よせあつめ ─詩集─

古部 鈴

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春に触れる

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あなたは嬉しそうに
その顔に満面の笑みを浮かべる

周りを見やればほんのりと
淡い紅色に染まる山景色
青空を紗を広げたような雲が走り
早い春の訪れの足音が聞こえるような
昼下がり

まだ花には早い樹の下
ふたり歩く

花には早い
それでも色づくつぼみ達

あなたが立ち止まり
花が咲くのが楽しみねと
大きく背伸びをして
そっと壊れ物に触れるように
つぼみに手を伸ばす

白い指先を先だけ紅に染まるつぼみに
指をそわせて
そっとそっとそわせて
あなたは春に触れる──
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