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妖精と駆け引き(1)

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「部屋に入るね」
俺は部屋の外から声をかけた後、静かに部屋にはいった。

「こちらはディアだ。さきほど君のお父さんが説明しに来たと思うけど、君が寝ている間にディアと私で妖精さんとお話するから。いいね?」

「はい。お願いします」
少女は少し緊張していた。

ディアは安心させるように
「私も近くにいるから、リラックスして寝てね。男性に寝顔を見られるのは嫌だと思うけど、婚約者の私がちゃんと見張ってるから!」

ディアは茶目っ気たっぷりにそう言った後、少女に横になるよう促した。

「それじゃ、おやすみ、ローザちゃん」
ディアがそう言ったと同時に少女はスーっと目をつむり、寝息をたて始めた。

「寝たな」

「そうですね、同い年くらいなのにこんなにやつれて……何の病気なのかしら」

「さて。だが病気は本来治癒魔法で治せる範囲だと思う。妖精が悪ささえしなければ」

"乙女ゲームでは治ってたしな"

俺は先程見えた妖精が今は姿が見えなかったため、部屋の中を見回した。

「おい。近くにいるんだろ。お茶にしないか?」
返事はないが、お茶と一緒に持ってきた菓子が1つ動いた。

「そんなところにいたか」

俺は積み上がったマカロンの後ろで、さりげなく1つ摘まみ食いしている妖精を見つけた。

「やはり妖精は菓子に弱いな」

「本当なら見つからずにいつも取れるんだ。お前なんで俺が見えるんだ?」

「あいにく俺はアルストロメリア帝国の王族の血筋だ」

「ふーん」

「あまり興味なさそうだな」

「見えようが見えまいが俺には関係ない。だが、菓子を貰ってるからな。食べてる間は話し相手になってやってもいいぞ」
少年の姿をした妖精は、マカロンを両手に持ちながら必死に食べつつ答えてくれた。

「ディアにも見せたい愛らしさだな、君は」
俺は本心そう思い、笑いながら妖精をツンツンした。

「俺様をツンツンするな。どうせなら女の子に撫でられたい」
そう言いながら、ディアに目を向けた。

するとディアが
「まぁあ!なんて可愛らしいのかしら」
と声を挙げた。

「お!ディアにも姿見せてくれるのか」

「綺麗な人は好きだからな。大サービスだ」

「それは光栄ですわ」
ディアはそう言い、妖精の頭を撫でた。

「こら、ディア。男にむやみに触るな」
と言っている最中、被せるように妖精が
「俺が好きか?」とディアに向けて聞いてきた。

「ええ。素敵な羽根。妖精さんをみられるなんて夢のようだわ」

「そうだろう。俺のこと飼ってみたいと思うか?」

「飼うなんてそんな自由を奪うことはしないわ。妖精さんはペットじゃないもの」

「ほぅ。いいな」
妖精は回答が気に入ったのか、ディアの周りをクルクル飛び始めた。

俺は本題に入ることにした。
「俺はレイモンドだ。君の名前をよかったら教えてくれるかい?」

「言うわけないだろ、契約するわけじゃなし」

「ということは、名前はあるってことか」

妖精はしまったっという顔をした後、不貞腐れた。

「名前を貰ったのは誰からだい?」

"妖精は普通名前がない。だが、契約を結んでもいいと思った人物に、契約する際、名前を与えてもらうのだ"

「なんで、そんなこと教えないといけない?」

「別に教えてもらっても知らない人物だろうから教えてくれなくてもいいけど」

俺が興味なさそうに言うと、
「お前ほんとムカつくな。聞いといて興味ないとかあるか?名前はあるが今は契約してない。契約してやろーか?」

「お、してくれるのか?」
俺は嬉しそうな顔で言った。

「するわけないだろ」

「だよな」
俺が分かりやすくシュンとすると

「わかってんならそんなシュンとすんな」
妖精は何やら拗ねる顔をした。

俺は妖精にもう一つマカロンをあげながら
「なんでお前が拗ねるんだ?断られた俺が拗ねるならまだしも」

「お前の顔、前の契約主に似てるからシュンとされるの嫌なんだよ」

「そうなのか?前の契約主はずいぶんハンサムだったんだな」
俺が茶化して言うと

「ハンサムじゃない。美人だったんだ」

「あぁ、女性だったのか」

「………」
何やら急に黙り込んだ。

「お前と話すとなんか情報聞き出されそうだからもう話さない」
今度は少し怒っていた。

「拗ねたり怒ったり忙しいな。さりげなく聞き出されるのが嫌なら質問に変えよう。何故ローザに悪さしてるんだ?」

「悪さなんてしてない。あの子の側にいるのは楽しいからいるだけさ」

「何がそんなに楽しいんだ?あの子はほとんどこの家から出ないだろ?」
 
「物語が楽しいんだ」

「物語?」

「あぁ。物語を口ずさんでる。家族の話がメインだが時には大冒険とかしてるんだぜ」

「ほぉ。お前は物語が好きなのか」

「うん」 

「なら、俺がもっと面白いことしてやろうか?」
俺はニヤッと笑った。

「なんだ?」
妖精は俺の方に飛んできて肩に乗ってきた。

"よし、話し合えそうだな"
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