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30話 大臣視点

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 貴族街は平民街に比べると建物の被害はそこまで無いようだが、それでも窓や塀は一部壊されているようだ。
 常に清潔が保たれていた道もゴミや捨てられた武具で汚され、美の象徴とまで呼ばれたあの美しさはどこにもない。
 こんな光景を見ていると屋敷が無事なのかと不安になって来るが、きっと屋敷の騎士達が上手いこと対処してくれていると信じよう。
 ――今の私にはそれしか出来ない。

 と、ディートリヒが隠れろとジェスチャーし、全員が建物と建物の間に滑り込み、私も慌ててそこへ駆け込む。
 そこそこ重い荷物を背負っての走り込みは運動不足にかなり効果があるらしく、息が上がって仕方が無い。
 するとランドルフが呆れた様子で。

「私が持ちますか? 無理はしないで下さいよ?」

「いや……大丈夫だ。私が出来るのはこれくらいだからな」

 それにこれすら出来なければ追い返されてしまうだろう。
 ずり落ちたリュックを背負い直して呼吸を正し、私の事に気付いていない様子で前方の建物を見つめるディートリヒの様子を伺う。
 いきなり私たちを隠れさせたという事は、何か危険なものを見つけた可能性が高い。
 例えば――

「ヤバイな、騎士が隊列組んで城の方行ってるぞ。何とかしねえとやべえな」

「流石に俺たちだけじゃ危なくねえか? 応援呼んだ方が良いんじゃねえの?」

「いや、それじゃあ最悪見失って間に合わなくなる。何とか気を引けねえか?」

 ディートリヒたちは相談を始め、私もどうすべきか考える。
 恐らく騎士が集まっているとか言っていたのはあれのことなのだろう。兵舎の位置から考えてもそれは間違いないはずだ。
 王から私兵を動かせと命令が出たのか、それとも貴族たちが見返り欲しさに連携して動かしているのか。
 理由は定かでは無いが、ディートリヒが危惧しているように目的は王城内の制圧で正しいだろう。
 と、進行する騎士たちを眺めていたランドルフが心配そうに私を振り返り。

「あの中にあなたの私兵、居ませんよね?」

「王が直接動けと言いに来なければ無いだろうな。それにこの状況下なら従う事は無い」

 隊長を任せているイヴァンの判断力は私でも驚くほど優れている。
 きっと私から避難指示が来るのを信じて待っているか、既に私の家族だけ避難させて屋敷を守っているのかのどちらかだろう。
 ランドルフはそれなら良かったと呟いて前を向き、それに倣うように私も前を向くと。

「よし、こいつで時間稼ぎするぞ。お前ら全員構えろ」

 そんな言葉と共にディートリヒが片手にしたのは、衝撃を与えることで周囲に眩い光を放つ事の出来る特殊な石で。
 私が慌てて目を腕で覆うと同時、小さな破裂音と悲鳴が上がった。
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