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07.王子アシュラフ(1)
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サルシタールの中央に位置する王都アルテには様々な商人が行き交い、他国との貿易や交流も盛んに行われている。
賑やかな街並みの更に中心に位置するのが王宮であり、その王宮を囲うように宮殿が5つ配置されていた。
王族のみ一夫多妻制が認められているこの国では王子達も十数人おり、現在では第13王子まで存在する。
だが、国政に関わることが許されている王子は第5王子までであり、その5人の王子達が王宮を囲む宮殿に住んでいた。
「近年我が国の原油を欲しがる国が増加傾向にある。だが、神が与えてくださったこの資源は底無しではない。取り引きする国や量は慎重に考えなければならん」
「兄上、隣国のルータシアは大金と引換えにこの国の原油を独占したいと言って来ています。独占したいだけあって金額も巨額、ルータシアと取引されてはいかがでしょう」
「ですが兄上、この国の原油を独占されたら他国が原油不足となってしまいます。我が国とルータシアだけが潤うというのは…」
王宮の一角にある広間ではこの国の資源である原油について5人の王子達が意見を飛ばし合っている。
このようにサルシタールでは1人の王と5人の王子達によって全てが取り決められていくのである。
もちろん、有能であれば家臣も国政に加わることを許されているが、ほぼ王族によって国政は進められていた。
王子達のみで議論をする場合は議長は第1王子が務める。
各王子の意見を聞いて最終判断は議長である第1王子が下していた。
「ふむ……アシュラフ、お前はどう思う? 我が国にとって最良な取引はどのようにすれば良い」
議長を務める第1王子のカイサルは書類を眺めたまま動かない第3王子に言葉を向けた。
「そうですね、ルータシアからの申し出は確かに有難いしこの国の利益にもなる。しかし、ルータシアだけ優遇しては他の国からいずれ抗議されるでしょう。大金は魅力的ですが各国の需要や財政状態を見ながら調整した方が良いかと。己の国だけが私腹を肥やせば良いというものではありません。恨みはいずれ戦争へと発展する」
第3王子アシュラフは薄い色の瞳を兄に向けた。
穏やかなと言うより人を食ったような笑みを常に浮かべているその唇は表情とは裏腹に至極まじめな言葉を返す。
「私もアシュラフ兄上の意見に賛成です」
同じように成り行きを見守っていた第5王子が口を開き、第1王子を見遣る。
「ルータシアの申し出を受ければ我が国は金に目が眩んだがめつい国だと批判されるのは目に見えています。我が国はどの国にも平等であるべきだと思います」
「お前達の意見は分かった。ではこの件についてはルータシアの申し出は受け入れず、各国平等な取り扱いをすることとする。だが、価格については国の財政状態などを見ながら調整する。お前達は各自取引先の財政状態を調べ、原油の適正価格を決めてくれ」
以上。との第1王子の声で王子達は席を立った。
「アシュラフ」
宮殿へ戻る途中で呼びとめられアシュラフが振り向いた先には長兄がにこやかな笑顔でこちらを見ていた。
「はい」
「アシュラフ、聞いたぞ。またお忍びで宮殿を抜け出したそうだな」
父上が嘆いていたぞとカイサルは苦笑する。
「抜け出したなどと人聞きの悪い。私は散歩に出ただけですよ。ただの散歩にぞろぞろひきつれて歩くのは鬱陶しいではないですか」
端整な顔を本当に鬱陶しそうに歪めてそう言うアシュラフはもともと自由奔放な性格で、常日頃から何かしら心配して後をついてくる家臣たちを煙たく思っていた。
いつもいつも誰かが必ず傍にいる。
そろそろ息がつまりそうなのだとアシュラフは長兄に不満を漏らした。
「お前の気持ちも分かるがな、お前は一国の王子なのだ。大事があってからでは遅い。ゾロゾロ連れていけとは言わないから誰か一人供をつけなさい、それにそろそろ正妃を迎えたらどうだ……と言ってもお前は聞かないのだろうな」
「よく分かっていらっしゃる」
アシュラフは笑いながらそう言うとクルリと踵を返した。
背後でカイサルのため息が聞こえたが振り返らない。
供の者を連れ歩く気も、正妃を迎える気も全くなかったからだ。
アシュラフは今年32を迎える。
本来ならとっくに正妃を迎え、たくさんの子供たちに恵まれていてもいいはずなのだがアシュラフにはまだ子が一人もいない。
(子供の必要性を感じない。どうしてもというのなら子供は一人でいい)
それがアシュラフの考えであり、正妃を迎えない理由でもあった。
子が多ければ王族なんてものは争いの種を増やすだけなのだ。
自分が望もうが望まなかろうが周囲が陰謀を企てる。
幼い頃より王宮に渦巻く黒い影を見てきたアシュラフは必要以上に子供を持たないことを幼い頃より誓ってきたことだった。
賑やかな街並みの更に中心に位置するのが王宮であり、その王宮を囲うように宮殿が5つ配置されていた。
王族のみ一夫多妻制が認められているこの国では王子達も十数人おり、現在では第13王子まで存在する。
だが、国政に関わることが許されている王子は第5王子までであり、その5人の王子達が王宮を囲む宮殿に住んでいた。
「近年我が国の原油を欲しがる国が増加傾向にある。だが、神が与えてくださったこの資源は底無しではない。取り引きする国や量は慎重に考えなければならん」
「兄上、隣国のルータシアは大金と引換えにこの国の原油を独占したいと言って来ています。独占したいだけあって金額も巨額、ルータシアと取引されてはいかがでしょう」
「ですが兄上、この国の原油を独占されたら他国が原油不足となってしまいます。我が国とルータシアだけが潤うというのは…」
王宮の一角にある広間ではこの国の資源である原油について5人の王子達が意見を飛ばし合っている。
このようにサルシタールでは1人の王と5人の王子達によって全てが取り決められていくのである。
もちろん、有能であれば家臣も国政に加わることを許されているが、ほぼ王族によって国政は進められていた。
王子達のみで議論をする場合は議長は第1王子が務める。
各王子の意見を聞いて最終判断は議長である第1王子が下していた。
「ふむ……アシュラフ、お前はどう思う? 我が国にとって最良な取引はどのようにすれば良い」
議長を務める第1王子のカイサルは書類を眺めたまま動かない第3王子に言葉を向けた。
「そうですね、ルータシアからの申し出は確かに有難いしこの国の利益にもなる。しかし、ルータシアだけ優遇しては他の国からいずれ抗議されるでしょう。大金は魅力的ですが各国の需要や財政状態を見ながら調整した方が良いかと。己の国だけが私腹を肥やせば良いというものではありません。恨みはいずれ戦争へと発展する」
第3王子アシュラフは薄い色の瞳を兄に向けた。
穏やかなと言うより人を食ったような笑みを常に浮かべているその唇は表情とは裏腹に至極まじめな言葉を返す。
「私もアシュラフ兄上の意見に賛成です」
同じように成り行きを見守っていた第5王子が口を開き、第1王子を見遣る。
「ルータシアの申し出を受ければ我が国は金に目が眩んだがめつい国だと批判されるのは目に見えています。我が国はどの国にも平等であるべきだと思います」
「お前達の意見は分かった。ではこの件についてはルータシアの申し出は受け入れず、各国平等な取り扱いをすることとする。だが、価格については国の財政状態などを見ながら調整する。お前達は各自取引先の財政状態を調べ、原油の適正価格を決めてくれ」
以上。との第1王子の声で王子達は席を立った。
「アシュラフ」
宮殿へ戻る途中で呼びとめられアシュラフが振り向いた先には長兄がにこやかな笑顔でこちらを見ていた。
「はい」
「アシュラフ、聞いたぞ。またお忍びで宮殿を抜け出したそうだな」
父上が嘆いていたぞとカイサルは苦笑する。
「抜け出したなどと人聞きの悪い。私は散歩に出ただけですよ。ただの散歩にぞろぞろひきつれて歩くのは鬱陶しいではないですか」
端整な顔を本当に鬱陶しそうに歪めてそう言うアシュラフはもともと自由奔放な性格で、常日頃から何かしら心配して後をついてくる家臣たちを煙たく思っていた。
いつもいつも誰かが必ず傍にいる。
そろそろ息がつまりそうなのだとアシュラフは長兄に不満を漏らした。
「お前の気持ちも分かるがな、お前は一国の王子なのだ。大事があってからでは遅い。ゾロゾロ連れていけとは言わないから誰か一人供をつけなさい、それにそろそろ正妃を迎えたらどうだ……と言ってもお前は聞かないのだろうな」
「よく分かっていらっしゃる」
アシュラフは笑いながらそう言うとクルリと踵を返した。
背後でカイサルのため息が聞こえたが振り返らない。
供の者を連れ歩く気も、正妃を迎える気も全くなかったからだ。
アシュラフは今年32を迎える。
本来ならとっくに正妃を迎え、たくさんの子供たちに恵まれていてもいいはずなのだがアシュラフにはまだ子が一人もいない。
(子供の必要性を感じない。どうしてもというのなら子供は一人でいい)
それがアシュラフの考えであり、正妃を迎えない理由でもあった。
子が多ければ王族なんてものは争いの種を増やすだけなのだ。
自分が望もうが望まなかろうが周囲が陰謀を企てる。
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