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第1話・兄嫁
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第一印象は、素朴で可愛らしい人、というありきたりなものだった。
兄に嫁いできた、小さな家の子爵令嬢。嫁いできたと言ってもまだ正式には婚姻していないが、結婚することは確定で、未来の義姉になる人であった。くりくりとした小動物のような瞳に、暗めの茶色い巻毛を持った、至って平凡な女の子である。まだ幼さの残る容貌は、姉というよりは同級生のような親しみやすさを感じさせた。家の爵位が侯爵なのに対し、子爵位の家の長女というのがどうにも引っかかったが、別に爵位差婚がないわけではなく、むしろドラマ性があって素敵だと、玉の輿に憧れる人も多くいる。
そう大したことではないだろう、とすぐに受け入れられた。
学園内でたまたま意気投合し、そのまま異例の学生結婚を果たした彼等は、卒業するのを待たずに我が家で生活を共にし始めた。今まで潔癖症のきらいがあった兄がめでたく結婚となっては、妹としても嬉しいもので、挨拶に来た彼女を全身全霊で歓迎した。優しそうな人だな、とも思ったし、気弱そうに笑う姿は平凡な顔立ちながらも可憐で、なるほど兄の好みはこういう純朴そうな子なんだな、と納得もできた。
生活を共にしても面倒はないだろうと思ったし、家族の幸せな新婚生活を目の当たりにできることに、誰一人として反対者はいなかった。爵位の低さに渋っていた父母も兄の熱意に押し負け、最終的には「お前が幸せならば、それで良い」と了承していたし、害の無さそうな彼女を見て安心もしていた。唯一弟だけは猛反対していたが、シスコンな彼は、私が宥めると渋々了承してくれた。
兄は、彼女が家に嫁いできてから、本当に幸せそうな顔をするようになった。整った顔立ちと高い爵位に惹かれ、下心を持った女性ばかりが寄ってくる日常に疲れていた彼は、ようやく愛する女性を見つけられた喜びで浮かれ切っていた。実際、兄と義姉2人の仲はとても良く、屋敷内ではいつも寄り添いながら歩いていて、オシドリのような有様だった。そうまでイチャイチャされては父も母も認めるしかなく、苦笑いしながら良い人を見つけたんだな、と口にする程だった。
兄の嫁、義姉であるナタリーは、この家に嫁いできてから三日も経つ頃には、雑事をこなす様になっていった。家に置いてもらってるのだからと必要のない掃除や雑用をこなし、使用人を困らせるほどだった。貴族にしては珍しい程謙虚で働き者なのだと、その時は両親共々本気で感動していた。
一歳歳下の弟が彼女を毛嫌いする訳を、きちんと知ろうとすれば良かったのだ。
兄に嫁いできた、小さな家の子爵令嬢。嫁いできたと言ってもまだ正式には婚姻していないが、結婚することは確定で、未来の義姉になる人であった。くりくりとした小動物のような瞳に、暗めの茶色い巻毛を持った、至って平凡な女の子である。まだ幼さの残る容貌は、姉というよりは同級生のような親しみやすさを感じさせた。家の爵位が侯爵なのに対し、子爵位の家の長女というのがどうにも引っかかったが、別に爵位差婚がないわけではなく、むしろドラマ性があって素敵だと、玉の輿に憧れる人も多くいる。
そう大したことではないだろう、とすぐに受け入れられた。
学園内でたまたま意気投合し、そのまま異例の学生結婚を果たした彼等は、卒業するのを待たずに我が家で生活を共にし始めた。今まで潔癖症のきらいがあった兄がめでたく結婚となっては、妹としても嬉しいもので、挨拶に来た彼女を全身全霊で歓迎した。優しそうな人だな、とも思ったし、気弱そうに笑う姿は平凡な顔立ちながらも可憐で、なるほど兄の好みはこういう純朴そうな子なんだな、と納得もできた。
生活を共にしても面倒はないだろうと思ったし、家族の幸せな新婚生活を目の当たりにできることに、誰一人として反対者はいなかった。爵位の低さに渋っていた父母も兄の熱意に押し負け、最終的には「お前が幸せならば、それで良い」と了承していたし、害の無さそうな彼女を見て安心もしていた。唯一弟だけは猛反対していたが、シスコンな彼は、私が宥めると渋々了承してくれた。
兄は、彼女が家に嫁いできてから、本当に幸せそうな顔をするようになった。整った顔立ちと高い爵位に惹かれ、下心を持った女性ばかりが寄ってくる日常に疲れていた彼は、ようやく愛する女性を見つけられた喜びで浮かれ切っていた。実際、兄と義姉2人の仲はとても良く、屋敷内ではいつも寄り添いながら歩いていて、オシドリのような有様だった。そうまでイチャイチャされては父も母も認めるしかなく、苦笑いしながら良い人を見つけたんだな、と口にする程だった。
兄の嫁、義姉であるナタリーは、この家に嫁いできてから三日も経つ頃には、雑事をこなす様になっていった。家に置いてもらってるのだからと必要のない掃除や雑用をこなし、使用人を困らせるほどだった。貴族にしては珍しい程謙虚で働き者なのだと、その時は両親共々本気で感動していた。
一歳歳下の弟が彼女を毛嫌いする訳を、きちんと知ろうとすれば良かったのだ。
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