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番外 知らないのは本人だけ
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私の婚約者のハリアード・ヘイラルク様の最近様子がおかしかった。
ハリアード様は、ヘイラルク侯爵家の嫡男。蒼の澄んだ切れ長の瞳は美しく煌めき、茶色の髪は優雅に伸ばされひとつに纏めている。
すらりとした長身の肢体は引き締まり、その声は低く甘く麗しくいつまでも聞いていたくなるような声だった。
ふとした時に緩む表情。その蒼い瞳が細められより深く蒼く煌めく様は、目を見張るようで、彼のその視線をただ投げかけられるだけでも、言葉を失い、惹かれ焦がれ夢中になる令嬢は数限りない。
そんな彼に、急にひどいことを言われたりで、初めは何が起こったのかわからなかった。冴えた蒼の瞳で鋭く睨まれたり、振り払われたり。
ハリアード様と私との仲がこじれ、彼がフリーになるのではとそんな目で見られているようだった。
それをそっと扇で顔を隠しながら、周囲の令嬢達は見つめては浮き足立っていることも気づいていた。
しばらくすると、これはおかしいと気がついてしまった。
ひどいことと言っても、ハリアード様に言われているということには傷つくが、この程度なら、他の令嬢達とのやりとりの方がと思うようになった。
そして私を見る冷たい瞳もよく見るとつらそうな色や、どこか迷い子のような光がちらりと見える気がしたりで、逆に気になって仕方がなかった。振り払う時も細心の注意をしているように見えるのは妄想や気の迷いではない気もした。
そして他の令嬢達がこぞって彼にアピールするようにまとわりつこうとすることが気になった。それには普通に対応するので、令嬢達の熱は熱く、彼女達の私に対する視線やひそひそ聞こえる声は痛かった。
無論、ハリアード様の弟君のメイアルド様が、さらっと色々な手を使って蹴散らしてしまっていたけれど。
そう、彼の弟であるメイアルド様のハリアード様へのガードは鉄壁だった。
メイアルド様もお姿は美麗で、似た色合いのハリアード様と微笑み交わしながらふたりで並んで歩く姿は光り輝くようで見ているだけで眼福だった。周りの令嬢達の視線も勿論釘付けで。
ただ中身はハリアード様とは全く全く違っていて、とてもとても恐ろしいお方――
メイアルド様が兄であるハリアード様には決して見せない顔があることをハリアード様はきっと知らない。語ったところで信じないかもしれないが、私から漏れたと知れた場合と想像するだけで身震いする。
私も知りたくはなかった。
ハリアード様のため、共同戦線をはるしかなかったのだけれど。
私がどれだけハリアード様を慕っていたとしても、ハリアード兄上のお心がなければない話なのだがと冴え冴えとした眼差しで私を見て言い放つ彼は純粋に恐ろしかった。
メイアルド様はとても優秀でなんというのか何でも出来るのかもしれないと任せてしまってもと思ってしまうくらいにある意味万能すぎて怖い方だった。別の意味でも怖い方で。
特に兄のハリアード様に対しての最早偏愛と言ってもいいのではなものは、とてもとても重いものではないかと感じた。気の迷いではないだろう。
ハリアード様は全く気付かれていないけれど。
優秀でかわいい弟とかわいがっている。その方がそんな風であるのはハリアード様の前だけなことにお気づきにはならない。
ハリアード様が家督を譲り、侯爵家を出るおつもりになっていることを察したメイアルド様の昏い光を放つ蒼い瞳はとても恐ろしかった。
私もハリアード様に捨てられて何処かに行ってしまわれると想像するだけでも身がひきちぎられそうになるけれど。
私自身、常に邁進していないといけない。メイアルド様のおめがねにかなわなくなると危険しかない気しかしない。
兄上と共に並ぶのですから当然でしょうと色々と磨いてきたらしい彼だが、私にも勿論当然ですよと求めてくる。
ハリアード様のお気持ちを失えば、さくっといかれそうで、恐ろしい。その前に私自身がどうなるかわからないけれど。
そして結局、この騒動もメイアルド様が全て片付けてしまわれて。
私にもそれくらい出来るようになっていただかなければ。兄上と共にあるのならと思っていそう。
それもこれも、ハリアード様は知らない。もちろんこれからも知らせるつもりもないけれど――
end
後書き
読んでいただきありがとうございますで、番外思いついたので書いてみました。
この話、私が思うより、当社比ポイントが増えて、これでも大丈夫ですか? 赤のアイコン恋愛怖い、開いて中見てどう思われるかとドキドキしていました。大体ドキドキしていますが。
きっと、ああだめだで閉じる方も多いのでしょうけれど。
そう思いながらでしたが、お気に入り登録や、しおりありがとうございます。つたないものですが、ありがとうございます。蛇足なのかもと思いつつも、そえておきます。
なんだかハリアードがどんどんなんだかになり、ふっと現れた弟が全部片付けてくれました。
気づくとひどくブラコンになってました。今書いているエルリアサイドの話もハリアード愛されてますね。結局こんな感じになりましたが、楽しんでいただける方がいらっしゃるならば幸いです。
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