26 / 39
エピローグ1 ・その後のリルベール一家
しおりを挟む
あの地獄のような食事会が終わって、早1ヶ月。
ナタリーがいなくなったことで平穏が訪れたリルベール侯爵家であったが、遺恨はやはり大きく、何事も以前のようにはいかなかった。
まず第一に、ソフィアと家族の関わり方は当然変わった。
食事会の後、正式に謝罪をした両親と兄に対して、「許せる時が来るまで、心の準備をさせてほしい」と返した彼女は、以来必要最低限の会話のみを家族間のコミュニケーションとしている。
例外なのはレオンや侍女のミカエルなどの、ナタリーよりもソフィアを信じた者達だけで、彼等に対して柔らかな笑顔を見せるソフィアの姿は、他の者に複雑な想いを抱かせた。特に、元々シスコンで兄という立場を幼い頃から誇っていたアルフレッドは、自分が最もたる元凶なだけにどうすることもできず。償なおうにも過去の仕打ちが邪魔をして、身動きの取れない自身にストレスを重ねる毎日だった。
次に変わったのは、使用人の待遇である。
今回の件から使用人の声____つまり数の声というものの大切さを認識した侯爵は、1~3ヶ月に一度、アンケート方式で様々な希望や不満、改良点といった類のものを聞き出すことにしたらしく、これは使用人達から大好評だった。今まで我慢して使っていた使用人用の汚いトイレが整備されたり、壊れかけの掃除用具が新しくなったり、仕事をしないで怠けている者へ勧告が行ったりと、職場環境の改善に大きく貢献したためである。
また、ナタリーがいなくなったためか掃除婦達の業務は大変楽になり、職場の風向きも良くなったらしく、他にも執事達や庶民派のメイドもナタリーの悪影響を払拭できて、作業効率も段々と右肩上がりに戻ってきていた。
最後に挙げる変化点は、他貴族達からの評判である。
幸いなことに、悪評のほとんどはナタリーに向いており、学園では学生新聞にまでそのことが言及されているらしい。当然ナタリーが行ったソフィアへのいじめについても広まっており、男子生徒達がそれをダシに近づこうとしているらしく、レオンが全て威嚇して追い払っていた。噂では、ナタリーは事実上の勘当をされており、うんと年上の貴族に売られただとか、娼婦になっただとか、戦地に送られただとか、真偽不明なものが多く出回っていた。
しかし、もちろん全ての悪評がナタリーに向いたわけでは無い。当然子爵家は娘の教育方針についてネチネチと言及される日々であったし、仕事にも多かれ少なかれ影響が出るだろう。リルベール侯爵家は爵位の高さと血筋の高貴さから目に見えて糾弾されることはないが、扇の裏で何かしらの風評が駆け巡ったことは確実である。
そんな訳で、少なからずの悪評と亀裂を残し、しかし使用人達の待遇は多少改善され、家族間では独特な気まずい空気が漂うままではあるが、リルベール一家はひとまずの形を保っていた。
ナタリーがいなくなったことで平穏が訪れたリルベール侯爵家であったが、遺恨はやはり大きく、何事も以前のようにはいかなかった。
まず第一に、ソフィアと家族の関わり方は当然変わった。
食事会の後、正式に謝罪をした両親と兄に対して、「許せる時が来るまで、心の準備をさせてほしい」と返した彼女は、以来必要最低限の会話のみを家族間のコミュニケーションとしている。
例外なのはレオンや侍女のミカエルなどの、ナタリーよりもソフィアを信じた者達だけで、彼等に対して柔らかな笑顔を見せるソフィアの姿は、他の者に複雑な想いを抱かせた。特に、元々シスコンで兄という立場を幼い頃から誇っていたアルフレッドは、自分が最もたる元凶なだけにどうすることもできず。償なおうにも過去の仕打ちが邪魔をして、身動きの取れない自身にストレスを重ねる毎日だった。
次に変わったのは、使用人の待遇である。
今回の件から使用人の声____つまり数の声というものの大切さを認識した侯爵は、1~3ヶ月に一度、アンケート方式で様々な希望や不満、改良点といった類のものを聞き出すことにしたらしく、これは使用人達から大好評だった。今まで我慢して使っていた使用人用の汚いトイレが整備されたり、壊れかけの掃除用具が新しくなったり、仕事をしないで怠けている者へ勧告が行ったりと、職場環境の改善に大きく貢献したためである。
また、ナタリーがいなくなったためか掃除婦達の業務は大変楽になり、職場の風向きも良くなったらしく、他にも執事達や庶民派のメイドもナタリーの悪影響を払拭できて、作業効率も段々と右肩上がりに戻ってきていた。
最後に挙げる変化点は、他貴族達からの評判である。
幸いなことに、悪評のほとんどはナタリーに向いており、学園では学生新聞にまでそのことが言及されているらしい。当然ナタリーが行ったソフィアへのいじめについても広まっており、男子生徒達がそれをダシに近づこうとしているらしく、レオンが全て威嚇して追い払っていた。噂では、ナタリーは事実上の勘当をされており、うんと年上の貴族に売られただとか、娼婦になっただとか、戦地に送られただとか、真偽不明なものが多く出回っていた。
しかし、もちろん全ての悪評がナタリーに向いたわけでは無い。当然子爵家は娘の教育方針についてネチネチと言及される日々であったし、仕事にも多かれ少なかれ影響が出るだろう。リルベール侯爵家は爵位の高さと血筋の高貴さから目に見えて糾弾されることはないが、扇の裏で何かしらの風評が駆け巡ったことは確実である。
そんな訳で、少なからずの悪評と亀裂を残し、しかし使用人達の待遇は多少改善され、家族間では独特な気まずい空気が漂うままではあるが、リルベール一家はひとまずの形を保っていた。
843
お気に入りに追加
1,645
あなたにおすすめの小説
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
【短編】可愛い妹の子が欲しいと婚約破棄されました。失敗品の私はどうなっても構わないのですか?
五月ふう
恋愛
「お姉様。やっぱりシトラ様は、お姉様ではなく私の子供が産みたいって!」
エレリアの5歳下の妹ビアナ・シューベルはエレリアの婚約者であるシトラ・ガイゼルの腕を組んでそう言った。
父親にとって失敗作の娘であるエレリアと、宝物であるビアナ。妹はいつもエレリアから大切なものを奪うのだ。
ねぇ、そんなの許せないよ?
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!
夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」
自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。
私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。
覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる