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番外 守っているのかしら

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     ◆

 陽を受けて一糸一糸に光が灯り輝くような銀の髪は、背で緩く束ねられている。
 澄み渡る深緑の瞳。それは今目の前でうっとりと細められ深まる色も綺麗で――

 ついうっかり見惚れていると、彼は既に近い、近すぎる距離にいて、私はとっさに俯いた。どぎまぎする自分を隠せない。
 両腕がそっと私の体を軽く抱き寄せる。
 あたたかな感触。強く高鳴る鼓動。

 
「シーアエル」
 うっかりすると心ごと持っていかれそうな美声が愛おしげに私の名を呼ぶ。
 目をあげると私に向けたとろけるような微笑みが美貌に刻まれている。
 
 どこもかしこも美しい。主観かもしれないが、美の化身かもとも思える。
 指の先の先まで綺麗だ。

 美も好みはあるのじゃないかなと思うけれど、何もかもを蹴り倒し、ぶっちぎるような突出した美貌に見える。
 
 
 いけないいけない。なんだか表現が物騒になってきた。


 私の名前をうっとりと大事そうに呼ぶこの人は、私の前前世の旦那様らしい。

 詳しい記憶はまだ思い出せないが、そこはかとなく想いが込み上げてくるかんじはする。

 私の中に記憶があるならよみがえらさなくていいのかと聞いてみたら、やれば出来なくはないがあなたを何ひとつ損ないたくはないからそのままでと言われて、そのまま。

 私がエウローゼさんだと聞いてもぴんとはこない。でも、体の内からレリアールに対して愛おしい感覚がなんとなくうまれてきている。これがエウローゼさんなためなのだろうか?

 押し押しに押してくるから流されて思い込んでしまっているとかないよね? 





 当初、婚約さえしていない相手をここまで近づけてしまっている段階で普通ならどうかと思うところだったので、レリアールにはそれを伝えてみた。

 彼にはやっと見つかったことに舞い上がっていて、性急になりすぎていたと謝罪されたけれどね。

 ならばと婚約をとさくっと結んでしまったし。元々婚約者も見繕えなかった私のことだ。反対も何もなく順風でも、早かった。魔法でも使ってそうに早かった。
 めちゃくちゃ希少だろう見たこともない色の濃い深緑の綺麗な宝石。複雑な装飾の施された指輪を婚約指輪だといただいた。
 片時も外さないでって言われたけど、物理的に外れないんですけど。
 何かの邪魔になったりしないからいいのだけれど、何か魔法かかってますよね?

 聞いてみても、これは普通のお守り程度だよと答えられた。
 相手はチート様だから、普通か。普通。チート様の普通が普通な訳ないだろう。
 GPSとかも兼ねてそう。なんか色々ありそうだけれど怖いから聞かないことにした。
 そして贈られた深緑か銀のドレス達。今もその内の一着を着ているけれど、まぁうん、まぁ素敵ですけど、なんかこれも何か魔法かかっていたりしてと思わなくない。
 装飾品もいただいていていただきすぎだと言っても笑ってこれからもおくるよと言われてしまう。

 がんがんあれもこれもと綺麗だけれど、彼の髪や瞳の色のものに染められているはてれくさい。
 彼が淡い金や榛色のものを身に纏うようになったことももちろんてれくさい。



 遠い国の第3王子の外遊というのが表向きらしい。

 そして、私がいるからこの学院に入ることにしたと微笑まれた。もちろん編入試験とかあった条件を軽く当たり前に合格をもぎとった。私のそばにいたいからとそれだけの理由で。
 当然べったり隣にいる。無論周りの人に対する牽制もなかなか激しい。

 私そんなもてないからと言っても、全然聞いてくれない。婚約もしたでしょ? と言ってもまた別みたいで。

 私が信じられないの? と聞くとうろたえていたけれどね。

 むしろレリアールがあちこちの女性から秋波をうけているというのに。私にべったりだけれど、それでもなのにね。


 おかげでめちゃくちゃ目立っている。

 まぁレリアールがそこにいるそれだけで元々目立ってしまうけれど。吸い寄せられるように目が向いてしまうのよね。
 なのに、隣にいるのは私だし。目立たない私だし。

 綺麗だし格好いいし、なんだろうこの美形って思うくらい人外レベルに整っていることばかり目につくけれど  ――内心、私に対して結構残念で困った人だなぁって思っている。
 なんでもさらっと出来てしまうのに、私に対してだけリズムが崩れたりして。
 そのなんだかなぁなところに内心微笑ましく思ったりしてしまう私もかなり困ったものだなって思うけれど。

 なんだかなぁが普通レベルの時は、普通レベルなら好かれているのかなって嬉し恥ずかしい気持ちになるのだけれども――
 
「シーアエル、あなたのこの優しく手触りのいい金色の柔らかな髪に触れることが出来るのは、私ひとり、ひとりきり」
 そう言いながら髪を撫でたりすくいあげたりしている。髪結いしてもらうのでそうとは言えませんがは無粋だろうから黙っておこう。

 髪を撫でられる感触が心地よく感じるのは、私のどこかにエウローゼさんがいるせいなのだろうか? それともただ好ましいと思ってしまっているだけだろうか。
 撫でる手付きにまで私を大事だと感じさせてくれる。

 長い指をすりぬける髪。その一房にそっと形の良い唇を寄せて微笑みかけてくるレリアール。つい赤面してしまうのは仕方ないよね。

「レリアール」
 背が高いので、目線を合わそうとすると見上げることになるのだが、澄んだ深緑の瞳が私をとらえる。
「ああ、この煌めき私を魅了する榛色の二つの宝玉。どうかそこに私以外を映さないでいてくれないか」
 私の目を見つめて懇願する。

 そう、たまに物理的に無理ですよね? をさらっとはさんでくるので返答には気をつけないといけない。

「この世界にふたりだけなわけではないのですから、無理ですよ」
「シーアエル、あなたは私とふたりだけを望むのか。そうか、滅するか……」
 滅するって何を?
 いや、決定打は受けたくない。でもやりそうやれそう。
「この世にふたりだけもありかもしれないな」
 満更でもなさそうに思案している姿も麗しいけれど、流されたらだめだ。

 滅亡させて、ようやくふたりきりになれたなとか言われても困るというか、困る以前というか……この世界に悪い。
 私のうっかり言ってしまった言葉で消されても困る。せっかく同じ転生者のお友達も出来たのに。

 ミレイア様。ゲームヒロインだけれど、転生者で淡い薄茶の髪と桃色の瞳のふんわり綺麗で可愛らしいお方。元のゲームから既にかなりかけ離れているから何が起こるかわからないの。気をつけていてねと心配までしてくれる優しい方。

「そうすれば、シーアエルの瞳に私だけを映してくれるだろうか」
 本気で思案している訳じゃないですよね?
「だめです。考えないでください。だめですから」
 私はレリアールを見上げて懇願した。

「冗談だ。そんなことはしないよ」
 そう言いながら笑っているけれど、同意していたらやりかねなかったのでは? 

 世界? 滅ぼすかとか軽く言いそうで怖い。

 現場を見たわけでもないし、見ていたら手遅れだけれど、出来るのじゃないかなって思うというか、なんか確信してしまっているというか……エウローゼであった頃に何かあったのだろうか? なんか内からのなんかというのか、こみ上げる危機感半端なくて。

 うん危険な香りしかしないし、回避大事。
 同意しません。しませんとも。


 怖いわ。本当怖い。

「選ぶなら、ふたりきりでどこかに閉じこもるよ。そうすればあなたをひとりじめだ」
 昏い光を失った深緑の瞳。うっすらと笑う笑い方がいつもと違う怖さをはらんでいて。

 世界の終わりか監禁か。
 二択でしょうか?


 監禁とるしかないよね。
 それで世界が無事であるなら。

「半分冗談だ。シーアエル」
 半分冗談ということは半分本気なのですよね。


  それでもこの腕をふりほどく気はない。ないけれど。
 この世界もしかして、私が守っていることになるのかしら? なんてね。


        end
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