💰転生社畜と転移JKのダンジョンビジネス合同会社💰 〜奴隷を買いに来たら女子高生が売られていた件について〜

石矢天

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WORKS1 転生社畜、女子高生を買う

💰戦闘力Sは伊達じゃない!

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 クレイヤンド王国、エコアス地方、平原の街ザンド。
 交通の要所として栄えているこの街に、ダリス達は根を張っている。

 街を囲む石造りの外壁。
 その外に広がるザンド草原を、ハミール山脈に向かって徒歩で一時間。
 林に囲まれた湖が今日の目的地だ。

 太陽が湖面に反射して、光の粒が宝石のように輝いている。
 ゆるやかな風がふわりと頬を撫で、ダリスの前髪を揺らした。
 
 子どもの拳サイズの石が転がっている地面に、緑色の葉っぱがはらりと落ちた。
 ここは『静かな湖畔のダンジョン』と名づけられた、初心者向けのダンジョン。

「⦅さあ、ここがダンジョンだ⦆」
 ※⦅⦆内は日本語です

「⦅ダンジョンって洞窟とか地下墓地とか、そういう場所じゃないの?⦆」

 昨日、総額金貨4枚で買ったばかりの、大剣とハードレザーアーマーに身を包んだチトセが、解せぬ顔をしている。

「⦅この世界ではモンスターの生息地のことを『ダンジョン』と呼ぶんだ。だから、この湖畔もダンジョンでいいんだよ⦆」
「⦅ふぅん。ダンジョンって、もっとおどろおどろしい迷宮みたいなのを想像してた⦆」

 このダンジョンはフィールド型で、光を遮るものはなく、風の抜けも良い。数あるダンジョンの中でも特に明るく綺麗なところだ。
 もちろんダンジョンには、廃墟、坑道、古城なんかもある。
 そういう場所は暗くてジメッとしていて、チトセの言うダンジョンのイメージを裏切らない。

「⦅モンスターは人が少ないところの方に発生するから、こういう自然豊かな場所がダンジョンになることも珍しくない⦆」
「⦅ふうん⦆」
「⦅人が近寄らない場所ほどモンスターが強い。つまり街から近いこのダンジョンはモンスターが弱い。その中でも入口は特に弱い。だから、初心者でも比較的安全に狩りができる。俺たちのデビュー戦には丁度いいだろ?⦆」
「⦅戦うのはボクだけだけどね⦆」

 戦闘力Fじゃ足を引っ張るだけなんだから仕方ないじゃないか。
 むしろ戦えもしないのに、ダンジョンまで同行している勇気を褒めたたえて欲しいくらいだ。

 チトセの抗議は聞かなかったことにして、ダリスは解説を続ける。

「⦅あっちにも冒険者がいる。ほら、そっちにも⦆」
「⦅三人組とか、四人組とか、なんかファミリー向けのキャンプ場みたい⦆」

 冒険者がパーティーを組んで、それぞれがモンスターを狩るために間隔をあけて固まっている。狩場に拠点を作る、なんて言い方をするが、確かにキャンプ場とよく似ているかもしれない。

 人気の狩場だと冒険者が集まりすぎて鮨詰めのようになるのも、連休中のキャンプ場を彷彿とさせる。

 …………前世でキャンプとか行った記憶ないけど。
 鮨詰めになっている光景なんて、ニュースでしか見たことがないけど。

「⦅あっちのパーティー、ひとりだけスゴく強そう⦆」

 チトセが視線を向ける先、四人組のパーティーの中に一人、明らかに装備が上等な、見るからに強そうな剣士がいた。金属製の鎧なんて駆け出しの冒険者には買えやしない。

 剣士は他の三人に指示を出しながら、ピンチのときだけ手助けに入っている。

「⦅多分あれは……クランだ⦆」
「⦅クラン?⦆」
「⦅クランっていうのは冒険者が集まった集団のことで、組織の力で効率的にモンスターを狩る⦆」
「⦅なんか、会社みたい⦆」
「⦅……確かにな⦆」

 クランは全員で稼いで、全員に分配するから、収入が安定する。
 有名クランのリーダーはものすごい高収入らしいし……あ、これ会社だ。

 せっかくだから、会社になぞらえてみよう。

「⦅あの強そうな剣士が先輩社員で、新卒社員に経験を積ませるためにココへ連れてきたんだ。だから基本は新卒社員に戦わせて、ヤバいときしか手を出さない……みたいな感じ⦆」
「⦅なんか、新卒研修みたい⦆」
「⦅それだ……たぶん⦆」

 新卒研修なるものをダリスは受けた経験がない。
 あの頃は『オン・ザ・ジョブ・トレーニング実践に勝る訓練なし』の名のもとに、入社するやすぐに担務を割り振られ、見よう見まねで電話営業をかけて回ったものだ。懐かしいけど、思い出したくもない。

 それにしても……チトセって女子高生だよな。
 今どきの女子高生は、新卒研修とか知ってるものなの?

「⦅ねえ、アレもモンスター?⦆」

 チトセが指差した先には小型の黒いリスのようなモンスターがいた。
 ジッとこちらの様子を見ている。

「⦅あ、ああ。デビルスクワラル黒リスだ⦆」
「⦅ちょっと、かわいいかも⦆」
「⦅かわいい見た目に騙されるなよ。素早い動きと、鋭い牙で新米冒険者キラーとも呼ばれ――⦆」

 ダリスが言い終わらないうちに、チトセの綺麗な太刀筋が、黒リスを一刀の元に斬り捨てていた。

 生命活動を停止した黒リスの身体が塵となり、小指サイズの魔光石がコロリと地面に落ちる。

「⦅ん? なんか言った?⦆」

 戦闘力Sは伊達ではなかった。
 初めてモンスターと戦ったとは思えない動きで黒リスを瞬殺せしめたチトセは、返り血の一滴も浴びていない。
 想定以上の結果にダリスはハッと息を飲む。
 これならもっと強いモンスターだってソロで討伐できてしまうかもしれない。

 ダリスは跳ねる鼓動を押さえつけ、高揚した感情が顔に出ないように気をつける。

「⦅な、何でもない。コイツは雑魚だからな、さっさと奥へ進もう⦆」

 あくまで平静を装うダリスに、チトセがじっとりとした視線を向ける。
 さらに二歩、三歩と距離をとる。

「⦅……ニヤニヤしてて気持ち悪い⦆」
「⦅え!? ウソだろ!?⦆」

 慌てて顔に手をやるも、鏡なんてないから自分の表情なんて確認のしようがない。

「⦅下心むき出し顔してた⦆」
「⦅ど、どんな顔だよ⦆」
「⦅んー。飲み会で酔っぱらった女子を持ち帰ろうとしてる男の顔?⦆」
「⦅君、本当に女子高生!?⦆」

 チトセはそれっぽい制服を着ているだけで、本当は女子高生じゃないのでは……というタイトル詐欺疑惑を残したまま、二人はダンジョンを更に奥へと進んでいく。


〇現時点の収支報告
  資金:金貨25枚(250万円)
  支出:▲金貨4枚(40万円)※装備購入費
 残資金:金貨21枚(210万円)



💰Tips

【成長限界】
 成長できる幅の大きさ。伸びしろともいう。
 ダリスのスキル『真・鑑定』によって、戦闘力と同じく10段階で表される。
 成長するのが速いけど、限界も早くにやってくる者を『早熟』、成長するのは遅いけど、じっくり長く成長していく者を『晩成』と呼んだりする。
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