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第3話・エスカレート

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「あっ、ソフィア様、ごめんなさい。お部屋をお掃除しようと思ったら、手が滑ってしまって…可愛い小鳥の置物が割れてしまいましたの。アルフレッドに代わりの物を買ってくるよう頼みますから、どうか許してくださいね」

そう口にしたナタリーさんが壊した置物は、兄弟との思い出の品だった。
初めてお忍びで下町に出かけた際、平民の金銭感覚を掴める様に、と渡された僅かなお小遣いでは足りない程の値段のガラス細工は、店頭のショーケースに飾られていたものだ。ガラス全体が緑と青のグラデーションになっていて、羽の彫り具合や見る角度によって色の感じ方が変わるそれは、庶民的な雑貨屋でも目玉商品のようで、値札には自分が持ってきたお金の倍ほどの数字が書かれていた。

『綺麗…』

そう零しただけで、買うつもりなんてなかった。お金は自分一人では足りなかったし、他の店を巡る気もあった。

しかし、私のその一言を聞いた瞬間、兄と弟は目を合わせると、ズカズカと店に入り、包装された小鳥の置物を、私に渡してきたのだ。
あまりに突然のことで、私は終始固まることしか出来なかった。目を見開いて驚く私に何を思ったのか、悪戯が成功した子供の様に笑う二人に、私もつられて笑って、心からありがとうと口にしたのだ。その日の帰り道に、今度は私が二人に下町のドーナツを買って、初めて食べ歩きをしながら「秘密だね」と小指を交わらせたのが懐かしい。

粉々になったガラスには、不思議とあの日の夕焼けと寂寞が反射されている様だった。

ナタリーさんは、雑事をこなし、兄と仲睦まじく過ごしていく内に、両親の信頼を勝ち取っていった。私が泣いて許さないと怒った時も、味方にはついてくれなくて、「わざとじゃないから、許してあげなさい」と嗜められる程だった。弟と、仲の良い使用人は一緒に怒ってくれたけれど、兄は「新しいのを買ってやるから。悲しいかもしれないが、彼女も反省している」と言うばかりで、わざとかもしれない、と言う私の泣き言を困った様に聞いていた。

この一件以来、両親と兄を味方につけたと確信したのか、ナタリーさんの行動はますます異常化していった。
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