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エピローグ6・アルフレッドとナタリー
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思えば、ナタリーとの出会いは友人からの紹介で、運命的なものでもなんでもなかった。
同学年で、そこそこ爵位が高く、今後も付き合いがあるであろう間柄だったため、内心嫌々ながら引き受けた見合い話である。ナタリーの事前情報は何も無かったし、そもそも、そんなもの知ろうともしなかった。
しかし、その友人の顔を立てるつもりで何度か会う内に、少しずつ惹かれていったのだ。人為的で、ありがちな、物語なんて始まり様のない出会い方だろう。
けれど、彼女と自分の仲は運命だと信じていた。
今まで出会ってきた女性とは違う、素朴な笑顔も、会話の中で質問責めにしてこない穏やかさも、キツい香水ではない、甘い花のような香りも。全てが好ましく、また目新しく感じた。彼女となら穏やかで暖かな家庭を築けると思ったし、上手く折り合いをつけられると思った。
何より、彼女が好きだった。
恋というほど苛烈なものでは無いが、少しずつ積み重なっていく優しい愛情を持つことができていた。
今ならその中に多少の焦りもあったと自覚できるが、あの時はそういった焦りさえもアクセルにしかならず、共に暮らしたいと言う彼女に反対する意志は全くなかった。
自分の未来のために、最初の違和感を見逃したことが決定打だったのだろう。
小鳥の置物。あれは兄妹にとって思い出の品で、ソフィアがそれを後生大事にしていたことは勿論知っている。ソフィアの部屋を掃除しようとして間違えて壊してしまったと聞いた時は、流石に何かヒヤリとしたものが走ったが、涙ながらに謝るナタリーを突き放すことはできなかった。
_____気がつけば、それ以来ソフィアとナタリーの確執は深まる一方だった。
「お前なんて家族ではない」と言ったソフィアを目にして、ナタリーの方についた自分は正真正銘のバカだった。長年生活を共にしてした妹の性格なんて分かりきっていたのに、どうしてか、ナタリーの言葉ばかりに耳を傾けてしまった。いや、どうしてかなんて分かりきっている。ナタリーのことが好きで、手放したく無かったからだ。それに、一度ナタリーの味方についた手前、引き返すことも出来なくなっていた。
愚かなことに、ナタリーのことを、信じ切っていた。
だからこそ、あの食事会の中で、驚愕し、後悔し、自己嫌悪に呑まれた。窓から刺す陽光を見事に反射したカナリアの刺繍は、トラウマの様に脳に焼き付いている。
絶句した。最初から最後まで、全てが嘘であってほしいとさえ思った。けれど、ソフィアの無実を知って、どことなく安堵している兄としての自分もいた。同じくナタリーの行いを知って、愛する彼女への裏切りに絶望する自分と、浅ましい彼女を嫌悪する自分がいた。ナタリーのことを信じていたくせに、真実を知った途端にスッと潮が引いていくような冷たさが心に満ちた。あんなにも、恋に溺れて妹を苦しめていたのに。
自分で自分の矛盾を分かっていながら、それが全て本心なのだから手に負えない。
_____きっと、これがナタリーとの関係に答えを見つけるチャンスなのだろう。
正直、会って顔を見てどう言ったふうに自分が揺らぐのか、予想できなかった。
涙ながらに懇願され、謝られて、それでも揺らがずに、今まで愛した女性を切り捨てることが出来るだろうか。
例えそれが、悪魔だったとしても。
同学年で、そこそこ爵位が高く、今後も付き合いがあるであろう間柄だったため、内心嫌々ながら引き受けた見合い話である。ナタリーの事前情報は何も無かったし、そもそも、そんなもの知ろうともしなかった。
しかし、その友人の顔を立てるつもりで何度か会う内に、少しずつ惹かれていったのだ。人為的で、ありがちな、物語なんて始まり様のない出会い方だろう。
けれど、彼女と自分の仲は運命だと信じていた。
今まで出会ってきた女性とは違う、素朴な笑顔も、会話の中で質問責めにしてこない穏やかさも、キツい香水ではない、甘い花のような香りも。全てが好ましく、また目新しく感じた。彼女となら穏やかで暖かな家庭を築けると思ったし、上手く折り合いをつけられると思った。
何より、彼女が好きだった。
恋というほど苛烈なものでは無いが、少しずつ積み重なっていく優しい愛情を持つことができていた。
今ならその中に多少の焦りもあったと自覚できるが、あの時はそういった焦りさえもアクセルにしかならず、共に暮らしたいと言う彼女に反対する意志は全くなかった。
自分の未来のために、最初の違和感を見逃したことが決定打だったのだろう。
小鳥の置物。あれは兄妹にとって思い出の品で、ソフィアがそれを後生大事にしていたことは勿論知っている。ソフィアの部屋を掃除しようとして間違えて壊してしまったと聞いた時は、流石に何かヒヤリとしたものが走ったが、涙ながらに謝るナタリーを突き放すことはできなかった。
_____気がつけば、それ以来ソフィアとナタリーの確執は深まる一方だった。
「お前なんて家族ではない」と言ったソフィアを目にして、ナタリーの方についた自分は正真正銘のバカだった。長年生活を共にしてした妹の性格なんて分かりきっていたのに、どうしてか、ナタリーの言葉ばかりに耳を傾けてしまった。いや、どうしてかなんて分かりきっている。ナタリーのことが好きで、手放したく無かったからだ。それに、一度ナタリーの味方についた手前、引き返すことも出来なくなっていた。
愚かなことに、ナタリーのことを、信じ切っていた。
だからこそ、あの食事会の中で、驚愕し、後悔し、自己嫌悪に呑まれた。窓から刺す陽光を見事に反射したカナリアの刺繍は、トラウマの様に脳に焼き付いている。
絶句した。最初から最後まで、全てが嘘であってほしいとさえ思った。けれど、ソフィアの無実を知って、どことなく安堵している兄としての自分もいた。同じくナタリーの行いを知って、愛する彼女への裏切りに絶望する自分と、浅ましい彼女を嫌悪する自分がいた。ナタリーのことを信じていたくせに、真実を知った途端にスッと潮が引いていくような冷たさが心に満ちた。あんなにも、恋に溺れて妹を苦しめていたのに。
自分で自分の矛盾を分かっていながら、それが全て本心なのだから手に負えない。
_____きっと、これがナタリーとの関係に答えを見つけるチャンスなのだろう。
正直、会って顔を見てどう言ったふうに自分が揺らぐのか、予想できなかった。
涙ながらに懇願され、謝られて、それでも揺らがずに、今まで愛した女性を切り捨てることが出来るだろうか。
例えそれが、悪魔だったとしても。
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