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05.初めての体験
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「まずは体の汚れを落としなさい。そして念入りに磨いてもらうんだ」
馬車に揺られて2,3時間は経っただろうか、マハールは屋敷に着くなりアズハルにそう告げた。
馬車の中でマハールは色々なことを話してくれた。
これからどういう経緯を経てハーレムに入るのか、何に気をつけなければいけないのか。
ハーレムに献上される人間はアズハルのように貧しい人間もいれば貴族もいるのだそうだ。
貴族の人間はもとから躾や体の手入れが行き届いている為、ハーレムに入るまでそう長くはかからないらしいのだが、アズハルのような貧しい出の人間は少し時間がかかるらしい。
確かに、今の自分ではハーレムに入れられても王宮の作法など何も知らないし、見るからに貧相なこの体では王族の寵愛など受けることは出来ないだろう。
浴場に通され、着ていた衣服を剥ぎ取られるとすぐに浴槽に入れられる。
何て豪華な風呂だろうとアズハルは溜息を零した。
何人同時に入れるだろうか。
そんなことを考えながら浴場の中を見回していると、この屋敷の召使らしき人が二人入ってきてアズハルを取り囲んだ。
「え? ちょ……」
「大人しくしてください。体を洗うだけです」
一体なんだと困惑するアズハルを他所にその二人の召使はアズハルの体を洗い始める。
自分で洗えると抵抗するも大人しくしろと抵抗をはねのけられ、抵抗もむなしく爪の先まで磨かれた。
知らない人間にとんでもない場所まで洗われて何となくしょんぼりとする。
ここに連れてこられた人はみんなこうやって他人に洗われるのだろうか。
金持ちはこれが普通だったりするのだろうか。
頭からお湯をかけられ、軽く頭を振って水気を払うと浴槽から上がるように指示された。
水気を拭き取る為のものか、布を持って近づいてきた召使にアズハルは慌てるが再び召使に叱られ、観念して大人しく体を拭かれた。
「はぁ……」
こんなに体力を消耗した風呂というのは初めてではないだろうか。
アズハルが息を吐いて出された衣服に手を伸ばすと今度は何時の間に入ってきたのか、マハールにその動きを制された。
マハールはアズハルに背を伸ばして立つように言うと、その何一つ纏っていない生まれたままの姿をまじまじと見つめた。
「あ、あの……」
普通に見られるだけでも居心地悪いというのに裸体を眺められるというのは居心地が悪いどころの騒ぎではない。
「ふむ、やはり私の目に狂いはなかった。この肌や髪、目の色…君は本当にこの国の人間か? いや、まぁいい。もっと食べて栄養や肉をつけなさい」
この国の人間かと聞かれドキリとした。
それは幼い頃より周囲の人間に言われてきたことだった。
砂漠の国の人間にしては異質な髪、瞳、肌の色のせいで幼いころはよくガキ大将にいじめられたものだった。
泣いて家に逃げ帰った自分を母はよく抱きしめて慰めてくれた。
今は周囲の人間も慣れてしまったのか普通に接してくれている為、今の今まで自分が特異な容姿をしていることを忘れていた。
もしや拾われ子なのかと疑問に感じたこともあったが、自分の顔立ちは母ゆずりで誰が見ても血の繋がりがあるように見える。
(今こんなことで頭を悩ませていてもしょうがないな……)
アズハルはツキンと感じた胸の奥の何かを無理やり押し込めて視線を上げた。
気がつくとマハールは召使に向き合って召使の手にする箱の中から小瓶を出したり仕舞ったりしている。
あの小瓶は何だろうとアズハルが頭を傾けると、マハールは振り返ってこちらを見た。
「よし。アズハル、君の香油はこれにしよう」
香油はこの国では高価なもので、なかなか手が出ない代物だった。
主に王族や金持ち、権力者などが好んで使用しており、時折金に余裕のある一般の民も購入できないものではなかったが香油は風呂上りや体のマッサージなどをする時に使うものであり、大量に必要になるので維持して使うことは難しい。
そして香油はそれぞれが皆自分の為に調合師に注文をつけて調合してもらうので一人一人香りが違った。
香りを嗅げば誰の残り香だというのが分かるほどだ。
そんな高価なものを自分にどうしろというのだろう。
「俺、香油なんて買うお金は……」
「心配しなくていい、君をハーレムに入れる為の資金は全てこちらが出す。だから君が心配するのはどう王族から寵愛を受けるかだけだ。君が寵愛を受けられれば君を献上した私にもそれなりに褒賞金が出るのだよ」
だから少しでも見目の良い若者を選ぶのだとマハールは言った。
香油の瓶の蓋をあけるとほのかに甘い香りがする。
「これは……はちみつ……?」
「そうだ。本来なら花の香りやハーブの香りをした香油を与えるのだが、君にはその香りが合う」
甘く、それでいてしつこくない香り。
アズハルはもう一度その香油を嗅いだ。
--クゥ--
「……っ!?」
香油の香りを嗅ぎ、あぁ美味しそうだと思ってしまった。
すると途端に自分が空腹だったことを思い出し、我慢に我慢を重ねてきたその腹が悲鳴をあげる。
(香油を嗅いで腹を鳴らすなんて…)
顔に一気に血液が集まり、カッと熱くなった。
穴があったら入りたいとはこういうことだ。
アズハルは自分の腹部を抑えて顔を伏せた。
馬車に揺られて2,3時間は経っただろうか、マハールは屋敷に着くなりアズハルにそう告げた。
馬車の中でマハールは色々なことを話してくれた。
これからどういう経緯を経てハーレムに入るのか、何に気をつけなければいけないのか。
ハーレムに献上される人間はアズハルのように貧しい人間もいれば貴族もいるのだそうだ。
貴族の人間はもとから躾や体の手入れが行き届いている為、ハーレムに入るまでそう長くはかからないらしいのだが、アズハルのような貧しい出の人間は少し時間がかかるらしい。
確かに、今の自分ではハーレムに入れられても王宮の作法など何も知らないし、見るからに貧相なこの体では王族の寵愛など受けることは出来ないだろう。
浴場に通され、着ていた衣服を剥ぎ取られるとすぐに浴槽に入れられる。
何て豪華な風呂だろうとアズハルは溜息を零した。
何人同時に入れるだろうか。
そんなことを考えながら浴場の中を見回していると、この屋敷の召使らしき人が二人入ってきてアズハルを取り囲んだ。
「え? ちょ……」
「大人しくしてください。体を洗うだけです」
一体なんだと困惑するアズハルを他所にその二人の召使はアズハルの体を洗い始める。
自分で洗えると抵抗するも大人しくしろと抵抗をはねのけられ、抵抗もむなしく爪の先まで磨かれた。
知らない人間にとんでもない場所まで洗われて何となくしょんぼりとする。
ここに連れてこられた人はみんなこうやって他人に洗われるのだろうか。
金持ちはこれが普通だったりするのだろうか。
頭からお湯をかけられ、軽く頭を振って水気を払うと浴槽から上がるように指示された。
水気を拭き取る為のものか、布を持って近づいてきた召使にアズハルは慌てるが再び召使に叱られ、観念して大人しく体を拭かれた。
「はぁ……」
こんなに体力を消耗した風呂というのは初めてではないだろうか。
アズハルが息を吐いて出された衣服に手を伸ばすと今度は何時の間に入ってきたのか、マハールにその動きを制された。
マハールはアズハルに背を伸ばして立つように言うと、その何一つ纏っていない生まれたままの姿をまじまじと見つめた。
「あ、あの……」
普通に見られるだけでも居心地悪いというのに裸体を眺められるというのは居心地が悪いどころの騒ぎではない。
「ふむ、やはり私の目に狂いはなかった。この肌や髪、目の色…君は本当にこの国の人間か? いや、まぁいい。もっと食べて栄養や肉をつけなさい」
この国の人間かと聞かれドキリとした。
それは幼い頃より周囲の人間に言われてきたことだった。
砂漠の国の人間にしては異質な髪、瞳、肌の色のせいで幼いころはよくガキ大将にいじめられたものだった。
泣いて家に逃げ帰った自分を母はよく抱きしめて慰めてくれた。
今は周囲の人間も慣れてしまったのか普通に接してくれている為、今の今まで自分が特異な容姿をしていることを忘れていた。
もしや拾われ子なのかと疑問に感じたこともあったが、自分の顔立ちは母ゆずりで誰が見ても血の繋がりがあるように見える。
(今こんなことで頭を悩ませていてもしょうがないな……)
アズハルはツキンと感じた胸の奥の何かを無理やり押し込めて視線を上げた。
気がつくとマハールは召使に向き合って召使の手にする箱の中から小瓶を出したり仕舞ったりしている。
あの小瓶は何だろうとアズハルが頭を傾けると、マハールは振り返ってこちらを見た。
「よし。アズハル、君の香油はこれにしよう」
香油はこの国では高価なもので、なかなか手が出ない代物だった。
主に王族や金持ち、権力者などが好んで使用しており、時折金に余裕のある一般の民も購入できないものではなかったが香油は風呂上りや体のマッサージなどをする時に使うものであり、大量に必要になるので維持して使うことは難しい。
そして香油はそれぞれが皆自分の為に調合師に注文をつけて調合してもらうので一人一人香りが違った。
香りを嗅げば誰の残り香だというのが分かるほどだ。
そんな高価なものを自分にどうしろというのだろう。
「俺、香油なんて買うお金は……」
「心配しなくていい、君をハーレムに入れる為の資金は全てこちらが出す。だから君が心配するのはどう王族から寵愛を受けるかだけだ。君が寵愛を受けられれば君を献上した私にもそれなりに褒賞金が出るのだよ」
だから少しでも見目の良い若者を選ぶのだとマハールは言った。
香油の瓶の蓋をあけるとほのかに甘い香りがする。
「これは……はちみつ……?」
「そうだ。本来なら花の香りやハーブの香りをした香油を与えるのだが、君にはその香りが合う」
甘く、それでいてしつこくない香り。
アズハルはもう一度その香油を嗅いだ。
--クゥ--
「……っ!?」
香油の香りを嗅ぎ、あぁ美味しそうだと思ってしまった。
すると途端に自分が空腹だったことを思い出し、我慢に我慢を重ねてきたその腹が悲鳴をあげる。
(香油を嗅いで腹を鳴らすなんて…)
顔に一気に血液が集まり、カッと熱くなった。
穴があったら入りたいとはこういうことだ。
アズハルは自分の腹部を抑えて顔を伏せた。
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