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まだ夢にしか思えない……
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§
どうして今こういう状態になっているんだろう?
夢か間違いか、何の気の迷いか、こともあろうか、あの大女優フルフトーリエ・ラレシアル、フルフさまと結婚した。
なんてうらやましいと思うヤツはたくさんいると思う。実際言われたし。俺相手だと言いやすいのか、言われたおした。耳にたこは完全に出来ているだろう。
なんてったって、名女優の彼女は、美人で雰囲気があって、それでいて繊細そうでかわいらしくて、護ってあげたいって思わせるような、そんないまどきいないような女性に見えるだろうから。
白茶色のふんわりしたやわらかそうな長い髪、白く滑らかな肌。印象的で吸い込まれそうな空色の双眸。薔薇色の小さな唇。
普段からさりげなく、普通にないだろうドレスを着ていてもおかしくなくて、それも無闇に体の線を見せるのではなく、清楚でエレガントな雰囲気で――
大事に大事にされているお姫さまのようなお姫さまと言っていいのだろう彼女を、射止めたラッキーな男として、凄く色々言えることも、言えないこともかなり色々あった。
さすがだなって思うし、思ったけれど。
どれもこれも、知らない人間はいいよなと思う。
真実を知らないから。
やっかむんだろうと思う。やっかまれたし。ああ、本当に知らないんだからな。
いいよな知らないって。
俺だって知らないときには、役に重ねて人を見ることがばかげていて、本質ではないことをわかっていても見てしまってたさ。
無論かわいいって思ってたさ。中身を知らないから。
とてもいいなって昔から思っていたさ。スクリーンには姿と演技しか映らないから。
直接かかわった後、そんなのサギだって思った。
夢を見るのは俺たちの勝手で、彼女は関係ないだろうけど――
役の彼女って、砂糖菓子のようで、でも、優しくてあったかくて……こんな子がずっとそばで、俺に笑いかけてくれるなら、なんだってしてもいいようなそんな気がするんだよな。
少なくとも俺はそうだ。
でも現実は、いばりんぼで赤い絨毯の上しか歩かないって決めている高飛車なお嬢さまで。彼女つきのマネージャーの回転率はとても早い。
ま、何でかしらないけど俺にもその役が回ってきて、おつきみたいなことさせられて。
呼びつけられては、絨毯敷いてたり世話したりしてたりもした。
トリで絡み多いし、なんかそういうの頼みやすいんだろうな。フルフさまにいなくなられてはと、上に泣きつかれて、彼女の我侭に結構付き合った。
俺も我侭言ってもいいんじゃないか? と思ったが、物事がもっと収まらなくなるような気がしてやめた。
結婚が決まった時も決まって用意に駆けずり回っているときも、始まってからも、そして終わってしばらくたった今も俺にはまったく現実感がない。
すっごいど派手な結婚式をやらかした記憶だって新しいけど。
夢に思える。想像を絶していて。
でもまぁ、いっそ夢ならどーんとスケールの大きなことしてもいいかと思ったし。だからこそのあれだったのだが。
でも、今もその夢かもしれないことから覚めない。
自分の頬殴って痛いから、夢じゃないかもしれないけど、夢なのに勝手に痛いって思ってるだけかも知れないし。もしそうならすごい長い夢だよなって思うけど。
俺はワナか何かにはめられたんだろうか? 同じ役者仲間のやつらとか、その他もろもろに。
やつら、フルフさまはこともあろうか俺のことが好きなんだって、笑えない冗談を言って俺を惑わせていたけれど。
あるはずがないじゃないか。誰が恋愛対象の男を下僕にしたてるよ? ある程度対等なもんだろ? 恋愛対象って。
格下ってことだろう? 下僕なんだからさ。下僕ってのがなんだったら、侍従でもいいさ。
そうはれて、彼女の夫ってものになったんだけれど、イコール下僕、不動の下僕まっしぐらから、何一つ変わったことなんかない。
いったい何が変わったんだろう?
名前か?
夫っていう名称なんて、なんの意味があるんだろうか? 実質は下僕だというのに。
いや、まぁ意味はあるんだろう。でもさ、言いたくなることってあるよな?
「ははは。よく女性が男性に向かって、私は家政婦やあなたのお母さんじゃないわっていうって話を聞くけど、君の愚痴ってそれと同じ次元の話かな?」
って、一応話を聞いてくれていた役者仲間のフェザント・クルベローヴァ――ありえないくらい綺麗な顔、長い黒髪、金茶色の目の彼に言われた。
笑えなかった。笑えない自分がつらかった。
彼女のいる空間には当たり前に床に赤い絨毯が敷き詰められている。絨毯、これがまた曲者なのだ。どこからわいてくるのか埃や塵にまみれていく――
彼女がぼんやり白くなった絨毯に足をおろすはずもなく。
そんな時、はじめは無言で俺を見つめるんだ。
じーっと。
気がつかないフリをしていると、フルフさまは鋭く俺を呼ぶ。
「リヴィアス、足がおろせないわ」
何をするときも何の時も俺を呼ぶ。
俺は彼女のお気に入りの侍女かなんかのようだなんて自嘲して思うこともあるくらいさ。
やけになって、からからかいなのか、必要と思われているのかフェザントからもらったエプロンをつけて出ると、彼女はあからさまな渋面を見せた。
何なんだろうな?
普段の服装も、やってることに見合った服だ。いつもドレスをきている彼女といつだってつりあわない格好しているかもしれないけれど。いや、ドレスに釣り合う服って普段着じゃないよな?
時々見苦しいわなんていわれたり、なんかすっごい高そうな男性用のどこにきていくんだろう? って服がまた新たに部屋に届いていたりするけど。
ドレッサーに山ほどある服、どこにきていくんだ? って服――それなのに、まだ服を増やそうとする気持ちが、全然わからなくて。
どうみても、足りすぎるくらい足りてるし、こういう服で作業は汚れたりとか凄く気になりそうだし。
そう、掃除には必要ないし。洗濯にも、調理にも。
そういうことを伝えると、ぷっとふくれて、黙り込むくせに。
一体彼女は俺の何が気に入らないんだろうな? でも、気に入らないのになんで結婚を承諾したんだろう?
何をするのも、何か気に入らないみたいなのに、しないならしないで怒るし。
どうしてやればいいかわからないけれど、やればやるほど何か不満のようなものが見えるように思えて、凄く気になるんだけれど言わないし。
女性の気まぐれってやつかもしれないけど、俺には見当のつかない論理で動いてるみたいだ。
フェザントなんかに言わせると、
「知っていたけどさ、いい加減、鈍すぎだよ。リヴィアちゃんあんまりあんまりだと、フルフ、かわいそうだぜ」
なんてよりわからないこと言うし。
本当は凄く嫌いなわけでもないし、嫌いで世話なんか出来るわけもないけれど。
マゾかもしれないって思うけれど、嫌いなわけではない。
当初の予定の俺が大切に護っていつでも笑顔でいれるように、いつでも満たされて幸せでいれるようにって思っていた、小さな俺の夢の女性からは、かなり遠いけれど。
姿はとにかく中身が山嵐だから、ぜんぜん違うけれど。
一緒に住んでみれば、もっといろいろわかって来たり、いろいろと今はみえにくいかもしれない、でもあるはずのいいところが見えるだろうと思うんだけど。現状よくわからない。
ま、すべて見えてしまった人間関係なんておもしろみもないかもしれないけれど、もう少し彼女の中身が、本当の彼女自身の中身がどうなっているのか、俺が思ってるとおりなのか、みえる力が欲しくなる。
本当、時間が解決してくれたらいいな。
どうして今こういう状態になっているんだろう?
夢か間違いか、何の気の迷いか、こともあろうか、あの大女優フルフトーリエ・ラレシアル、フルフさまと結婚した。
なんてうらやましいと思うヤツはたくさんいると思う。実際言われたし。俺相手だと言いやすいのか、言われたおした。耳にたこは完全に出来ているだろう。
なんてったって、名女優の彼女は、美人で雰囲気があって、それでいて繊細そうでかわいらしくて、護ってあげたいって思わせるような、そんないまどきいないような女性に見えるだろうから。
白茶色のふんわりしたやわらかそうな長い髪、白く滑らかな肌。印象的で吸い込まれそうな空色の双眸。薔薇色の小さな唇。
普段からさりげなく、普通にないだろうドレスを着ていてもおかしくなくて、それも無闇に体の線を見せるのではなく、清楚でエレガントな雰囲気で――
大事に大事にされているお姫さまのようなお姫さまと言っていいのだろう彼女を、射止めたラッキーな男として、凄く色々言えることも、言えないこともかなり色々あった。
さすがだなって思うし、思ったけれど。
どれもこれも、知らない人間はいいよなと思う。
真実を知らないから。
やっかむんだろうと思う。やっかまれたし。ああ、本当に知らないんだからな。
いいよな知らないって。
俺だって知らないときには、役に重ねて人を見ることがばかげていて、本質ではないことをわかっていても見てしまってたさ。
無論かわいいって思ってたさ。中身を知らないから。
とてもいいなって昔から思っていたさ。スクリーンには姿と演技しか映らないから。
直接かかわった後、そんなのサギだって思った。
夢を見るのは俺たちの勝手で、彼女は関係ないだろうけど――
役の彼女って、砂糖菓子のようで、でも、優しくてあったかくて……こんな子がずっとそばで、俺に笑いかけてくれるなら、なんだってしてもいいようなそんな気がするんだよな。
少なくとも俺はそうだ。
でも現実は、いばりんぼで赤い絨毯の上しか歩かないって決めている高飛車なお嬢さまで。彼女つきのマネージャーの回転率はとても早い。
ま、何でかしらないけど俺にもその役が回ってきて、おつきみたいなことさせられて。
呼びつけられては、絨毯敷いてたり世話したりしてたりもした。
トリで絡み多いし、なんかそういうの頼みやすいんだろうな。フルフさまにいなくなられてはと、上に泣きつかれて、彼女の我侭に結構付き合った。
俺も我侭言ってもいいんじゃないか? と思ったが、物事がもっと収まらなくなるような気がしてやめた。
結婚が決まった時も決まって用意に駆けずり回っているときも、始まってからも、そして終わってしばらくたった今も俺にはまったく現実感がない。
すっごいど派手な結婚式をやらかした記憶だって新しいけど。
夢に思える。想像を絶していて。
でもまぁ、いっそ夢ならどーんとスケールの大きなことしてもいいかと思ったし。だからこそのあれだったのだが。
でも、今もその夢かもしれないことから覚めない。
自分の頬殴って痛いから、夢じゃないかもしれないけど、夢なのに勝手に痛いって思ってるだけかも知れないし。もしそうならすごい長い夢だよなって思うけど。
俺はワナか何かにはめられたんだろうか? 同じ役者仲間のやつらとか、その他もろもろに。
やつら、フルフさまはこともあろうか俺のことが好きなんだって、笑えない冗談を言って俺を惑わせていたけれど。
あるはずがないじゃないか。誰が恋愛対象の男を下僕にしたてるよ? ある程度対等なもんだろ? 恋愛対象って。
格下ってことだろう? 下僕なんだからさ。下僕ってのがなんだったら、侍従でもいいさ。
そうはれて、彼女の夫ってものになったんだけれど、イコール下僕、不動の下僕まっしぐらから、何一つ変わったことなんかない。
いったい何が変わったんだろう?
名前か?
夫っていう名称なんて、なんの意味があるんだろうか? 実質は下僕だというのに。
いや、まぁ意味はあるんだろう。でもさ、言いたくなることってあるよな?
「ははは。よく女性が男性に向かって、私は家政婦やあなたのお母さんじゃないわっていうって話を聞くけど、君の愚痴ってそれと同じ次元の話かな?」
って、一応話を聞いてくれていた役者仲間のフェザント・クルベローヴァ――ありえないくらい綺麗な顔、長い黒髪、金茶色の目の彼に言われた。
笑えなかった。笑えない自分がつらかった。
彼女のいる空間には当たり前に床に赤い絨毯が敷き詰められている。絨毯、これがまた曲者なのだ。どこからわいてくるのか埃や塵にまみれていく――
彼女がぼんやり白くなった絨毯に足をおろすはずもなく。
そんな時、はじめは無言で俺を見つめるんだ。
じーっと。
気がつかないフリをしていると、フルフさまは鋭く俺を呼ぶ。
「リヴィアス、足がおろせないわ」
何をするときも何の時も俺を呼ぶ。
俺は彼女のお気に入りの侍女かなんかのようだなんて自嘲して思うこともあるくらいさ。
やけになって、からからかいなのか、必要と思われているのかフェザントからもらったエプロンをつけて出ると、彼女はあからさまな渋面を見せた。
何なんだろうな?
普段の服装も、やってることに見合った服だ。いつもドレスをきている彼女といつだってつりあわない格好しているかもしれないけれど。いや、ドレスに釣り合う服って普段着じゃないよな?
時々見苦しいわなんていわれたり、なんかすっごい高そうな男性用のどこにきていくんだろう? って服がまた新たに部屋に届いていたりするけど。
ドレッサーに山ほどある服、どこにきていくんだ? って服――それなのに、まだ服を増やそうとする気持ちが、全然わからなくて。
どうみても、足りすぎるくらい足りてるし、こういう服で作業は汚れたりとか凄く気になりそうだし。
そう、掃除には必要ないし。洗濯にも、調理にも。
そういうことを伝えると、ぷっとふくれて、黙り込むくせに。
一体彼女は俺の何が気に入らないんだろうな? でも、気に入らないのになんで結婚を承諾したんだろう?
何をするのも、何か気に入らないみたいなのに、しないならしないで怒るし。
どうしてやればいいかわからないけれど、やればやるほど何か不満のようなものが見えるように思えて、凄く気になるんだけれど言わないし。
女性の気まぐれってやつかもしれないけど、俺には見当のつかない論理で動いてるみたいだ。
フェザントなんかに言わせると、
「知っていたけどさ、いい加減、鈍すぎだよ。リヴィアちゃんあんまりあんまりだと、フルフ、かわいそうだぜ」
なんてよりわからないこと言うし。
本当は凄く嫌いなわけでもないし、嫌いで世話なんか出来るわけもないけれど。
マゾかもしれないって思うけれど、嫌いなわけではない。
当初の予定の俺が大切に護っていつでも笑顔でいれるように、いつでも満たされて幸せでいれるようにって思っていた、小さな俺の夢の女性からは、かなり遠いけれど。
姿はとにかく中身が山嵐だから、ぜんぜん違うけれど。
一緒に住んでみれば、もっといろいろわかって来たり、いろいろと今はみえにくいかもしれない、でもあるはずのいいところが見えるだろうと思うんだけど。現状よくわからない。
ま、すべて見えてしまった人間関係なんておもしろみもないかもしれないけれど、もう少し彼女の中身が、本当の彼女自身の中身がどうなっているのか、俺が思ってるとおりなのか、みえる力が欲しくなる。
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