7 / 12
試合観戦
しおりを挟む
その日以降も、2人は書庫での逢瀬を重ねた。母には「いつも会うたび本、本、本などと……呆れず付き合ってくださるあの麗息には頭が下がりますわ」と言われ、父には「お前、失礼は言っていないだろうね」と都度確認され、弟には「珍しく続いておりますね」などとかなり癪に障ることを言われながらも、なんだかんだで2人の婚約は続いていた。
何故か書庫で会うたびにあのアンナという女の子が待ち伏せしていたり、偶然を装って途中で入ってきたりというのが多かったが、別に読書の邪魔さえしないならそれも気にならない。寧ろ、ベネディクトの方がフラヴィアを気遣ってアンナのことを気にしていた。
さて、そんな付かず離れずの絶妙な距離感で、利害の一致から婚姻関係を結んだ2人であるが、今日会う場所はいつもの書庫ではなかった。
いつにだか会話に出てきた、剣術の訓練の場にお呼ばれしたのである。
青い空と、白い雲。快晴と言うべき眩さの空を見上げ、フラヴィアはふっと息を吐いた。
今日は比較的動きやすい、軽い素材のレモンイエローのドレスを着ており、ドレスというよりもワンピースに近いような形状のものである。むさ苦しい訓練場の観客席にぽつんと佇むレモンイエローは、楚々とした出立ちも相待ってかなり目立っていた。
さて、そんな注目の的であるフラヴィア張本人はというと、一言も発さず、ジッ……と真剣な表情で試合や訓練の様子を見守っている様子だった。
婚約者であるベネディクトとの交流のため、と言う名目にも関わらず、その目は訓練を付けている近衛兵と訓練生の練習試合に釘付けであり、筋トレをしているベネディクトには全く目を向けていなかった。国でも名高い美少女に見つめられているせいか、訓練生たちはいつにも増して張り切っており、そのせいでますます辺りが汗臭い。
答え合わせをするように一つ一つの動きを目で追い、周囲とかけ離れた静寂を纏う姿は、顔が良いだけに随分と迫力があった。フラヴィアが少し真剣な顔をするだけで、周囲には緊張と期待がほとばしり、その日の訓練は誰も彼も鬼気迫った様子で、必死と言う他ない有様だった。
と、そんなこんなで午後の全体練習が終わり、昼食の時間となる。駆け寄ってきたベネディクトに、フラヴィアも気持ち早歩きで近づいた。
「ベネディクト様」
持参してきたタオルを手渡す。母からの指示だった。
「ああ、すまない。……退屈はしていなさそうだな」
「ええ、勿論です。この後は1対1の正式なルールに則った試合を観戦できるのですから、練習試合も見逃せません。頭の中の知識と照らし合わせながら見るのは楽しいものですね」
「相変わらずで何よりだ」
汗を拭きながらフッと微笑む。口元が微かに和らぐだけで、冷徹な美貌が途端に柔和な印象になった。
「あ、そうそう。昼食、持参して参りました。ミネラル・鉄分・ビタミン・タンパク質・糖質を効率よく補給できるように、献立を考えてきたんです。是非感想を聞かせていただきたくて」
「……君が作ったのか?」
「いいえ?我が家自慢のシェフが」
「ふ。ふふ、頂こう」
なんだか機嫌がいいなあと思いながら、2人は仲良く並んで昼食を取った。話題は勿論この後の試合のことや、目にした剣技のことである。
遠目から見ると美男美女の2人は輝くような美しさで、他人を寄せ付けない独特のオーラがあった。訓練生達は2人の様子をヒソヒソと噂しながら、羨ましいやら憎たらしいやらの気持ちで腹を満たした。
しかし、そんな2人だけの空間をものともしない者が1人いた。
「ベネディクトーーー!!!午前練終わったーー!?」
そう、彼の幼馴染・アンナである。
何故か書庫で会うたびにあのアンナという女の子が待ち伏せしていたり、偶然を装って途中で入ってきたりというのが多かったが、別に読書の邪魔さえしないならそれも気にならない。寧ろ、ベネディクトの方がフラヴィアを気遣ってアンナのことを気にしていた。
さて、そんな付かず離れずの絶妙な距離感で、利害の一致から婚姻関係を結んだ2人であるが、今日会う場所はいつもの書庫ではなかった。
いつにだか会話に出てきた、剣術の訓練の場にお呼ばれしたのである。
青い空と、白い雲。快晴と言うべき眩さの空を見上げ、フラヴィアはふっと息を吐いた。
今日は比較的動きやすい、軽い素材のレモンイエローのドレスを着ており、ドレスというよりもワンピースに近いような形状のものである。むさ苦しい訓練場の観客席にぽつんと佇むレモンイエローは、楚々とした出立ちも相待ってかなり目立っていた。
さて、そんな注目の的であるフラヴィア張本人はというと、一言も発さず、ジッ……と真剣な表情で試合や訓練の様子を見守っている様子だった。
婚約者であるベネディクトとの交流のため、と言う名目にも関わらず、その目は訓練を付けている近衛兵と訓練生の練習試合に釘付けであり、筋トレをしているベネディクトには全く目を向けていなかった。国でも名高い美少女に見つめられているせいか、訓練生たちはいつにも増して張り切っており、そのせいでますます辺りが汗臭い。
答え合わせをするように一つ一つの動きを目で追い、周囲とかけ離れた静寂を纏う姿は、顔が良いだけに随分と迫力があった。フラヴィアが少し真剣な顔をするだけで、周囲には緊張と期待がほとばしり、その日の訓練は誰も彼も鬼気迫った様子で、必死と言う他ない有様だった。
と、そんなこんなで午後の全体練習が終わり、昼食の時間となる。駆け寄ってきたベネディクトに、フラヴィアも気持ち早歩きで近づいた。
「ベネディクト様」
持参してきたタオルを手渡す。母からの指示だった。
「ああ、すまない。……退屈はしていなさそうだな」
「ええ、勿論です。この後は1対1の正式なルールに則った試合を観戦できるのですから、練習試合も見逃せません。頭の中の知識と照らし合わせながら見るのは楽しいものですね」
「相変わらずで何よりだ」
汗を拭きながらフッと微笑む。口元が微かに和らぐだけで、冷徹な美貌が途端に柔和な印象になった。
「あ、そうそう。昼食、持参して参りました。ミネラル・鉄分・ビタミン・タンパク質・糖質を効率よく補給できるように、献立を考えてきたんです。是非感想を聞かせていただきたくて」
「……君が作ったのか?」
「いいえ?我が家自慢のシェフが」
「ふ。ふふ、頂こう」
なんだか機嫌がいいなあと思いながら、2人は仲良く並んで昼食を取った。話題は勿論この後の試合のことや、目にした剣技のことである。
遠目から見ると美男美女の2人は輝くような美しさで、他人を寄せ付けない独特のオーラがあった。訓練生達は2人の様子をヒソヒソと噂しながら、羨ましいやら憎たらしいやらの気持ちで腹を満たした。
しかし、そんな2人だけの空間をものともしない者が1人いた。
「ベネディクトーーー!!!午前練終わったーー!?」
そう、彼の幼馴染・アンナである。
55
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
伯爵令嬢の苦悩
夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。
婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。
のんのこ
恋愛
婚約者がやっと戦地から帰還したかと思ったら、敵地で拾ってきた女騎士となんだか親密な関係になっていて…?
更新が止まっていたのでリメイクしつつ完結を目指したいと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私は恋をしている。
はるきりょう
恋愛
私は、旦那様に恋をしている。
あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。
私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる