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エピローグ4・続ナタリーのその後
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はく、と喉から空気が漏れ出る音がした。
言葉は認識できるのに、目の前の男が何を言ったのか、まるで理解ができなかった。全ての感覚が遠のいて、まるで他人事のように現実感が無くなる。
理解できたのは、母親が顔を覆って泣き始めたのを見て、やっとのことだった。
「………平民になりなさい、ナタリー」
泣きながら、母はそう言った。
「私達との縁は切れるけど、それが一番、あなたにとって優しい選択なの……ねえ、お願い……」
「……お前が決めなさい。最後に与えられた自由なのだから」
「あなた………っ」
二人は抱き合って、身を寄せ合って泣いていた。
___平民になる。提示された選択肢の中では、確かに一番優しい条件なのかもしれない。しかし、ナタリーには借金がある。借金を抱えた、勘当された令嬢が1から平民として生活していくことは、果たして本当に優しい選択肢なのだろうか。
「い、イヤ……」
ぽたりと、握りしめた拳の上で涙が弾けた。
「いやよ、いや、イヤ………っ」
「ナタリー……」
「そこまでしなくちゃいけないのっ?私、私……」
「……侯爵家は遡れば王族にも名を連ねる血筋だ。それに、あのソフィア嬢は貴族令嬢達からの支持も熱いし、第二王子の筆頭婚約者候補だ。ソフィア嬢だけじゃない。アルフレッド君はリルベール侯爵の名を継ぐことは確実だし、現リルベール侯爵は今尚領地を広げている。夫人は元々公爵家の出だ。人脈も、地位も高貴さも、我々では全てが劣る。仮にお前が今まで通りに過ごしでもしたら、今度こそ、子爵家には後がない」
「それって、私をテイのいい的してるだけじゃない!」
ハア、とため息を着くと、父親は眉間の皺をほぐすように指先で顔をもみほぐした。疲労感の滲んだ仕草だった。
「お前は、本当に……どの口でそんなことを言っているんだ?お前に全ての慰謝料や借金を背負わせて一人追い出すことも可能なんだぞ、こっちは」
「………お、脅してるの?」
「ハー………お前を脅したところで何になる。選択肢を複数用意しているのも、ソフィア嬢の私物代以外を肩代わりしてやるのも、全てお前の返済能力の無さと過去の行動が招いた結果だ…」
「……………私、平民になんてなりたくない…」
「ならば娼婦になるか?」
「いやよ……っ」
「…異国に嫁ぐのか?家畜以下の扱いをされるかもしれないんだぞ」
「……………か、んがえさせて…」
「それは構わんが、時間が無い。明日、正午までに結論を出しなさい」
母はずっと泣いていた。
父親は、ここ数時間で何歳も歳をとったかのように老け込んでいる。
どうして。
どうして、こんなことに。
部屋に戻って考えるのはやはり、そんなことばかりだった。
1時間経っても、2時間経っても結論は出なかった。借金を返しながら平民として暮らしていくなんて、想像もつかない生活だ。かと言って異国の悪趣味なジジイに嫁ぐなんて、どんな扱いをされるか分かったもんじゃない。しかも借金は自分の手で返さなければ認められないため、そんなジジイを相手にしながら働かなきゃならない。娼婦になるのだってもちろんイヤだ。脂ぎった汚くて臭い男に股を開くなんて、真っ平ごめんだ。
___ああ、アルフレッドに会いたい。
あの忠実で、優しくて、甘ったるい男。顔は抜群に整っていて学園でも人気者だった。あの頃の日々に戻りたい。離婚なんて本当はしたくなかった。玉の輿だったし、手の届かないようなイケメンが家には二人もいたのに。
「(それもこれも全部、あの女がいたから!)」
ギリギリと、奥歯のすり減る音が部屋に響く。
どうすればアルフレッドを取り戻すことができるのだろう。
どうすれば、あの女に勝ることができるのだろう。
どうすれば、どうすれば…この悪夢から目覚めることができるだろう。
それを叶えるためにナタリーが取った選択肢は____現状から逃亡することだった。
言葉は認識できるのに、目の前の男が何を言ったのか、まるで理解ができなかった。全ての感覚が遠のいて、まるで他人事のように現実感が無くなる。
理解できたのは、母親が顔を覆って泣き始めたのを見て、やっとのことだった。
「………平民になりなさい、ナタリー」
泣きながら、母はそう言った。
「私達との縁は切れるけど、それが一番、あなたにとって優しい選択なの……ねえ、お願い……」
「……お前が決めなさい。最後に与えられた自由なのだから」
「あなた………っ」
二人は抱き合って、身を寄せ合って泣いていた。
___平民になる。提示された選択肢の中では、確かに一番優しい条件なのかもしれない。しかし、ナタリーには借金がある。借金を抱えた、勘当された令嬢が1から平民として生活していくことは、果たして本当に優しい選択肢なのだろうか。
「い、イヤ……」
ぽたりと、握りしめた拳の上で涙が弾けた。
「いやよ、いや、イヤ………っ」
「ナタリー……」
「そこまでしなくちゃいけないのっ?私、私……」
「……侯爵家は遡れば王族にも名を連ねる血筋だ。それに、あのソフィア嬢は貴族令嬢達からの支持も熱いし、第二王子の筆頭婚約者候補だ。ソフィア嬢だけじゃない。アルフレッド君はリルベール侯爵の名を継ぐことは確実だし、現リルベール侯爵は今尚領地を広げている。夫人は元々公爵家の出だ。人脈も、地位も高貴さも、我々では全てが劣る。仮にお前が今まで通りに過ごしでもしたら、今度こそ、子爵家には後がない」
「それって、私をテイのいい的してるだけじゃない!」
ハア、とため息を着くと、父親は眉間の皺をほぐすように指先で顔をもみほぐした。疲労感の滲んだ仕草だった。
「お前は、本当に……どの口でそんなことを言っているんだ?お前に全ての慰謝料や借金を背負わせて一人追い出すことも可能なんだぞ、こっちは」
「………お、脅してるの?」
「ハー………お前を脅したところで何になる。選択肢を複数用意しているのも、ソフィア嬢の私物代以外を肩代わりしてやるのも、全てお前の返済能力の無さと過去の行動が招いた結果だ…」
「……………私、平民になんてなりたくない…」
「ならば娼婦になるか?」
「いやよ……っ」
「…異国に嫁ぐのか?家畜以下の扱いをされるかもしれないんだぞ」
「……………か、んがえさせて…」
「それは構わんが、時間が無い。明日、正午までに結論を出しなさい」
母はずっと泣いていた。
父親は、ここ数時間で何歳も歳をとったかのように老け込んでいる。
どうして。
どうして、こんなことに。
部屋に戻って考えるのはやはり、そんなことばかりだった。
1時間経っても、2時間経っても結論は出なかった。借金を返しながら平民として暮らしていくなんて、想像もつかない生活だ。かと言って異国の悪趣味なジジイに嫁ぐなんて、どんな扱いをされるか分かったもんじゃない。しかも借金は自分の手で返さなければ認められないため、そんなジジイを相手にしながら働かなきゃならない。娼婦になるのだってもちろんイヤだ。脂ぎった汚くて臭い男に股を開くなんて、真っ平ごめんだ。
___ああ、アルフレッドに会いたい。
あの忠実で、優しくて、甘ったるい男。顔は抜群に整っていて学園でも人気者だった。あの頃の日々に戻りたい。離婚なんて本当はしたくなかった。玉の輿だったし、手の届かないようなイケメンが家には二人もいたのに。
「(それもこれも全部、あの女がいたから!)」
ギリギリと、奥歯のすり減る音が部屋に響く。
どうすればアルフレッドを取り戻すことができるのだろう。
どうすれば、あの女に勝ることができるのだろう。
どうすれば、どうすれば…この悪夢から目覚めることができるだろう。
それを叶えるためにナタリーが取った選択肢は____現状から逃亡することだった。
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