シンモアの娘

らきゃっとseven

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襲撃

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港町フラペテを後にした一行は、目的地を目指し海沿いの街道を馬で北上した。

半島を横断し峠に差し掛かったところで、メリエダンは手綱を引いて馬を止めた。
「この先は峡谷となる。さてどうするか」

ルカスもメリエダンに追いつき、
「馬の体力が心配だ。この先は道が狭い。待ち伏せされていると厄介だ」

「一休みしましょう。馬の回復後に突っ切るのは?」
セカは馬の頭を撫でながら言った。
イゾルデは半ば瞑ったままの眼を擦り、眠気と戦い中だ。

「この先で前後の挟撃は避けたい。偵察に行ってこよう」ルカスはメリエダンに目配せする。
馬だけでなく、イゾルデもセカも休ませたい。その意思がメリエダンに伝わった。

「わかった。では三時間休もう」
メリエダンはそういうとルカスに速足の風を送った。それから下馬して、イゾルデと馬を木陰に連れて行き休ませた。セカは水を汲むために川へ降りて行った。

ルカスは斥候を急ぐ。山道は徐々に狭くなり、突き出た岩壁を回り込み左右にくねる道となった。樹々は小さくなり草木は山肌と一体となった。峠も下り坂が見えた頃、川は分水嶺を越えた様子で北へ流れる。

耳を澄ます。大岩を門とする、峠の最高地点。岩上に陣取られ弓を射られる事は避けたい。ルカスは高巻いて岩上を確認するべきと思った。

山道を外れ左の岩肌に取り付く。岩上に登ると息を殺して大岩の門に近づく。なんとすでにゴブリンが門上に陣取っていた。

しかし、ルカスには気づいていない。ゴブリンは数えるとおよそ十五。弓と棍棒を持つ。杖を傍に置くメイジらしきゴブリンがルカスから最も近くにいる。

判断は早かった。ルカスは跳んだ。ゴブリンメイジのいる岩肌にしがみ付く。右手を宙に伸ばして、ハルバートを取り出す。セカから教わった魔法だ。

気付いたゴブリンが声を上げる前に、ルカスは右足を一歩前に出して間合いを詰め、身体を捻り三日月の斧がゴブリンの首を飛ばす。
左の振ったハルバートの反動を逃しながら、円弧を描きさらに二体目のゴブリンの胸を切り裂く。

三体目のゴブリンは驚きの声を上げるのに成功したが、同時に胴体にハルバートの鎌が突き刺さる。
四体目のゴブリンは背中を向けていた為、振り返るのに間が空いた。ルカスを見る事なく背中を袈裟懸けにされる。

ここで、ゴブリン達はようやく気付いた。待ち伏せる筈であった人間に奇襲されている状況を把握するには更に数秒かかった。

その間にルカスは槍を投げる。槍は二体のゴブリンの身体を串刺しにする。

「六」

弓を身構えたゴブリンは射撃を試みる。ルカスはハルバートを盾に構えて防ぐ。構えたハルバートの反動で穂先のニードルで二体の喉元を突き刺す。 同時に槍を手元に引き寄せて、更に二体の弓兵を串ざす。

「十」

石門の反対側の五体は逃げ始めた。岩上から飛び降りて坂道を逃げようとする。降り立った所に槍を投げる。ルカスはゴブリンの弓を構えて三的を射る。

「十五」

周りを伺う。他にゴブリンはいない。しかし、一羽の鷹が舞い上がる。鷹は弧を描かず、東へ飛び去る。伝達されるのか。今後は鷹の目をくらます必要がある。

ゴブリンの全滅を見た鷹は、セカとメリエダンが馬に汲み水を与えてひと息つき半刻経った頃、その頭上を通った。 

セカは嫌な予感がした。

占い師とその孫を手に掛けた死霊の魔物は、ガンダルに化けた影が息絶えた事を知った。
 
しかし、残党の五人からエルフのメリエダンの様子を聞き、二頭の馬で門外へ駆け去る一行を見送ると、自ら追手となった。

死霊は鷹を見た。先行するゴブリンに同行した鷹だ。鷹は、死霊を目で捉える事は出来ないが、影の手下の五人を見て取ると、空で円弧を描いた。

〈よし、急襲するぞ、武器を持て〉
死霊は五人に号令する。鷹の様子からゴブリンが戦闘に入った合図と考えた。背後から襲うのだ。急がなければ。

しかし、予想外にもエルフの一行は狭い山道入る手前の木陰で佇んでいるではないか。ルカスが見当たらない。ルカスは斥候としてゴブリンと相対したのだ。
〈よし、手筈通り、エルフを惹きつけろ。奴の息の根を止めろ〉

メリエダンは、鷹が円弧を描いたときに察した。あれは目だ。あの下に敵がいる。

「セカ、下から敵だ」
メリエダンが声をかけたと同時に、五体の魔物が街道から上がって来るのが見えた。

「馬に乗って山道を登れ」
メリエダンから指示が飛ぶ。セカは素早く鎧に左足をかけて馬の背によじ登る。手綱を取って、イゾルデを見た。
「先に行け、追いかける」
メリエダンは五体の影を相手に弓を構えて射る。次に風を唱えて、近くの木の枝に乗り移り弓を連射した。

セカはイゾルデの手を取ろうと馬上から左手を伸ばした。イゾルデは、駆け寄り手を伸ばす。しかし、冷気の風が吹き、伸ばした手が凍えて掴めない。

「イゾルデ」
セカは今度は右手を伸ばす。またも、冷たい死霊の吐息が吹く。セカは死霊の吐息の方向へ右手をかざす。

セカの右手の先には、始めは何も無かったが、徐々に黒いマントの男の姿が現れた。セカはグイッと右手を捻る。死霊の吐息が凍り、ナイフの刃となってマントに突き刺さる。

〈シンモアの娘よ。呪われた右手を除けろ〉

死霊から影がイゾルデの方へ伸びて、影から何本もの腕が突き出た。セカは慌ててイゾルデに駆け寄り手を伸ばす。

突き出た何本もの腕はイゾルデの右足に絡まり、その身体を引き摺ったかと思うと、ビュンとロープのように手繰り寄せられた。

死霊はイゾルデをマントに隠し消え失せた。
〈この娘はさらっていくぞ〉

セカは馬の手綱を左に引き寄せて、向きを変えた。死霊を追って山の樹々をかき分ける。

「セカ!」
メリエダンの声がこだました。三体の影の下部は矢で突き刺した。影は杭で打たれたかの様に、踠いても逃れられない。

残り二体の影は木の上に忍び寄り、接近戦に持ち込み、二本のナイフがエルフの耳をかすめる。フルーレで応戦するがメリエダンはイゾルデがスペクターに連れ去られ、セカが後を追った事を知った。

なんたる失態だ。

メリエダンのフルーレの切っ先がナイフを弾き、二体の影を切り裂いた。あわてて、残った馬まで取って返し手綱を取る。

ヒラリと飛び乗り鼻先をひらひらと葉が舞う藪へ向ける。しかし、すでにセカを見失ってしまった。
それでも、メリエダンは躊躇せずに両脚で腹を蹴って馬を突っ込ませた。







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