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6話(改稿、加筆済み)
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「……エミー、お前強くなったな」
「でしょ」
その場にへたり込むエリナを覆う様に展開された障壁。
それは私が魔改造したこともあって、クラウスの大剣による一撃をいとも容易く受け止めて見せた。
城内に侵入してきた人間から身を守るために開発したこの魔法が、まさか幼馴染を犯罪者にさせない働きをするなんて予想していなかった。
過去の私に感謝しておこう。
と、クラウスは大きな溜息を吐いて剣を仕舞い、ゴミを見る目をエリナに向ける。
もう殺す気は失せたのだと判断した私は、この無駄に魔力の消費が激しい魔法を解除すると、クラウスは鼻で笑って。
「どっちにしろ死ぬことは無かったが、エミーのおかげで助かったな」
「……」
寸止めするつもりだったいうと遠回しな言葉に、彼女は何も言わずに立ち上がり、私を振り返る。
それによって恐ろしい笑みを浮かべたエリナの顔面が露わとなり。
「死になさい!」
その言葉と共に数十の炎を纏った土の杭が一斉に私へ向けて放たれた。
だがその程度の奇襲になれている私は本能的にさっきの魔法を発動させ、そのほとんどを跳弾させて無効化してみせる。
これは予想外だった様子で口をあんぐりと開けた彼女は、次の瞬間クラウスに取り押さえられ、顔面を土にめり込ませることになった。
「そのくらいの奇襲なら城の中で何回も体験してるの。私のこと、あんまり舐めないでね」
「平民の……くせに!」
土で汚した顔を上げて私を親の敵とばかりに睨むエリナに呆れて言葉も出ない。
すると騒ぎを聞き付けたらしい自警団の人たちが駆け付け、私たちを見つけると。
「何があった?! 魔法が上空を飛んで行ったぞ!」
「このゴブリンが撃ちやがった。とっとと檻の中にでも突っ込め」
「そ、そうか」
クラウスの殺意剥き出しな顔に怯んだ様子のリーダー格の男は、引き連れていた二人の若い人達と共に、エリナに手錠を掛けると立ち上がらせ、どこかへと連れ去って行った。
ぎゃいぎゃいと騒いで抵抗するエリナの後姿を眺めていると、疲れた様子で溜息を吐いたクラウスが。
「お前、あんなのに囲まれて過ごしてたのか?」
「まあ、そうだね。毎日あんなのに仕事押し付けられて大変だった」
今思えばあんなやつらに囲まれていたというのによく精神も身体も持ったものだと思う。
もしも今から再びあの環境に戻ったら、きっと全力で逃げ出そうとするか、自死を選ぶに違いない。
真に異常だったのは私だったのだろうか?
そんな疑問が湧き出しているとクラウスは何か思い出した様子で私を見て。
「あのゴブリン……じゃなくて性悪女のせいで忘れてたけど、良かったら明日、冒険者として魔物の駆除を手伝ってくれないか? 体動かすの好きだったろ?」
「じゃあ、面白そうだから行こうかな」
私のその返答に嬉しそうな笑みを浮かべたクラウスは、「また明日な」とだけ言うとどこかへと駆け出して行った。
私と仕事ができるのが嬉しいのか、それとも何か用事があったのか。
そんなどうでも良い考えを振り払って、私は明日を楽しみに思いながら家の方へ向かった。
十分程度で家の前の通りに着いた私は、道中で買った飴を頬張りながら道を進む。
通りは登り切った太陽に照らされ、その風景はここを旅立った時に比べると、多少変わってはいれど、懐かしさを感じる。
と、正面を誰かが走ってきていることに気付き、何となく嫌な予感がした私は遠距離を見れるようになる魔法を発動する。
すると焦っているのがよくわかるエリナの顔が見え、その後ろに必死な様子で追いかける自警団と思わしき人たちがいる。
エリナはこちらに気付いた様子で目を見開くと、慌てた様子で角を曲がって行き、自警団も叫び声を上げながら追って行く。
おそらく自警団の人が目を離した隙に魔法でも使って檻を壊して逃げ出したのだろう。
捕まる事を祈っておこう。
私は相手する気力が起きず、見なかったことにして家の方へ向かう。
それにしても、なんで急にエリナはここへやってきたのだろう。
大方、仕事をやってくれる人間がいないから連れ戻して奴隷のようにこき使いたいだけなのだろうが、もう関わらないで欲しいものだ。
思わず溜息を吐きながら考え事をしている間に家へ到着した私は中へと入る。
すると出迎えてくれたのは、仕事から帰って来たばかりなのか仕事服を着た父で。
「お帰り。クラウスとのデートは楽しかったか?」
「デートじゃなくて案内だから。からかわないでよ」
私の言葉に父は嬉しそうに笑う。
きっと久々にこうして話せるのが嬉しいのだろうが、そういうからかいは辞めて欲しいものだ。
と、リビングからひょこりと顔を見せた母は私に気付くとニコリと笑って。
「あら、お帰り。エミーの好きだったハギス、出来てるわよ」
「好きでは無いけどね」
こうしてまともに話せる相手がいるというのは、本当に幸せだったのだなと実感する。
……追放されて良かった。
そんな事を考えながらリビングに入った私が、テーブルに置かれているゲテモノ料理を見て苦笑したのはすぐのことだった。
「でしょ」
その場にへたり込むエリナを覆う様に展開された障壁。
それは私が魔改造したこともあって、クラウスの大剣による一撃をいとも容易く受け止めて見せた。
城内に侵入してきた人間から身を守るために開発したこの魔法が、まさか幼馴染を犯罪者にさせない働きをするなんて予想していなかった。
過去の私に感謝しておこう。
と、クラウスは大きな溜息を吐いて剣を仕舞い、ゴミを見る目をエリナに向ける。
もう殺す気は失せたのだと判断した私は、この無駄に魔力の消費が激しい魔法を解除すると、クラウスは鼻で笑って。
「どっちにしろ死ぬことは無かったが、エミーのおかげで助かったな」
「……」
寸止めするつもりだったいうと遠回しな言葉に、彼女は何も言わずに立ち上がり、私を振り返る。
それによって恐ろしい笑みを浮かべたエリナの顔面が露わとなり。
「死になさい!」
その言葉と共に数十の炎を纏った土の杭が一斉に私へ向けて放たれた。
だがその程度の奇襲になれている私は本能的にさっきの魔法を発動させ、そのほとんどを跳弾させて無効化してみせる。
これは予想外だった様子で口をあんぐりと開けた彼女は、次の瞬間クラウスに取り押さえられ、顔面を土にめり込ませることになった。
「そのくらいの奇襲なら城の中で何回も体験してるの。私のこと、あんまり舐めないでね」
「平民の……くせに!」
土で汚した顔を上げて私を親の敵とばかりに睨むエリナに呆れて言葉も出ない。
すると騒ぎを聞き付けたらしい自警団の人たちが駆け付け、私たちを見つけると。
「何があった?! 魔法が上空を飛んで行ったぞ!」
「このゴブリンが撃ちやがった。とっとと檻の中にでも突っ込め」
「そ、そうか」
クラウスの殺意剥き出しな顔に怯んだ様子のリーダー格の男は、引き連れていた二人の若い人達と共に、エリナに手錠を掛けると立ち上がらせ、どこかへと連れ去って行った。
ぎゃいぎゃいと騒いで抵抗するエリナの後姿を眺めていると、疲れた様子で溜息を吐いたクラウスが。
「お前、あんなのに囲まれて過ごしてたのか?」
「まあ、そうだね。毎日あんなのに仕事押し付けられて大変だった」
今思えばあんなやつらに囲まれていたというのによく精神も身体も持ったものだと思う。
もしも今から再びあの環境に戻ったら、きっと全力で逃げ出そうとするか、自死を選ぶに違いない。
真に異常だったのは私だったのだろうか?
そんな疑問が湧き出しているとクラウスは何か思い出した様子で私を見て。
「あのゴブリン……じゃなくて性悪女のせいで忘れてたけど、良かったら明日、冒険者として魔物の駆除を手伝ってくれないか? 体動かすの好きだったろ?」
「じゃあ、面白そうだから行こうかな」
私のその返答に嬉しそうな笑みを浮かべたクラウスは、「また明日な」とだけ言うとどこかへと駆け出して行った。
私と仕事ができるのが嬉しいのか、それとも何か用事があったのか。
そんなどうでも良い考えを振り払って、私は明日を楽しみに思いながら家の方へ向かった。
十分程度で家の前の通りに着いた私は、道中で買った飴を頬張りながら道を進む。
通りは登り切った太陽に照らされ、その風景はここを旅立った時に比べると、多少変わってはいれど、懐かしさを感じる。
と、正面を誰かが走ってきていることに気付き、何となく嫌な予感がした私は遠距離を見れるようになる魔法を発動する。
すると焦っているのがよくわかるエリナの顔が見え、その後ろに必死な様子で追いかける自警団と思わしき人たちがいる。
エリナはこちらに気付いた様子で目を見開くと、慌てた様子で角を曲がって行き、自警団も叫び声を上げながら追って行く。
おそらく自警団の人が目を離した隙に魔法でも使って檻を壊して逃げ出したのだろう。
捕まる事を祈っておこう。
私は相手する気力が起きず、見なかったことにして家の方へ向かう。
それにしても、なんで急にエリナはここへやってきたのだろう。
大方、仕事をやってくれる人間がいないから連れ戻して奴隷のようにこき使いたいだけなのだろうが、もう関わらないで欲しいものだ。
思わず溜息を吐きながら考え事をしている間に家へ到着した私は中へと入る。
すると出迎えてくれたのは、仕事から帰って来たばかりなのか仕事服を着た父で。
「お帰り。クラウスとのデートは楽しかったか?」
「デートじゃなくて案内だから。からかわないでよ」
私の言葉に父は嬉しそうに笑う。
きっと久々にこうして話せるのが嬉しいのだろうが、そういうからかいは辞めて欲しいものだ。
と、リビングからひょこりと顔を見せた母は私に気付くとニコリと笑って。
「あら、お帰り。エミーの好きだったハギス、出来てるわよ」
「好きでは無いけどね」
こうしてまともに話せる相手がいるというのは、本当に幸せだったのだなと実感する。
……追放されて良かった。
そんな事を考えながらリビングに入った私が、テーブルに置かれているゲテモノ料理を見て苦笑したのはすぐのことだった。
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