュハ! 殺人蜂が二、いや三匹!」
「はい!」
その名の通り人を殺せるサイズ……には及ばないが、ラウンドシールドにコイン大の穴を空ける程度には巨大な針をお尻につけた、蜂型モンスターが飛来する。
ここは静かな湖畔のダンジョンでも人気のエリア。
湖を中心にエリア面積が広く、見晴らしも良いことから、比較的安全度が高いことが人気の理由だ。
冒険者も人の子、命より大切なものはない。
安全度が高いエリアで地道に実力を積み上げ、ゆっくりと冒険者として成長していくという選択肢。
クランなどの後ろ盾を持たない、フリーの冒険者たちが取り勝ちなコースである。
当然ながら、人が多いということはライバルとモンスターの取り合いとなるわけで、魔光石の稼げるスピードは全く期待できない。
それがわかっているから、普段のダリス達は敵が強くて魔光石が大きい、限られた冒険者しか来れない奥地へと進み、全滅=死というリスクを背負いながらモンスターを狩っている。
ならば、今さらこんな場所で何をしているのか。
ダリスはチトセの授業を思い出す。
――Attention(認知)
「AIDAは『最も古い購買行動モデル』なんて呼ばれているんだけど、それでも提唱されたのは1920年代。ラジオをあるけどテレビはない、くらいの時代をイメージしてみて。
新聞広告や看板広告を中心とした広告展開。当時の企業は広告によって消費者に『認知』を促してたってわけ。だけど、どうやらこの世界にはまだ『広告』という概念がないみたい。
だったら、どうやって『認知』させたらいいのか、を考えればいい」
ダリスが出した結論は『実演販売』だった。
本当にテーブルを前にして「いくわよ」と実演販売をするわけではない。
ターゲットが集まっている場所――つまりはダンジョンで、モンスター相手にうろこの盾の性能を冒険者たちに見せつけるのだ。
このクールで画期的なアイデアをチトセに伝えると、
「やり口がステマくさい。けど、異世界だし、ネットも無いから別にいいけど」
と苦笑いされた。
ステマってなんだっけ。聞いたことがあるような、ないような。
キラービーの針を、ジュハがうろこの盾で受ける。
角度的にも、速度的にも、おそらく体捌きだけでもかわせただろう。
しかし今回は、なるべく盾で受けるようにとジュハに指示を出しておいた。
針はうろこの盾の凹凸に弾かれ、キラービーが体勢を崩す。
そこを狙って、チトセの大剣が一閃。
キラービーは炎に巻かれながら真っ二つになった。
瞬く間にモンスターの群れは退治された。
頑強なうろこによって作り上げた盾には、かすり傷の一つもついていない。
「あ、あのっ!」
若い青年の声。
ショートソードにラウンドシールド、ハードレザーアーマー。
ジュハと同じく典型的な軽戦士の見た目をした冒険者が声を掛けてきた。
「僕、ですか?」
「突然すみません。もしかして……神速のジュハさんですか?」
エサに反応あり。
ダリスが『実演販売』を思いついた理由の一つはコレだ。
街でダリスが『奴隷遣い』と呼ばれるように、『神速のジュハ』も回避型タンクとして名前が知られてきている。
それは広告塔としても活用できる、ということだ。
「やっぱりそうだ! ジュハさん、その盾……見た目はちょっと怖いですけど、キラービーの針も弾いちゃうなんて凄いですね」
やはり見た目の問題は今後の大きな課題だ。
だけど、このうろこの盾には、外見のマイナスを補って余りある魅力が詰まっている。それをジュハが伝えてくれれば、Attention(認知)はInterest(興味、関心)に繋がっていくハズ。
「そうなんですよ。キラービーの針どころか、バクラージの角ミサイルだって弾いちゃうんですから」
「角……ミサイル?」
あっ、ジュハのバカ!
全然うろこの盾と関係ないところに引っ掛かってしまった。
角ミサイルは造語だから伝わらないぞ。
そもそもこの世界には『ミサイル』という概念がない。ダリスがなんとなくノリで呼んでいたらパーティーの中で浸透してしまっただけだ。
「あっ、角です、角! バクラージが飛ばしてくる角のことです。僕なんて、あれに何度ラウンドシールドを割られたことか……。でも、この『うろこの盾』なら大丈夫。なぜなら、硬質で有名なモンスターの鱗が使われているんですから」
「モンスターの鱗!?」
「そうです。堅くて軽い、モンスターの鱗です。だからこそ、この盾は軽戦士でも装備できる軽さと、金属製の盾にも負けない頑強さを兼ね備えることができているんです。…………ちょっと、持ってみますか?」
モンスターの鱗が使われていると聞いて身構えていた冒険者だが、好奇心に負けたのか、断れない性格なのか、ジュハが差し出した盾をおずおずと受け取った。
「うわっ。軽い。ラウンドシールドより少し重たいくらいで、金属製の盾とは比べ物にならない軽さだ」
冒険者は盾を上げたり、下げたり。
盾の前面にある鱗を撫でてみたり。
すっかり興味津々だ。
「まるで金属みたいな硬さ。それに鱗の特性を生かして丸みをつけてある。これがキラービーの針を受け流すように弾いた仕掛けか……」
つい最近、全く同じ感想をジュハから聞いたな。
冒険者はしばらく吟味していたうろこの盾をジュハへと返却しながら、
「すごい。ジュハさん、この盾ってどこで手に入るんですか?」
と訪ねてきた。
Interest(興味、関心)からDesire(欲求)へと購買行動が進んだ瞬間だった。
💰Tips
【実演販売】
主に百貨店やデパート、ショッピングセンターなどの一角で、道行く不特定多数のお客に対して実際に商品を使用するところを見せながら販売する手法。
起源は平安時代とも室町時代とも言われているが、有名なものは江戸時代に始まった『ガマの油売り』や、明治時代に始まった『バナナの叩き売り』だろう。
テレビ通販の登場によって、より多くの人々に実演販売の手法を応用することで、大ヒット商品がいくつも生まれた。同時にカリスマ実演販売士と呼ばれるタレントも登場するようになった。
最近では、動画配信を利用して商品を販売する実演販売士も増えている。
「はい!」
その名の通り人を殺せるサイズ……には及ばないが、ラウンドシールドにコイン大の穴を空ける程度には巨大な針をお尻につけた、蜂型モンスターが飛来する。
ここは静かな湖畔のダンジョンでも人気のエリア。
湖を中心にエリア面積が広く、見晴らしも良いことから、比較的安全度が高いことが人気の理由だ。
冒険者も人の子、命より大切なものはない。
安全度が高いエリアで地道に実力を積み上げ、ゆっくりと冒険者として成長していくという選択肢。
クランなどの後ろ盾を持たない、フリーの冒険者たちが取り勝ちなコースである。
当然ながら、人が多いということはライバルとモンスターの取り合いとなるわけで、魔光石の稼げるスピードは全く期待できない。
それがわかっているから、普段のダリス達は敵が強くて魔光石が大きい、限られた冒険者しか来れない奥地へと進み、全滅=死というリスクを背負いながらモンスターを狩っている。
ならば、今さらこんな場所で何をしているのか。
ダリスはチトセの授業を思い出す。
――Attention(認知)
「AIDAは『最も古い購買行動モデル』なんて呼ばれているんだけど、それでも提唱されたのは1920年代。ラジオをあるけどテレビはない、くらいの時代をイメージしてみて。
新聞広告や看板広告を中心とした広告展開。当時の企業は広告によって消費者に『認知』を促してたってわけ。だけど、どうやらこの世界にはまだ『広告』という概念がないみたい。
だったら、どうやって『認知』させたらいいのか、を考えればいい」
ダリスが出した結論は『実演販売』だった。
本当にテーブルを前にして「いくわよ」と実演販売をするわけではない。
ターゲットが集まっている場所――つまりはダンジョンで、モンスター相手にうろこの盾の性能を冒険者たちに見せつけるのだ。
このクールで画期的なアイデアをチトセに伝えると、
「やり口がステマくさい。けど、異世界だし、ネットも無いから別にいいけど」
と苦笑いされた。
ステマってなんだっけ。聞いたことがあるような、ないような。
キラービーの針を、ジュハがうろこの盾で受ける。
角度的にも、速度的にも、おそらく体捌きだけでもかわせただろう。
しかし今回は、なるべく盾で受けるようにとジュハに指示を出しておいた。
針はうろこの盾の凹凸に弾かれ、キラービーが体勢を崩す。
そこを狙って、チトセの大剣が一閃。
キラービーは炎に巻かれながら真っ二つになった。
瞬く間にモンスターの群れは退治された。
頑強なうろこによって作り上げた盾には、かすり傷の一つもついていない。
「あ、あのっ!」
若い青年の声。
ショートソードにラウンドシールド、ハードレザーアーマー。
ジュハと同じく典型的な軽戦士の見た目をした冒険者が声を掛けてきた。
「僕、ですか?」
「突然すみません。もしかして……神速のジュハさんですか?」
エサに反応あり。
ダリスが『実演販売』を思いついた理由の一つはコレだ。
街でダリスが『奴隷遣い』と呼ばれるように、『神速のジュハ』も回避型タンクとして名前が知られてきている。
それは広告塔としても活用できる、ということだ。
「やっぱりそうだ! ジュハさん、その盾……見た目はちょっと怖いですけど、キラービーの針も弾いちゃうなんて凄いですね」
やはり見た目の問題は今後の大きな課題だ。
だけど、このうろこの盾には、外見のマイナスを補って余りある魅力が詰まっている。それをジュハが伝えてくれれば、Attention(認知)はInterest(興味、関心)に繋がっていくハズ。
「そうなんですよ。キラービーの針どころか、バクラージの角ミサイルだって弾いちゃうんですから」
「角……ミサイル?」
あっ、ジュハのバカ!
全然うろこの盾と関係ないところに引っ掛かってしまった。
角ミサイルは造語だから伝わらないぞ。
そもそもこの世界には『ミサイル』という概念がない。ダリスがなんとなくノリで呼んでいたらパーティーの中で浸透してしまっただけだ。
「あっ、角です、角! バクラージが飛ばしてくる角のことです。僕なんて、あれに何度ラウンドシールドを割られたことか……。でも、この『うろこの盾』なら大丈夫。なぜなら、硬質で有名なモンスターの鱗が使われているんですから」
「モンスターの鱗!?」
「そうです。堅くて軽い、モンスターの鱗です。だからこそ、この盾は軽戦士でも装備できる軽さと、金属製の盾にも負けない頑強さを兼ね備えることができているんです。…………ちょっと、持ってみますか?」
モンスターの鱗が使われていると聞いて身構えていた冒険者だが、好奇心に負けたのか、断れない性格なのか、ジュハが差し出した盾をおずおずと受け取った。
「うわっ。軽い。ラウンドシールドより少し重たいくらいで、金属製の盾とは比べ物にならない軽さだ」
冒険者は盾を上げたり、下げたり。
盾の前面にある鱗を撫でてみたり。
すっかり興味津々だ。
「まるで金属みたいな硬さ。それに鱗の特性を生かして丸みをつけてある。これがキラービーの針を受け流すように弾いた仕掛けか……」
つい最近、全く同じ感想をジュハから聞いたな。
冒険者はしばらく吟味していたうろこの盾をジュハへと返却しながら、
「すごい。ジュハさん、この盾ってどこで手に入るんですか?」
と訪ねてきた。
Interest(興味、関心)からDesire(欲求)へと購買行動が進んだ瞬間だった。
💰Tips
【実演販売】
主に百貨店やデパート、ショッピングセンターなどの一角で、道行く不特定多数のお客に対して実際に商品を使用するところを見せながら販売する手法。
起源は平安時代とも室町時代とも言われているが、有名なものは江戸時代に始まった『ガマの油売り』や、明治時代に始まった『バナナの叩き売り』だろう。
テレビ通販の登場によって、より多くの人々に実演販売の手法を応用することで、大ヒット商品がいくつも生まれた。同時にカリスマ実演販売士と呼ばれるタレントも登場するようになった。
最近では、動画配信を利用して商品を販売する実演販売士も増えている。
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