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WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
💰スタートアップ
しおりを挟む「スタートアップって起業のことじゃないのか?」
事業を起こす、と書いて起業。それならダリスだってやっている。
奴隷を買って、ダンジョンで魔光石を集める事業を始めたのだから、起業といって差し支えないだろう。
しかしチトセは口の端を上げて笑うと、首を横に振った。
「それはよくある勘違い。スタートアップでも、スモールビジネスでも、事業を起こせば全て起業だよ。でもその二つは、目的も、ターゲットも、成長曲線も、何もかもが違う。スタートアップに大切なのは強烈なイノベーションを起こせる鮮烈なアイデア、そして社会を変えるような目的意識なんだ」
「きょーれつな、いのべーしょん」
イノベーションってなんだっけ。
なんか凄そうな印象はあるけど、イノベーションを起こすアイデアとか、社会を変えるような目的意識とか言われても……。
なんだか自分とはずいぶん遠いところにいる人たちの言葉のようで、全然ピンと来ない。
「うん。伝わってないことはわかった。イノベーションっていうのは革新という意味で……。いや、いいや。今やってるスモールビジネスとの違いから整理してみよう。一番わかりやすいのはニーズ。スモールビジネスは『すでに存在しているニーズ』だったわけだけど、スタートアップはその反対側にある」
そう言ってチトセは次の言葉を止めた。
反対側にあるのは何か当ててみろ、ということだろう。
もはや教師と生徒のマンツーマン授業のような様相である。
ここは教室ですか?
「反対ってことは……『まだ存在していないニーズ』ってことか?」
「惜しい。『まだ顕在化していないニーズ』が正解。存在していないニーズはどうやったって解決できないからね」
存在しているけど、まだ誰もが気づいていないニーズ。
そこに誰よりも先に、気づけるくらいじゃないとダメってことか。
ダリスは今さらながら、ビジネスは難しいものなのだと痛感していた。
一人で考え込むダリスをよそに、話は続いていく。
「これは同時に『ライバルがいない』ってことでもある。こっちは未開拓市場って呼ばれてる」
「レッドの反対はブルーなんだ」
「ちなみに『ニーズが存在していない』場合はノーオーシャン。スタートアップで始めた事業が、魚一匹釣れないノーオーシャンだったっていう失敗パターンはものすごく多い」
「それは……、考えるだけで胃が痛くなるな」
全く稼ぎが得られないノーオーシャンを思えば、毎月しっかり利益を出せている今のビジネス、スモールビジネスがいかに大切か身に染みる。
「ブルーオーシャンでスタートアップとして成功したら、スモールビジネスとは全く違う景色が見えてくる。成長曲線は二次関数的なJカーブを描いて――」
「にじかんすーてきなじぇいかーぶ?」
「短期間で巨額のリターンが得られるってこと」
ああ、なるほどね。そういうことか。
だったら初めから、そう言ってくれればいいのに。
二次関数的、とか。
Jカーブを描いて、とか。
ビジネス用語は、わざわざ難しい言い方するのが流行りなんだろうか。
意識高い系なんて、からかい文句が流行った時期があったことを思い出す。
からかいたくなる気持ちが、とてもよくわかった。
「はっきり言ってビジネス初心者のダリスが、いきなりスタートアップを目指すのは難しいと思う」
昨日までなら『そんなことはない』と反発していたかもしれない。
だけど今日の話を聞いて、ダリス自身もそんな気がしていた。
深く考えずにCEOになれば、自動的にお金持ちになれるような気がしていたんだけど、世の中はそんなに甘くない。
「だけど、ちょっと視点を変えるだけで、お金を稼ぐ方法はいくらでもあるんだってことに気づいて欲しいかな」
方法はいくらでもあるのだとしても、肝心の方法に気づけなかったら、それは存在しないのと同じだ。
もしかして、彼女はもう気づいているのだろうか。
この世界でお金を稼ぐ、新しい方法に。
なにかヒントでも貰えないかと思い「……例えば?」と聞いたダリスを、チトセは一蹴する。
「甘えないで。『ビジネスで成り上がる』んでしょ? 考えるのはダリスだよ。それにね、スタートアップとかスモールビジネスとか関係なく、自分が『やりたい』って思った事業じゃないと続かないと思う。……ほら、そろそろ帰らないと」
チトセが縁石から立ち上がり、スカートをパンパンと払う。
言われてみれば、ずいぶんと太陽が地平線に近づいている。
「視点を変える……か」
改めて振り返ってみれば、ダリスは十五年かけて考えたやり方に固執していたのかもしれない。十五年もかけたんだから、絶対に成功するんだと思いたかったんだ。
この日を境に、ダリスは変わった。
ダンジョンでモンスターを狩るだけではなく、休みの日にはフィールドワーク、街の人や冒険者たちとも積極的に会話をして新しいニーズを探して回る日々。
当然、前よりも忙しくなった。
それでも、ただ仕事に追われるだけの毎日より充実した日々を過ごしている。
💰Tips
【スタートアップ】
良いビジネスアイデアは課題の質が高い。
その課題は自分自身にとっても課題であるか。
顧客にとっても重要な課題なのか。
課題の解決案が既に存在しているのではないか。
様々な確度からアイデアを深掘りしていくことがスタートアップのアイデアを作り上げる。
課題の発見はスタートアップのはじまりである。
(参考文献:『起業の科学(著・田所雅之)』)
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