30 / 40
30話 大臣視点
しおりを挟む
貴族街は平民街に比べると建物の被害はそこまで無いようだが、それでも窓や塀は一部壊されているようだ。
常に清潔が保たれていた道もゴミや捨てられた武具で汚され、美の象徴とまで呼ばれたあの美しさはどこにもない。
こんな光景を見ていると屋敷が無事なのかと不安になって来るが、きっと屋敷の騎士達が上手いこと対処してくれていると信じよう。
――今の私にはそれしか出来ない。
と、ディートリヒが隠れろとジェスチャーし、全員が建物と建物の間に滑り込み、私も慌ててそこへ駆け込む。
そこそこ重い荷物を背負っての走り込みは運動不足にかなり効果があるらしく、息が上がって仕方が無い。
するとランドルフが呆れた様子で。
「私が持ちますか? 無理はしないで下さいよ?」
「いや……大丈夫だ。私が出来るのはこれくらいだからな」
それにこれすら出来なければ追い返されてしまうだろう。
ずり落ちたリュックを背負い直して呼吸を正し、私の事に気付いていない様子で前方の建物を見つめるディートリヒの様子を伺う。
いきなり私たちを隠れさせたという事は、何か危険なものを見つけた可能性が高い。
例えば――
「ヤバイな、騎士が隊列組んで城の方行ってるぞ。何とかしねえとやべえな」
「流石に俺たちだけじゃ危なくねえか? 応援呼んだ方が良いんじゃねえの?」
「いや、それじゃあ最悪見失って間に合わなくなる。何とか気を引けねえか?」
ディートリヒたちは相談を始め、私もどうすべきか考える。
恐らく騎士が集まっているとか言っていたのはあれのことなのだろう。兵舎の位置から考えてもそれは間違いないはずだ。
王から私兵を動かせと命令が出たのか、それとも貴族たちが見返り欲しさに連携して動かしているのか。
理由は定かでは無いが、ディートリヒが危惧しているように目的は王城内の制圧で正しいだろう。
と、進行する騎士たちを眺めていたランドルフが心配そうに私を振り返り。
「あの中にあなたの私兵、居ませんよね?」
「王が直接動けと言いに来なければ無いだろうな。それにこの状況下なら従う事は無い」
隊長を任せているイヴァンの判断力は私でも驚くほど優れている。
きっと私から避難指示が来るのを信じて待っているか、既に私の家族だけ避難させて屋敷を守っているのかのどちらかだろう。
ランドルフはそれなら良かったと呟いて前を向き、それに倣うように私も前を向くと。
「よし、こいつで時間稼ぎするぞ。お前ら全員構えろ」
そんな言葉と共にディートリヒが片手にしたのは、衝撃を与えることで周囲に眩い光を放つ事の出来る特殊な石で。
私が慌てて目を腕で覆うと同時、小さな破裂音と悲鳴が上がった。
常に清潔が保たれていた道もゴミや捨てられた武具で汚され、美の象徴とまで呼ばれたあの美しさはどこにもない。
こんな光景を見ていると屋敷が無事なのかと不安になって来るが、きっと屋敷の騎士達が上手いこと対処してくれていると信じよう。
――今の私にはそれしか出来ない。
と、ディートリヒが隠れろとジェスチャーし、全員が建物と建物の間に滑り込み、私も慌ててそこへ駆け込む。
そこそこ重い荷物を背負っての走り込みは運動不足にかなり効果があるらしく、息が上がって仕方が無い。
するとランドルフが呆れた様子で。
「私が持ちますか? 無理はしないで下さいよ?」
「いや……大丈夫だ。私が出来るのはこれくらいだからな」
それにこれすら出来なければ追い返されてしまうだろう。
ずり落ちたリュックを背負い直して呼吸を正し、私の事に気付いていない様子で前方の建物を見つめるディートリヒの様子を伺う。
いきなり私たちを隠れさせたという事は、何か危険なものを見つけた可能性が高い。
例えば――
「ヤバイな、騎士が隊列組んで城の方行ってるぞ。何とかしねえとやべえな」
「流石に俺たちだけじゃ危なくねえか? 応援呼んだ方が良いんじゃねえの?」
「いや、それじゃあ最悪見失って間に合わなくなる。何とか気を引けねえか?」
ディートリヒたちは相談を始め、私もどうすべきか考える。
恐らく騎士が集まっているとか言っていたのはあれのことなのだろう。兵舎の位置から考えてもそれは間違いないはずだ。
王から私兵を動かせと命令が出たのか、それとも貴族たちが見返り欲しさに連携して動かしているのか。
理由は定かでは無いが、ディートリヒが危惧しているように目的は王城内の制圧で正しいだろう。
と、進行する騎士たちを眺めていたランドルフが心配そうに私を振り返り。
「あの中にあなたの私兵、居ませんよね?」
「王が直接動けと言いに来なければ無いだろうな。それにこの状況下なら従う事は無い」
隊長を任せているイヴァンの判断力は私でも驚くほど優れている。
きっと私から避難指示が来るのを信じて待っているか、既に私の家族だけ避難させて屋敷を守っているのかのどちらかだろう。
ランドルフはそれなら良かったと呟いて前を向き、それに倣うように私も前を向くと。
「よし、こいつで時間稼ぎするぞ。お前ら全員構えろ」
そんな言葉と共にディートリヒが片手にしたのは、衝撃を与えることで周囲に眩い光を放つ事の出来る特殊な石で。
私が慌てて目を腕で覆うと同時、小さな破裂音と悲鳴が上がった。
18
お気に入りに追加
7,934
あなたにおすすめの小説
学院内でいきなり婚約破棄されました
マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。
慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。
メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。
急速に二人の仲も進展していくが……?
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる