16 / 39
第16話・同窓会
しおりを挟む
「久しぶりね、ナタリー」
学生服を着た3人のうち1人の女生徒がそう声をかけた。随分と親しげな言葉には棘が滲んでおり、好意的でないのは他人から見ても明らかである。
「どういうことなの、レオン…」
証拠を掴み、現場を見せて終わりだと思っていたソフィアがそっとレオンに耳打ちした。
「随分埃の溜まった身体でしたので、もう少し叩いてみようかと思って、内緒で準備しちゃいました」
「(ここまで徹底的に復讐するとなると姉様は躊躇しただろう)」という思案を笑顔で多い隠し、彼もまた小声で答えた。ソフィアはそれに対して困ったような驚いたような微妙な表情をしており、予想通り芳しい反応ではない。しかし気にすることもなくレオンは微笑んだ。
「大丈夫、姉様は見ているだけでいいのですから」
自分がされたことに対しての復讐より、愛する人を傷つけられたことへの復讐心の方が苛烈なのだというのは物語でもそうと決まっている。
例に漏れず、レオンは家族のためならば徹底的に冷徹になれるタチだった。それが姉に対してとなると尚更のことである。
「ナタリー、私のこと、覚えてる?ああ、聞き方が違うわね。ローゼのこと、覚えてる?」
そんな姉弟を置き去りに、女生徒は熱気さえ感じさせる異様さでナタリーに詰め寄った。
キッと眦を吊り上げ、睥睨しながらそう言う姿は憎悪に満ちている。
「アンタが私の親友を虐めて不登校にした挙句、のうのうと学生結婚までして逃げ切るのは本当に納得いかなかった。庶民だからって見下して、何もできないだろうってバカにしてたの、絶対に後悔せてやるって思ってたわ。だから、この機会を頂けて本当に感謝している」
「う、嘘よ、そんなの!」
「嘘じゃない。この日のために何ヶ月もかけて証拠を掴んできたわ!アンタは覚えてないかもしれないけど、わざとスープをかけて服を汚したり、彼女の私物を噴水に投げ入れたり、平民には不相応だと装飾品を取り上げたり!目撃者と、アリバイも揃ってる!」
「そんな訳ない!出鱈目だわ!」
「嘘だと思うなら証拠品を見ればいい。リルベール家の雇った探偵の名前が書かれた資料があるわ!」
彼女は肩を怒らせながら、手元にあった紙の資料をナタリーの前に投げ捨てた。ソフィアの両親は良い子だと信じていた筈の女の子を化け物でも見るかのような目で見つめ「まさか…」「そんな…」と囁きあっている。当然、あの騒ぎがあった後でナタリーのことを信じる者は1人もおらず、資料を拾うナタリーを見る目は全てが疑念に満ちていた。
「彼女の人生を壊した責任を、絶対に取らせてやるから……!」
目に涙を浮かべながらそう言うと、彼女は踵を返して部屋の奥へと引っ込んで行った。まるで役者が舞台脇に向かうような仕草に何かを察したのか、アルフレッドの喉が引き攣ったような音を出した。
引き返した彼女の代わりに出て来たのは2人の男子生徒で、片方は悲しみを、片方は怒りをその顔に携えている。
黒髪の男子生徒は手に何故か大量の手紙を抱えており、眉を下げながら話し始めた。
「ナタリー。これは全て君が僕にくれた恋文だ。当然分かるだろう」
「……ぁ…」
「病気になり、僕を悲しませたくないからと突然別れを告げられて、何も飲み込めないまま苦しむ日々が続いた。けれど耳にしたのは君が婚約して、同棲しているという噂だ。当然病気も嘘。裏切られた怒りよりも、君にとって僕が浮気相手でしかない悲しみの方が大きかった」
「し、知らない。私、何も……」
「知らないと言うのなら、この手紙は一体何だったんだ。街にも何度もデートに行った。お互いの部屋を行き来だってしたから、当然それを知っている人もいる。もう嘘をつくのはやめてくれないか」
本当に悲しそうに、今にも消えてしまいそうな儚い様子でそう口にすると、彼は手紙をナタリーの両親に手渡した。
事態を飲み込めないのか、どこかぼんやりとした様子で佇んでいた2人は、慌てて手紙を受け取ると中身を確認し始める。既に切られている封筒の中から恐る恐る紙を取り出して、「ああ、」と悲痛な声を漏らした。
「これは…ナタリーの字ですわ……それに、使っている便箋も定期的に我が家に送られてきているものと一緒です……っ」
「そんなの、いくらでも偽造できるじゃない!」
叫ぶようにそう言ったナタリーの頬を張ったのは、彼女の父親だった。
「あなた!!」
「離してくれ、こんな女に育ててしまった私の責任でもあるが、それ以上に恥を知らないこの子に教えてやれる最後の機会かもしれない!お前を信じていた私がバカだった!!」
「やめてください、あなた!」
「お前も何とか言ったらどうなんだ!」
「ここで夫婦喧嘩は辞めてくださいますか?まだナタリーに言いたいことがある者が控えておりますから」
悲しげな表情を浮かべたまま「愛していたよ」と告げると、彼も後ろに踵を返した。
交代と言わんばかりに出て来たのは、赤い髪の体格のいい男子生徒である。
学生服を着た3人のうち1人の女生徒がそう声をかけた。随分と親しげな言葉には棘が滲んでおり、好意的でないのは他人から見ても明らかである。
「どういうことなの、レオン…」
証拠を掴み、現場を見せて終わりだと思っていたソフィアがそっとレオンに耳打ちした。
「随分埃の溜まった身体でしたので、もう少し叩いてみようかと思って、内緒で準備しちゃいました」
「(ここまで徹底的に復讐するとなると姉様は躊躇しただろう)」という思案を笑顔で多い隠し、彼もまた小声で答えた。ソフィアはそれに対して困ったような驚いたような微妙な表情をしており、予想通り芳しい反応ではない。しかし気にすることもなくレオンは微笑んだ。
「大丈夫、姉様は見ているだけでいいのですから」
自分がされたことに対しての復讐より、愛する人を傷つけられたことへの復讐心の方が苛烈なのだというのは物語でもそうと決まっている。
例に漏れず、レオンは家族のためならば徹底的に冷徹になれるタチだった。それが姉に対してとなると尚更のことである。
「ナタリー、私のこと、覚えてる?ああ、聞き方が違うわね。ローゼのこと、覚えてる?」
そんな姉弟を置き去りに、女生徒は熱気さえ感じさせる異様さでナタリーに詰め寄った。
キッと眦を吊り上げ、睥睨しながらそう言う姿は憎悪に満ちている。
「アンタが私の親友を虐めて不登校にした挙句、のうのうと学生結婚までして逃げ切るのは本当に納得いかなかった。庶民だからって見下して、何もできないだろうってバカにしてたの、絶対に後悔せてやるって思ってたわ。だから、この機会を頂けて本当に感謝している」
「う、嘘よ、そんなの!」
「嘘じゃない。この日のために何ヶ月もかけて証拠を掴んできたわ!アンタは覚えてないかもしれないけど、わざとスープをかけて服を汚したり、彼女の私物を噴水に投げ入れたり、平民には不相応だと装飾品を取り上げたり!目撃者と、アリバイも揃ってる!」
「そんな訳ない!出鱈目だわ!」
「嘘だと思うなら証拠品を見ればいい。リルベール家の雇った探偵の名前が書かれた資料があるわ!」
彼女は肩を怒らせながら、手元にあった紙の資料をナタリーの前に投げ捨てた。ソフィアの両親は良い子だと信じていた筈の女の子を化け物でも見るかのような目で見つめ「まさか…」「そんな…」と囁きあっている。当然、あの騒ぎがあった後でナタリーのことを信じる者は1人もおらず、資料を拾うナタリーを見る目は全てが疑念に満ちていた。
「彼女の人生を壊した責任を、絶対に取らせてやるから……!」
目に涙を浮かべながらそう言うと、彼女は踵を返して部屋の奥へと引っ込んで行った。まるで役者が舞台脇に向かうような仕草に何かを察したのか、アルフレッドの喉が引き攣ったような音を出した。
引き返した彼女の代わりに出て来たのは2人の男子生徒で、片方は悲しみを、片方は怒りをその顔に携えている。
黒髪の男子生徒は手に何故か大量の手紙を抱えており、眉を下げながら話し始めた。
「ナタリー。これは全て君が僕にくれた恋文だ。当然分かるだろう」
「……ぁ…」
「病気になり、僕を悲しませたくないからと突然別れを告げられて、何も飲み込めないまま苦しむ日々が続いた。けれど耳にしたのは君が婚約して、同棲しているという噂だ。当然病気も嘘。裏切られた怒りよりも、君にとって僕が浮気相手でしかない悲しみの方が大きかった」
「し、知らない。私、何も……」
「知らないと言うのなら、この手紙は一体何だったんだ。街にも何度もデートに行った。お互いの部屋を行き来だってしたから、当然それを知っている人もいる。もう嘘をつくのはやめてくれないか」
本当に悲しそうに、今にも消えてしまいそうな儚い様子でそう口にすると、彼は手紙をナタリーの両親に手渡した。
事態を飲み込めないのか、どこかぼんやりとした様子で佇んでいた2人は、慌てて手紙を受け取ると中身を確認し始める。既に切られている封筒の中から恐る恐る紙を取り出して、「ああ、」と悲痛な声を漏らした。
「これは…ナタリーの字ですわ……それに、使っている便箋も定期的に我が家に送られてきているものと一緒です……っ」
「そんなの、いくらでも偽造できるじゃない!」
叫ぶようにそう言ったナタリーの頬を張ったのは、彼女の父親だった。
「あなた!!」
「離してくれ、こんな女に育ててしまった私の責任でもあるが、それ以上に恥を知らないこの子に教えてやれる最後の機会かもしれない!お前を信じていた私がバカだった!!」
「やめてください、あなた!」
「お前も何とか言ったらどうなんだ!」
「ここで夫婦喧嘩は辞めてくださいますか?まだナタリーに言いたいことがある者が控えておりますから」
悲しげな表情を浮かべたまま「愛していたよ」と告げると、彼も後ろに踵を返した。
交代と言わんばかりに出て来たのは、赤い髪の体格のいい男子生徒である。
743
お気に入りに追加
1,694
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……

妾を正妃にするから婚約破棄してくれないかと言われました。
五月ふう
恋愛
妾を正妃にしたいから、婚約破棄してくれないか?王は、身を粉にして王のために働いていたウィリにそう言った。ウィリには、もう帰る場所がないのに。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします
リオール
恋愛
私には妹が一人いる。
みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。
それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。
妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。
いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。
──ついでにアレもあげるわね。
=====
※ギャグはありません
※全6話


白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる