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幼馴染登場
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声の聞こえた方に目線をやると、そこには一見少年のような、しかしよく見れば女性だと分かる中性的な顔立ちの少女がいた。赤茶色の短髪を揺らしながらヅカヅカと書庫に踏み込んできた少女は、ベネディクトを前に眉を吊り上げ、再度声を張り上げる。
「訓練の時間になっても来ないから、わざわざここまで探しにきたんだよっ!?普段本なんて読まないくせに、なんでこんなところにいるの!」
「……今日は用事があると伝えてある」
「はあ?そんなの聞いてないんだけど?いつも一緒にやってるんだし、一言あってよくない?」
「だから、従者に伝えてあるはずだ」
「これだから御坊ちゃまは!そういうのは直接伝えて、よ、ね………」
言いかけている最中でフラヴィアに気づいたのか、目が合うと赤茶髪の少女はポカンと口を間抜けに空けた。
「え、お、女の子…?ベネディクトが…?」
「婚約者だ」
「………こんやくしゃ?………婚約者ァ!?」
婚約者がいたことを知らなかったのか、少女はよろめきながら驚き、何故か少し青ざめた。大袈裟と形容してもい仕草で口元を抑える女の子は、ただ知り合いに好い人がいた際の反応には似つかわしくない。ベネディクトは眉を顰めて不可思議な顔をしているが、フラヴィアはその反応にひしひしと嫌な予感を感じていた。
声の大きい子だなあ、もしかしてこの子が幼馴染にのかなあ、そうだろうなあと思いながらも、一応は婚約者の幼馴染なので、フラヴィアも立ち上がって挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ベネディクト様と婚約させて頂いている、フラヴィア・パウロディカですわ」
「えっ、あ、あー…アンナデス。アンナ・ロードバート…」
挨拶をしたフラヴィアをジロジロと値踏みするように見ると、アンナは何処か焦ったような表情でベネディクトに話しかけ始めた。
「そ、それにしてもこんな可愛い子と婚約だなんて、いつのまに?はは、全然知らなかった」
「お前には関係のないことだ。今日は訓練にはいけないから、帰ってくれ」
「か、帰れだなんて……なんでそんなこと言うのっ?」
「今俺とフラヴィア嬢は本を読んでいる」
「じゃ、じゃあ私も読む。読みたい本もあったし….」
「?普段本なんか読まないだろ」
なんとかしてこの場に残ろうとするアンナを見兼ねて、フラヴィアはベネディクトとの仲裁に入った。
「私は構いませんよ、ベネディクト様」
フラヴィアの言葉に意外そうにしたのはベネディクトだけではなく、アンナもであった。驚いたように目を見張ると、その表情か微かに困惑の色を浮かべる。
「きみは……本当に変わっているな。普通、婚約者同士の間に加わってくる者がいれば不愉快だろう」
心底不思議というこの表情にも見慣れてきたな、と思いながら、フラヴィアは柔らかく笑った。
「コーネリアスの蔵書数は素晴らしいですから、ここの本を読みたいと言う気持ちはよく分かります。」
「……はあ…だそうだ、アンナ」
「!べ、別に、私は本が読みたかっただけだから!」
アンナはそう言うと、近くに置いてあった剣術に関する本をとった。それはフラヴィアが読んでいた本で、読みかけのページに挟んでおいて栞がはらりと床に落ちる。
「あ、ごめんなさい、ロードバード様。その本、私が今読んでいて…」
「……え…この剣術の本を?お嬢様が?」
「ええ。といっても、私は剣術に関しては何も知らない素人ですけれど…。その本は剣術の技や決闘でのルール以外にも、歴史や有名な試合での解説などが載っていて、初心者でも読みやすい素晴らしい著書ですから。」
フラヴィアが剣術に関して何も知らないと分かると、アンナは目に見えて安堵し、「そっか!ごめんねー」と本を返してくれた。しかし、一連の流れを体感したフラヴィアには、一つの確信があった。
幼馴染のアンナというこの娘は、我が婚約者に懸想しているだろう、と。
「訓練の時間になっても来ないから、わざわざここまで探しにきたんだよっ!?普段本なんて読まないくせに、なんでこんなところにいるの!」
「……今日は用事があると伝えてある」
「はあ?そんなの聞いてないんだけど?いつも一緒にやってるんだし、一言あってよくない?」
「だから、従者に伝えてあるはずだ」
「これだから御坊ちゃまは!そういうのは直接伝えて、よ、ね………」
言いかけている最中でフラヴィアに気づいたのか、目が合うと赤茶髪の少女はポカンと口を間抜けに空けた。
「え、お、女の子…?ベネディクトが…?」
「婚約者だ」
「………こんやくしゃ?………婚約者ァ!?」
婚約者がいたことを知らなかったのか、少女はよろめきながら驚き、何故か少し青ざめた。大袈裟と形容してもい仕草で口元を抑える女の子は、ただ知り合いに好い人がいた際の反応には似つかわしくない。ベネディクトは眉を顰めて不可思議な顔をしているが、フラヴィアはその反応にひしひしと嫌な予感を感じていた。
声の大きい子だなあ、もしかしてこの子が幼馴染にのかなあ、そうだろうなあと思いながらも、一応は婚約者の幼馴染なので、フラヴィアも立ち上がって挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ベネディクト様と婚約させて頂いている、フラヴィア・パウロディカですわ」
「えっ、あ、あー…アンナデス。アンナ・ロードバート…」
挨拶をしたフラヴィアをジロジロと値踏みするように見ると、アンナは何処か焦ったような表情でベネディクトに話しかけ始めた。
「そ、それにしてもこんな可愛い子と婚約だなんて、いつのまに?はは、全然知らなかった」
「お前には関係のないことだ。今日は訓練にはいけないから、帰ってくれ」
「か、帰れだなんて……なんでそんなこと言うのっ?」
「今俺とフラヴィア嬢は本を読んでいる」
「じゃ、じゃあ私も読む。読みたい本もあったし….」
「?普段本なんか読まないだろ」
なんとかしてこの場に残ろうとするアンナを見兼ねて、フラヴィアはベネディクトとの仲裁に入った。
「私は構いませんよ、ベネディクト様」
フラヴィアの言葉に意外そうにしたのはベネディクトだけではなく、アンナもであった。驚いたように目を見張ると、その表情か微かに困惑の色を浮かべる。
「きみは……本当に変わっているな。普通、婚約者同士の間に加わってくる者がいれば不愉快だろう」
心底不思議というこの表情にも見慣れてきたな、と思いながら、フラヴィアは柔らかく笑った。
「コーネリアスの蔵書数は素晴らしいですから、ここの本を読みたいと言う気持ちはよく分かります。」
「……はあ…だそうだ、アンナ」
「!べ、別に、私は本が読みたかっただけだから!」
アンナはそう言うと、近くに置いてあった剣術に関する本をとった。それはフラヴィアが読んでいた本で、読みかけのページに挟んでおいて栞がはらりと床に落ちる。
「あ、ごめんなさい、ロードバード様。その本、私が今読んでいて…」
「……え…この剣術の本を?お嬢様が?」
「ええ。といっても、私は剣術に関しては何も知らない素人ですけれど…。その本は剣術の技や決闘でのルール以外にも、歴史や有名な試合での解説などが載っていて、初心者でも読みやすい素晴らしい著書ですから。」
フラヴィアが剣術に関して何も知らないと分かると、アンナは目に見えて安堵し、「そっか!ごめんねー」と本を返してくれた。しかし、一連の流れを体感したフラヴィアには、一つの確信があった。
幼馴染のアンナというこの娘は、我が婚約者に懸想しているだろう、と。
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