シンモアの娘

らきゃっとseven

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イゾルデ

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ガンダルには家族が居た。  

娘と娘婿。そして七歳になる孫娘が一人。春が来て商館の小さな庭に花が咲き始めた頃、家族を不幸が襲った。 
 
四人で夕食のテーブルを囲んでいたとき、庭の噴水に一羽のカラスが止まった。孫のイゾルデが真っ先に見つけて知らせたのだ。 

イゾルデは最初に見つけだ事を褒めて貰いたかったが、母は縁起が悪いとメイドにカーテンを閉ざす様に言った。

カラスから影が伸びたのをイゾルデは見た。あっという間にメイドに乗り移った影は、テーブルのステーキナイフを父の喉に突き立てた。

イゾルデはテーブルの下に隠れた。続け様に母と祖父の悲鳴が響き渡る。イゾルデは庭を駆けた。いつどうやって庭に出たかは覚えて居ない。イゾルデは納屋に飛び込んだ。納屋には馬が二頭居た。

祖父は馬の調達を頼まれたと言っていたのを思い出した。とにかく馬は人の匂いを消す役目をした。鼻面で飼い葉を押し寄せてイゾルデを隠した。

影は納屋にやってこなかった。しかし、飛び立つカラスを睨む祖父は、もうこの世のものでは無かった。祖父の姿を借りた影の魔物だ。

祖父は生前にこっそりとイゾルデに秘密を打ち明けていた。

春の終わり、大帆船が港に入る日、祖父の友人のエルフがやって来る。エルフは背が高く耳が尖り、そして弓を持って森を支配する。

イゾルデにとってこの街は窮屈で祖父の話すエルフは冒険物語の一節なのだ。いつかエルフが自分を冒険に連れていってくれる事を夢見た。

エルフは人を二人連れて来ると言う。とても大切なお客様なのだと。そして、彼らには馬が必要なのだ。とても早く走る馬が。

祖父が死んでしまった今、馬をエルフとその友に引き渡せるのは自分だけだと思った。イゾルデは待った。大帆船が港に寄る日を数えたのだ。 

昼間、祖父の形を借りた影の魔物は商館内にいる間、納屋の中で馬と眠った。夜になると魔物は何処かへ出掛けていくので、商館の貯蔵庫でチーズやパンを食べた。
 
とうとうその日、背の高い男がしなやかな身のこなしで商館の扉に入るのを見た。イゾルデは庭に回りカーテンの隙間から覗き見た。

そこには黒い影のガンダルが異形の死体となって事切れ、まさに出ていこうとしているエルフが居た。

コンコン。

イゾルデは勇気を振り絞って窓ガラスを叩いた。

「エルフさん。馬はこちらです」
 
薄い窓ガラスは小さな声を通した。メリエダンはガンダルが居ないので馬を諦めて船に乗ろうかと思案していた。しかし、それも要らぬ徒労に終わりそうだ。

庭に回りイゾルデに声をかける。
「君は?」

「ガンダルの孫のイゾルデです」
スカートの裾を持ちお辞儀をする。一か月以上も納屋で過ごしたのだ。イゾルデは自分の匂いと服装が恥ずかしくなった。

「ガンダル殿は無事なのか?」

首を振るイゾルデ。
「両親も同じ日に殺されました」
窓の中の事切れた魔物を指差す。

「そうか」
メリエダンは言葉を探す。納屋の中の二頭の馬を見る。飼い葉は十分。桶の中の水は新鮮だ。

メリエダンは右膝をつき、イゾルデと目線の高さを合わせた。
「よく、頑張ったな」
イゾルデは涙が溢れた。流れ始めると止まる事がないほどだ。メリエダンの胸で泣きじゃくる。

ルカスとセカは急いだ。
占い師の居た小高い丘から、商館までの下り坂を駆け下りた。

約束の商館に近づくと、五人の人外をやり過ごす必要があった。その様子から、メリエダンに何か問題が発生している可能性を考えた。

ひひんと馬の嗎が聞こえた気がした。

「セカ、馬の蹄の音だ。ほら来るぞ」
ルカスは路地の一方を指差す。直ぐに二頭の馬が路地先を曲がり姿を見せた。先頭はメリエダンが騎乗し、二頭の手綱を持つ。

メリエダンの背中に小さな娘がしがみ付いている。

手綱を掴んでルカスか跳び乗り、右手を背中から回す。セカがその手を右手で掴んだ拍子に、ルカスは思い切り引き上げる。
 
一斉に馬の腹を両脚で蹴る。

振り落とされない様にセカはルカスの背中にしがみ付く。ルカスは前を行くメリエダンの背中の少女のおさげが上下に揺れるのを見た。
「この娘は?」

メリエダンは言った。
「賢者ナルダインの友人ガンダル殿の忘れ形見だ」

セカは微笑む。
「仲間が増えたわね」

二頭の馬はフラペテの城門に向かい駆けた。ルカスは駆けながら馬の首に手を回しててポンと叩く。栄養十分だが、筋肉の張りが気になった。走れていないのか。北のマサの祠まで体力が持つのだろうかと不安になった。
















 
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