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第11話・疑念
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言葉を失い、唖然と立ち尽くすアルフレッドを気にも留めず、レオンは4ページ目の解説を始めた。
「まず、ナタリーが壊した姉様の私物の詳細と、その数です。合計16個、値段の総合は優しく見積もっても、子爵家の皆様の総資産に及ぶかと思われます。中でもナタリーがうっかり引き裂いてしまった群青のドレスは、屋敷一つでも足りないような高価なもので、姉様のクラスメイトの伝を使い破格の値段で買い合わせたものです。オーダーメイドのものですから、通常のドレスの数倍ほどの値段になります」
うっかり、という部分を強調するかのように鼻を鳴らして言うと、いつもは下品な行為だと嗜める両親もワナワナと唇を震わせていた。ドレスのことは知らなかったのだろう。その希少さは他でもなく、金を出した父が知っている。
「ま、待ってくれ。16個っ?僕の知る限りでは、ナタリーが誤って壊してしまったソフィアの私物は3つだ」
アルフレッドの「壊してしまった」という無意識の言葉遣いを聞いて、レオンの顔から一瞬表情が消えた。
「3度も貴方達に信用されなければ、姉様だって学びます。訴えるのが無駄だと分かると、姉様は諦めてしまわれた。それをいいことに、姉様の私物を勝手に持ち出した挙句、そのまま盗んだり、壊したりしたのはナタリーです」
アルフレッドは情けない顔をしてレオンを見つめた。まだどこかでナタリーを信じるその表情に、(やはり、証拠だけではダメだな)と確信する。姉様と使用人に協力を仰いで良かった。その目で見なければ、兄はどこかでナタリーを信じてしまうのだろう。
「………本当に、ナタリーがそんなことを?」
「だから、そうだと言っているんです。現にハンカチだってそうでしょう」
先程の光景を思い出しながらハンカチの名を出すと、アルフレッドはぐっと黙り込んだ。
「、………」
「ちなみに、次々となくなる姉様の私物をナタリーが盗み、壊したと言う証拠ですが、そのうち3つは言わずもがな。兄様達もナタリーが自分から嘘泣きで姉様に謝ったのを見ていたのだから、知っているでしょう?お父様、あの時貴方は姉様を嗜めましたよね?端ない、と」
名指しされた父の顔がサッと蒼くなる。母はそんな父を支えるように寄り添ってはいるが、指先には血の気がなく、微かに震えていた。
ナタリーの両親はもう倒れんばかりの形相でその様を見守っていた。口を挟めないまま、刑台に縛り付けられた罪人のように無力に口を開閉させ、母親は目に涙を溜めている。
「使用人が確認したところ、ナタリーの部屋からアザラシの刻印がされた口紅が見つかったそうです。この意味、分かりますよね?」
「…まさか」
「まさかも何もないでしょう。これは辺境伯を招いた際、友好の証として向こうの令嬢から姉様がいただいたものです。これもたまたまだ、とおっしゃるのですか?」
「………それは、」
「兄様、僕は貴方に心底失望しています。これ以上くだらない言い訳を重ねるのなら、それは軽蔑に変わる。そうはなりたくないから、こうして忠告しているのです」
カラカラに乾いた喉から、アルフレッドは声を絞り出した。
「……ナタリーとソフィアは、どこに」
それを聞いたレオンは、まるで生徒の口から問題の答えを聞いた教師のように、柔く薄く微笑んだ。それは、よくできました、告げるような慈愛と見下しに満ちている。
「それでは、いきましょうか。姉様とナタリーのもとへ」
「まず、ナタリーが壊した姉様の私物の詳細と、その数です。合計16個、値段の総合は優しく見積もっても、子爵家の皆様の総資産に及ぶかと思われます。中でもナタリーがうっかり引き裂いてしまった群青のドレスは、屋敷一つでも足りないような高価なもので、姉様のクラスメイトの伝を使い破格の値段で買い合わせたものです。オーダーメイドのものですから、通常のドレスの数倍ほどの値段になります」
うっかり、という部分を強調するかのように鼻を鳴らして言うと、いつもは下品な行為だと嗜める両親もワナワナと唇を震わせていた。ドレスのことは知らなかったのだろう。その希少さは他でもなく、金を出した父が知っている。
「ま、待ってくれ。16個っ?僕の知る限りでは、ナタリーが誤って壊してしまったソフィアの私物は3つだ」
アルフレッドの「壊してしまった」という無意識の言葉遣いを聞いて、レオンの顔から一瞬表情が消えた。
「3度も貴方達に信用されなければ、姉様だって学びます。訴えるのが無駄だと分かると、姉様は諦めてしまわれた。それをいいことに、姉様の私物を勝手に持ち出した挙句、そのまま盗んだり、壊したりしたのはナタリーです」
アルフレッドは情けない顔をしてレオンを見つめた。まだどこかでナタリーを信じるその表情に、(やはり、証拠だけではダメだな)と確信する。姉様と使用人に協力を仰いで良かった。その目で見なければ、兄はどこかでナタリーを信じてしまうのだろう。
「………本当に、ナタリーがそんなことを?」
「だから、そうだと言っているんです。現にハンカチだってそうでしょう」
先程の光景を思い出しながらハンカチの名を出すと、アルフレッドはぐっと黙り込んだ。
「、………」
「ちなみに、次々となくなる姉様の私物をナタリーが盗み、壊したと言う証拠ですが、そのうち3つは言わずもがな。兄様達もナタリーが自分から嘘泣きで姉様に謝ったのを見ていたのだから、知っているでしょう?お父様、あの時貴方は姉様を嗜めましたよね?端ない、と」
名指しされた父の顔がサッと蒼くなる。母はそんな父を支えるように寄り添ってはいるが、指先には血の気がなく、微かに震えていた。
ナタリーの両親はもう倒れんばかりの形相でその様を見守っていた。口を挟めないまま、刑台に縛り付けられた罪人のように無力に口を開閉させ、母親は目に涙を溜めている。
「使用人が確認したところ、ナタリーの部屋からアザラシの刻印がされた口紅が見つかったそうです。この意味、分かりますよね?」
「…まさか」
「まさかも何もないでしょう。これは辺境伯を招いた際、友好の証として向こうの令嬢から姉様がいただいたものです。これもたまたまだ、とおっしゃるのですか?」
「………それは、」
「兄様、僕は貴方に心底失望しています。これ以上くだらない言い訳を重ねるのなら、それは軽蔑に変わる。そうはなりたくないから、こうして忠告しているのです」
カラカラに乾いた喉から、アルフレッドは声を絞り出した。
「……ナタリーとソフィアは、どこに」
それを聞いたレオンは、まるで生徒の口から問題の答えを聞いた教師のように、柔く薄く微笑んだ。それは、よくできました、告げるような慈愛と見下しに満ちている。
「それでは、いきましょうか。姉様とナタリーのもとへ」
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