婚約者の幼馴染に圧勝するまでの軌跡

きんもくせい

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ベネディクト視点3・違い

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微かに首を傾げた彼女に、補填するように言葉を重ねていく。

「俺は昔から、女性があまり得意ではない。母も早くに亡くしたからな、唯一よく知るのは近衛騎士団の娘のアンナくらいだ」 
 
アンナという名前を出すと、フラヴィアは納得したように頷いた。

「ああ。幼馴染だという方ですね。それと、先ほどの言葉は否定させていただきますわ。私のような女性は、視野を広げればきっと沢山いるでしょう。貴方に寄ってくるような積極的な女性が必然的に似通った特徴を持っていただけですよ」

もう、彼女の口にすること全てが新鮮だった。
何でもないように、詩の暗誦をするのと同じくサラリと言われた言葉。彼女にしてみればなんでもないような問答だろう。しかし、そんなことを言われたのは初めてだった。 

自分に寄ってくる女が、必然的に似たような性格だっただけ。
……確かに、少し視野を広げてみればそうだったのかもしれない。しかし自分は近寄ってくる女性を捌くのに精一杯で、周囲のの人を見る余裕なんて無かった。その余裕の無さが女性に対する苦手意識に繋がっていたのだろう。今になって振り返ると、ほんの少しはそう思えた。
そんなふうに思えた自分にも何だか少し、ハッとさせられた。

「…………そんなことを言われるのも、初めてだ。アンナにも似たような事を言ったことがあるが、その時は…」

その時は、「そりゃそーだよ!ベネディクトと剣技の話なんてできる女、私くらいしかいないし!ていうか私ってけっこう男っぽいところあるし、そんなお嬢様いないでしょ」と、そんなふうに返答された気がする。

そう言おうとして思わず閉口してしまったのは、書庫に乱入者が現れたからだ。

「あーーーっ!!やっと見つけた!」


そこからは、静かに2人で話す時間は無くなってしまった。
乱入してきたアンナに丁寧に挨拶をし、あまつ仮にも婚約者同士の逢瀬なのに立ち入りを許可するフラヴィアはやはり変わっていたが、それよりも幼馴染の稚拙さにため息が出た。

子供っぽくて活発で、面倒臭くない。だから、アンナは無理に遠ざけたりしなかった。しかし、婚約者がいるならば流石に自重すべきだとは思う。だが、当の婚約者本人はまるで気にした様子もなく、「コーネリアス家の書庫は素晴らしいものですから」と見当違いなことを言ってアンナを歓迎している始末。
イレギュラーな女性すぎて、どう対応していいかも分からない。きっとこれからも、彼女のこうしたズレた言動を目の当たりにするだろう。

ああ、けれど。しかし。

「本日は、本当にありがとうございました。ベネディクト様」

出会った時よりも数段柔らかく笑う彼女を見て、それもいいかと思えた。
これから彼女を知っていけば、そんなイレギュラーもレギュラーになるだろうと、そう考えて。
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