よせあつめ ─詩集─

古部 鈴

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もう一度

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私は歩く足を止めると
思い出のベンチに腰掛ける

目の前の桜並木の花は散り果て
今はみずみずしい新緑の葉を広げている
私は目を閉じて願う

咲き乱れる薄紅の花よもう一度
もう一度……

目を開いてみても
緑が揺れるばかり

願えど叶う訳もない
散った花は戻ることなく
命はかえることはない

空は抜けるように青くて
風は穏やかに吹き
葉を揺らし音をたてる

時は戻らない
ただ過ぎてゆく

思い出を風化させて
それは時の優しさなのか──

風が葉の間を通り抜け
音を立ててすぎてゆく

私は立ち上がり
にじむ青空を見つめた







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