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第22話・終幕へ

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まともな話し合いができたのは、両家の涙が枯れた頃のことである。

あの後思う存分に泣いたソフィアがやっと泣き止んだ頃合いで、丁度子爵家の方も(主にナタリーの父親の罵詈雑言が)ひと段落ついたのは幸運だった。お互い気まずい空気を残したままではあるが、なんとか机にありつき、やっと当初の予定通りに全員揃って顔を見合わせることができたのだ。

「お姉様、お辛いなら席を外しても良いんですよ」とレオンに声をかけられたが、同席したのは最後まで事の顛末を見届けたかったためである。それに、こんな時にまで弟に任せっぱなしで一人別室待機というのは辛いものがあった。
目尻を赤くしたまま、ソフィアは今回こそきちんと当事者としての自覚を持って席に着くことができた。

___話し合いは、凡そつつがなく進行した。

「残念ながら本日中に弁護人を用意することができなかったので、慰謝料関係の書類だけ持ってきました。一度持ち帰って拝見してください。あ、離婚する場合はもちろんそちらの責になりますので」

利発そうな、ハキハキとした口調でレオンが書類関係を机の向こう側に寄せた。
リルベール一家の向かい側には相対する形でナタリー達が鎮座しており、長テーブルの端っこがソフィアの位置する場所である。

「はい…勿論です」
「よかった。ちなみに聞くまでもありませんが、離婚について反対の意思はありますか?」
「ありません」

ナタリーに変わって父親が答えると、ナタリーははくはくと魚のように口を動かした。

「わ、わたし……離婚したく無い……」

ぽつりと、腫れた目で彼女が口にする。

そこからはもう、糾弾の嵐であった。

「この恥知らずが!!!」とナタリーの父親が彼女を怒鳴りつけ、ナタリーの母親も「どうしてこんな自分勝手な娘に……」と顔を覆い、流石にリルベール侯爵一家も顔を顰めた。

「ソフィアを傷つけたバカな父親にこんなことを言う資格は無いが、我が家には今後一切関わらないで欲しい。勿論、離婚以外認めないし、逆らうならば法廷で争っても良い」
「そんな…お義父様……っ」
「やめてくれ。君と私はもう他人だ。虫唾が走る」

ピシャリと言い切ると、リルベール侯爵はナタリーから視線を逸らし、まっすぐに向き直った。

そこからは、ほとんど両家の父親間での話し合いとなった。重要な書類の概要を確認し合い、合意を取り、必要最低限の言葉の交わし合いで、それらの契約を正式に取り決める日程の相談にまで及び、事前に書式を用意してきたレオンがたまに証拠品などの損害賠償について口を出す程度である。話し合いというよりはただの確認の取り合いで、子爵家は全面的に非を認め、陳謝と合意に徹底していた。

一点だけ、レオンが絶対に譲れないとしたのは、「壊したソフィアの私物に関しては完全にナタリーが稼いだ給料で返済すること」であった。

「正直、学園関係の慰謝料や離婚に伴う資金のあれこれに関しては、結果的に全金額が支払われるのであればどうでも良いんです。子爵家が肩代わりしようがその親戚から支払おうが。
ですが、ナタリー本人が悪意を持って壊したドレスや置物、宝石箱やアクセサリーに関しては彼女の賃金で賄ってください。これだけは譲れません」
「…………分かりました」
「ま、待って。それいくら?いくらなのっ?私、働いたことなんてないのにっ…」
「お前には一生かけても払えないような金額ですよ。どんな方法を取るかはそちら次第ですが、何をしてでも支払ってもらいますから」

温厚なレオンが女性に対して「お前」と呼称したことに、ソフィアは表情を変えずとも内心、少しだけ驚いていた。

「っなんで、何でこんなことにぃ……っ」
「それはこれからじっくり考えれば良いのでは?幸い、時間だけはお有りでしょう」
「……っ、ぅ」

メソメソと泣き出したナタリーを置きざりに、話し合いはサクサクと進み、皆が想像したよりも短時間での終了となった。
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