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独占欲

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ベネディクトの大きな身体に隠れて、ちょうどフラヴィアのことは見えなかったのだろう。駆け寄ってきたアンナは、レモンイエローのフリルを見てギョッとし、フラヴィアの顔を見てあからさまに眉を顰めた。

「アンナ、今日はフラヴィア嬢と昼食を摂る。お前は女性訓練場の方に戻れ」

ベネディクトが何でもなさそうな様子でそう言うと、アンナは益々複雑そうな顔をした。

「え?だ、だって、いつも一緒に……」

「べつに約束はしていないだろう?それに、お前とはいつも一緒に食べているじゃないか」

「だから、今日も一緒に食べて良いじゃん……。そもそも、なんでお嬢様・・・がこんなとこに……」

いつも通り帰る帰らないの問答を続ける2人を気にせず、フラヴィアは卵焼きを頬張った。ほのかに甘い味付けは彼女の好みを把握しきった、絶妙な味付けである。 
爽やかな風の吹く中、己の知識欲を満たし、空腹も満たす。
これ以上幸せなことはなかった。
 


一方、アンナは絶望的な心境だった。

ずっと一緒にいた、女嫌いの幼馴染にできた婚約者。いつもなら、そう言う類のお嬢様は彼にベタベタとまとわりつき、剣技の邪魔をするため、何もしなくたって嫌われ、遠ざけられていた。だから、今回だって心配していなかった。歴代の婚約者候補の中で一番綺麗で可愛かったけれど、それだけだと思っていた。

ベネディクトと自分の共通点である、剣技の経験。それはアンナにとってはこれ以上ない宝物であり、特別な武器だった。

そんな剣技の場にフラヴィアがいるだけで不愉快だったのに、自分よりも優先されるなんて、度し難いことだった。心の奥底がザワめき、イライラとした嫉妬が募る。

「そもそもさあ、前も思ったけど、私に一言あっても良くない?約束してなくても、いつも一緒に食べてるんだし!」

「なら、今日は無理だ」

「………っ!そもそも、フラヴィアちゃんは、こんなの見てて楽しいのっ?」

アンナの矛先が自分に向いたので、空を眺めていた横顔を彼女の方に写し、しばし考えてから返答をした。

「楽しい、というよりも、充足感がありますね。文字で見るのと実際に観戦するのではやはり理解度が違いますから。動きを伴った剣術を見ることができて光栄です」

「………っ、あ、そう。実際にやってみたら良いんじゃないの?」

「機会があればそれも良いかもしれませんね。お父様が許可してくれるかしら……」

「…それは難しいんじゃないか…?とにかく、今日は共に食事をとることは難しいから、戻れ」

キリのない押し問答に見切りをつけるように、ベネディクトがそう言った。
アンナは悔しそうに・不愉快そうに顔を歪め、頬を真っ赤にしながら2人を睨みつけた。

「言われなくてもっ!別にいつも一緒に食べてるからそうしようと思っただけだし!」

肩を怒らせて去っていく後ろ姿に、ベネディクトの中で、少しの違和感が堆積した。唯一話が通じる女性だと思っていた幼馴染は、あんなにも感情的な性格だったろうか?と……。

同時に、先ほどのフラヴィアの言葉が脳裏に思い出される。


____『楽しい、というよりも、充足感がありますね。文字で見るのと実際に観戦するのではやはり理解度が違いますから。動きを伴った剣術を見ることができて光栄です……』

やはり、変わっているな、と思いながら、その美しい横顔を盗み見た。

心地の良い風が一陣、頬を撫でていった。

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