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第14話・兄の心情

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花露が朝日の光を反射するような、美しい笑顔だった。   

「お兄様、助けてくれて、ありがとうございます」
「…私、嬉しい……はじめて…っ、初めてです。お兄様が、ナタリー様から私を庇ってくださったのは…」

兄が、妹を守る。
それは当然のことであり、上に生まれた者としての義務だ。愛する存在を守ることができる特権を持つのは、生まれた時から共に育つ家族だけのものなのだ。幼い時から隣に立つ自分達だけが、どんな危険からも彼女を遠ざけてやれる筈だった。

それなのに、己は今、この子に何を言わせた?

振りかぶる花瓶から妹を守るなんて、兄としてなにも不思議なことでは無いだろう。可愛いこの子の心と身体をまるごと庇護してやろうと決めたのは、間違いなく幼い頃の自分だ。兄が妹を守るのに理由なんていらない。目に見えなくても分かるほど必然的で、当然のことなのに。

その当然のことを、妹は初めてだと言った。自分の記憶を辿ってみても、ナタリーよりも妹を信じ、守ってやったことが一度も無い。そのことに気付いて愕然とし、脳みその奥が氷のように冷えていく。

どうして信じてくれなかったのだと非難されたのなら、どれほど心が楽だっただろう。
お前なんて大嫌いだと遠ざけられれば、どれほど救われただろう。

世界で一番大切だった筈の妹を信じず、傷つけ、挙句自分こそが正しいのだと信じて疑わずに彼女を糾弾した。その結果帰ってきたのは失望でも怒りでもない。

「初めて自分を庇ってくれたことが嬉しい」だなんて、言わせるべきでは無かったのに。こんなにも悲しく健気なことを言わせたという事実が心に重くのしかかり、莫大な罪悪感だけが渦巻いている。
誰よりも守るべきだった筈の存在を、恋に浮かれ突き放してしまった。全て己の愚行が招いた結果のことなのに、謝ることすら烏滸がましい。
自己嫌悪に溺れそうになりながら、それでもお兄様と呼んで笑顔を向けてくれたソフィアが愛おしくて、悲しいほどに眩しい。喜ぶ資格もないのに、心は嫌われていないことへの安心で微かに震えていて、それがなんと図々しく恥ずかしいことだろう。

「あ……ああ……嗚呼…っ」

泣く資格など、自分には無いのだろう。今まで無碍にしてきたソフィアの涙の数々を思い出せば、そんなことは自明の理である筈だった。私は今まで何を見てきたのだろう。こんなにも無垢で愛しい存在を、もうどうしようもないほど傷つけた。

それが分かった時には、既に何もかもが遅かった。

涙を浮かべる自分を見て、ソフィアがギョッとする。駆け寄ってこようとした彼女を、レオンが引き止めた。その姿は自分よりも余程兄妹のようで、それがまた虚しかった。



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