婚約者の幼馴染に圧勝するまでの軌跡

きんもくせい

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ベネディクト視点1・興味?

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初めて会った時は思わず、その美しさに瞠目した。

輝くような白い肌と整った顔立ち、品の良いすんなりとした手足に小鳥のような首。神が丹精込めて仕立て上げた極上のデザートのような、そういった造形だと思った。一瞬、自分が何者なのかも忘れて見惚れた。

しかし、すぐに目的を思い出し、その美しさを振り払うように喉を震わせた。

「くだらんな。俺は剣技と仕事の邪魔をしない女なら、誰でもいい」

それは彼女に言っているようでもあって、その実自分に言い聞かせている言葉でもあった。

女というのは厄介だ。
ムスクとバニラの甘ったるい香水の匂いを纏い、いかに自分を煌びやかに見せるかの工夫が凝らされた重いドレスを装備し、他人の迷惑も考えずにあれやこれやと騒ぎ立てる。一度執着されれば災難極まりなく、公私の区別もつかないのか仕事場まで追いかけてくる。

自分に自信がある貴族令嬢なんかは特にそれが顕著だ。

今までの歴代の婚約者を思い出しながら、胸には嫌悪感が立ち込めた。


しかし、それも目の前の女性の春風のような微笑みによって雲散した。



「奇遇ですね。私も、我が領地の民と私の公務を邪魔しない、体のいい虫除けが欲しかったところですの」

ささやかな、弦楽器の高い部分を撫でたような声だった。
何でもないようにそう言った彼女はどうしてか、本心からそれを言っているように見えた。

今までも、そんなことを口にする女はいた。「私はお仕事の邪魔はしませんから」「ベネディクト様のおそばに居られるだけで…」と、頬を染めてうっとりするのが決まりだった。
しかしそれもしばらく経てば「私と公務のどちらを優先なさるの!?」とヒステリックに喚き散らし、「おそばにいるだけで……」なんて言っていたのは幻想だったのか、自分だけの時間を取れないほどに付き纏われた。

そのため、この類の言葉は自分の気を引くための戯言だと、特に警戒していたのだが……。

どうしてか、彼女は本心からそれを言っているように思えた。

ほんの少しの興味と好奇心。
始まりはそれだけだった。


仮初の、お互いの利害が一致しただけの婚約者。彼女はそう思っているのだろう。しかし、本当はそれだけではない。美しい彼女の実態を知りたくなったのだ。もしこれで他の女と同じであればまた切り捨てれば良いし、何か違うものが見えてくるのなら、自分の世界が広がるだろうと、そう思ったのだ。


「よろしくお願い致します、コーネリアス様」

彼女の肩からサラサラと髪が流れ落ちていく。

期待はずれでは無いと良いんだが。と思いながら、自分もまた言葉を返した。
 
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