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第25話・勝利
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へたり込んで何も言わないナタリーを気にも止めず、ソフィアはくるりと踵を返した。
「お姉様!」
明るい声に顔をあげると、頬を好調させ、ニコニコと微笑む子犬のような弟の姿があった。先ほどの不機嫌そうな声とは一転した、心底嬉しそうな表情を見ると、ソフィアの心まで仄かに温かくなる。
「……良かった…本当に………。すっきりしましたよ!」
無邪気な笑顔は幼い頃の面影を残したまま、すっかり大人びてしまった。懐かしい気持ちになりながら、瞳を細めてその顔をよく観察する。目の下にはうっすらと隈が浮かんでおり、連日この日の準備で夜更かしをしていたせいだろう、心なしか顔色も悪かった。
途端に、ソフィアの胸で色々な感情が込み上げた。
「レオン」
安堵や、喜色や、達成感。申し訳なさをかき消すほどに浮かんだそれらの感情ごと、レオンをギュッと抱きしめた。
「お、お姉様!?」
あの辛い日々の中で、彼だけがソフィアを信じてくれた、たった一人の家族だった。それがどれだけ頼もしく、心の支えとなったことだろう。今日こうして戦えたのだって、全て彼と使用人達が準備してくれたからであって、ソフィアだけではきっと泣いてばかりの毎日だったことだろう。ソフィアのためだけにクマを拵えてまで尽力してくれた彼が愛おしく、なによりもありがたい存在だった。
ワタワタと慌て出す彼をさらに強く抱きしめて、ただ一言、ソフィアは囁いた。
「勝ったよ」
間違いなく、それは勝利宣言であり、最大限のありがとうであった。
彼にもそれが伝わったのだろう、ぴたりと身体を静止すると、壊れ物を触るかのように優しく抱擁を返してくる。心なしか、少しの鼻を啜る音がした後、細かく震える声が端的に言葉を返してきた。
「………お疲れ様でした、お姉様」
「……うん。お疲れ様でした。レオン」
_____こうして、長かった両家の食事会は、幕を閉じた。
予定通り、ナタリーの所業を目の当たりにさせ、慰謝料をぶん取って離婚し、愚かな家族の目を覚ます。それらをやり遂げたレオン達は、晴れやかな顔で帰路につき、一方のアルフレッドや両親は、後悔と罪悪感の中、どん底の感情で馬車に揺られた。使用人達への対応や子爵家との会合、ソフィアへの償いをどうするか、今回の離婚によってどのような伝聞が広がるか……色々と今後の問題はあるものの、1番の山場を終えた彼等は、一様に、邸宅へと帰っていったのだった。
「お姉様!」
明るい声に顔をあげると、頬を好調させ、ニコニコと微笑む子犬のような弟の姿があった。先ほどの不機嫌そうな声とは一転した、心底嬉しそうな表情を見ると、ソフィアの心まで仄かに温かくなる。
「……良かった…本当に………。すっきりしましたよ!」
無邪気な笑顔は幼い頃の面影を残したまま、すっかり大人びてしまった。懐かしい気持ちになりながら、瞳を細めてその顔をよく観察する。目の下にはうっすらと隈が浮かんでおり、連日この日の準備で夜更かしをしていたせいだろう、心なしか顔色も悪かった。
途端に、ソフィアの胸で色々な感情が込み上げた。
「レオン」
安堵や、喜色や、達成感。申し訳なさをかき消すほどに浮かんだそれらの感情ごと、レオンをギュッと抱きしめた。
「お、お姉様!?」
あの辛い日々の中で、彼だけがソフィアを信じてくれた、たった一人の家族だった。それがどれだけ頼もしく、心の支えとなったことだろう。今日こうして戦えたのだって、全て彼と使用人達が準備してくれたからであって、ソフィアだけではきっと泣いてばかりの毎日だったことだろう。ソフィアのためだけにクマを拵えてまで尽力してくれた彼が愛おしく、なによりもありがたい存在だった。
ワタワタと慌て出す彼をさらに強く抱きしめて、ただ一言、ソフィアは囁いた。
「勝ったよ」
間違いなく、それは勝利宣言であり、最大限のありがとうであった。
彼にもそれが伝わったのだろう、ぴたりと身体を静止すると、壊れ物を触るかのように優しく抱擁を返してくる。心なしか、少しの鼻を啜る音がした後、細かく震える声が端的に言葉を返してきた。
「………お疲れ様でした、お姉様」
「……うん。お疲れ様でした。レオン」
_____こうして、長かった両家の食事会は、幕を閉じた。
予定通り、ナタリーの所業を目の当たりにさせ、慰謝料をぶん取って離婚し、愚かな家族の目を覚ます。それらをやり遂げたレオン達は、晴れやかな顔で帰路につき、一方のアルフレッドや両親は、後悔と罪悪感の中、どん底の感情で馬車に揺られた。使用人達への対応や子爵家との会合、ソフィアへの償いをどうするか、今回の離婚によってどのような伝聞が広がるか……色々と今後の問題はあるものの、1番の山場を終えた彼等は、一様に、邸宅へと帰っていったのだった。
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