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99話 犬屋敷
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屋敷の裏に位置する駐車場に移動すると、たくさんの車が並んでいた。
少し古いセダンやワゴン車、軽トラなどなど、様々な用途に合わせているのが分かる。
「そこのワゴン車に乗るのじゃ。土地神の屋敷まで送ってやろう」
「ありがとう……でも、こんな大所帯で詰め掛けて大丈夫?」
私たち三人と真白、美農だけでなく、たぬき娘たちも十人ほど付いてくる様子。
可愛らしい彼女たちが来てくれるのは嬉しいが、あちらで迷惑がられそうで少し不安だ。
「大丈夫じゃ。こやつの配下が一緒に来ることも珍しくない」
頭をなでなでされて何とも言えない顔をする真白。
そんな彼はこの屋敷に来て三時間ほどで中型犬サイズにまで育ち、凛々しい横顔は柴犬っぽさがある。
しかし、柴犬は体毛が硬いのに対してこの子はかなり柔らかく、自然と手が伸びてしまう。
こんなもの、どうぞ撫でて下さいと言っているようなものである。
そんなことを考えながらみんなで車に乗り込むと、運転席に座った美農が煙を纏う。
数秒で妖艶な美女と化した彼女は、尻尾を座席に開けられている穴に通すと、手慣れた動作で車を動かし始めた。
マニュアル車であるにも関わらず自然な運転で駐車場を出たワゴン車は、山の方へ向けて走り始める。
シフトレバーとハンドルをそれぞれ片手で操作しながら運転するその姿と、可愛らしい獣耳と尻尾のギャップで悶えている私に、隣に座っていた七海が。
「美農たんは運転凄く上手でしょ? あれ、私が運転教えてあげたの」
「免許持ってないんじゃ……」
「あっ……。ごめん、忘れて」
ここへ来るまでの道中、免許持ってないとか何とかで、運転は私と蒼馬がしていた。
嘘吐いてサボったかもしれない彼女にジト目を向けながら頬を引っ張り、こちらを向かせると面白いくらい目を泳がせる。
「どういう、ことかな?」
「ごめんにゃしゃいっ」
「本当は持ってるんだね?」
「途中でやっぱり持ってるって言い出せなくて……」
いつものイタズラ狐な顔がしなしなと叱られた子どものようになり、それが面白くて許してしまいそうになる。
と、運転をしながら話を聞いていたらしい美農がおかしそうに笑って。
「帰りは玉藻にだけ運転させると良いのじゃ」
「過労死しちゃうっ」
涙目で叫んだ彼女のせいで、車内は笑いで包まれた。
そうしている間に車は山の中に入り、ワゴン車はエンジンを唸らせながら坂道を上っていく。
やがて山の頂上まで近付くと美農たちの屋敷にも負けない大きな屋敷が見え始めた。
鬱蒼と茂る木々に囲まれているというのに、どこか上品な雰囲気を放ち、よく整備されているのか外壁が木漏れ日を反射している。
「屋敷、大きいんだね」
膝でお利口にお座りしていた真白に話しかけると、尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がこちらを向いた。
「配下がたくさんいますから」
「たぬきの女の子みたいな感じなの?」
「犬娘たちがおります。きっと、主君がいなくなって遠吠えしている事でしょう……」
「自由だ―って喜んでおったぞ?」
美農が余計なことを言ったせいでしゅんと膝の上で丸くなる。
申し訳程度に背中をナデナデして慰めていると、屋敷の入り口で車は止まり、私たちはぞろぞろと車を降りる。
すると、頭に犬耳を生やした女の子たちが現れる。
「ようこそいらっしゃいました! さあさ、上がって行ってください!」
犬娘たちのリーダーなのだろう、サモエドを彷彿とさせる少女が笑顔を弾けさせながら歓迎した。
どうやら犬種は統一されていないらしく、迎えに来た彼女たちの犬耳と尻尾は多種多様で、しかし例外なくご機嫌そうにふりふりしている。
「うちの当主がごめんねー。出荷しちゃったから今世の別れだと思っちゃったー」
「おい、俺の事を諦めるな」
大型犬サイズにまで大きくなっていた真白は、そう言いながら煙を纏い。
――白髪の偉丈夫が現れた。
少し古いセダンやワゴン車、軽トラなどなど、様々な用途に合わせているのが分かる。
「そこのワゴン車に乗るのじゃ。土地神の屋敷まで送ってやろう」
「ありがとう……でも、こんな大所帯で詰め掛けて大丈夫?」
私たち三人と真白、美農だけでなく、たぬき娘たちも十人ほど付いてくる様子。
可愛らしい彼女たちが来てくれるのは嬉しいが、あちらで迷惑がられそうで少し不安だ。
「大丈夫じゃ。こやつの配下が一緒に来ることも珍しくない」
頭をなでなでされて何とも言えない顔をする真白。
そんな彼はこの屋敷に来て三時間ほどで中型犬サイズにまで育ち、凛々しい横顔は柴犬っぽさがある。
しかし、柴犬は体毛が硬いのに対してこの子はかなり柔らかく、自然と手が伸びてしまう。
こんなもの、どうぞ撫でて下さいと言っているようなものである。
そんなことを考えながらみんなで車に乗り込むと、運転席に座った美農が煙を纏う。
数秒で妖艶な美女と化した彼女は、尻尾を座席に開けられている穴に通すと、手慣れた動作で車を動かし始めた。
マニュアル車であるにも関わらず自然な運転で駐車場を出たワゴン車は、山の方へ向けて走り始める。
シフトレバーとハンドルをそれぞれ片手で操作しながら運転するその姿と、可愛らしい獣耳と尻尾のギャップで悶えている私に、隣に座っていた七海が。
「美農たんは運転凄く上手でしょ? あれ、私が運転教えてあげたの」
「免許持ってないんじゃ……」
「あっ……。ごめん、忘れて」
ここへ来るまでの道中、免許持ってないとか何とかで、運転は私と蒼馬がしていた。
嘘吐いてサボったかもしれない彼女にジト目を向けながら頬を引っ張り、こちらを向かせると面白いくらい目を泳がせる。
「どういう、ことかな?」
「ごめんにゃしゃいっ」
「本当は持ってるんだね?」
「途中でやっぱり持ってるって言い出せなくて……」
いつものイタズラ狐な顔がしなしなと叱られた子どものようになり、それが面白くて許してしまいそうになる。
と、運転をしながら話を聞いていたらしい美農がおかしそうに笑って。
「帰りは玉藻にだけ運転させると良いのじゃ」
「過労死しちゃうっ」
涙目で叫んだ彼女のせいで、車内は笑いで包まれた。
そうしている間に車は山の中に入り、ワゴン車はエンジンを唸らせながら坂道を上っていく。
やがて山の頂上まで近付くと美農たちの屋敷にも負けない大きな屋敷が見え始めた。
鬱蒼と茂る木々に囲まれているというのに、どこか上品な雰囲気を放ち、よく整備されているのか外壁が木漏れ日を反射している。
「屋敷、大きいんだね」
膝でお利口にお座りしていた真白に話しかけると、尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がこちらを向いた。
「配下がたくさんいますから」
「たぬきの女の子みたいな感じなの?」
「犬娘たちがおります。きっと、主君がいなくなって遠吠えしている事でしょう……」
「自由だ―って喜んでおったぞ?」
美農が余計なことを言ったせいでしゅんと膝の上で丸くなる。
申し訳程度に背中をナデナデして慰めていると、屋敷の入り口で車は止まり、私たちはぞろぞろと車を降りる。
すると、頭に犬耳を生やした女の子たちが現れる。
「ようこそいらっしゃいました! さあさ、上がって行ってください!」
犬娘たちのリーダーなのだろう、サモエドを彷彿とさせる少女が笑顔を弾けさせながら歓迎した。
どうやら犬種は統一されていないらしく、迎えに来た彼女たちの犬耳と尻尾は多種多様で、しかし例外なくご機嫌そうにふりふりしている。
「うちの当主がごめんねー。出荷しちゃったから今世の別れだと思っちゃったー」
「おい、俺の事を諦めるな」
大型犬サイズにまで大きくなっていた真白は、そう言いながら煙を纏い。
――白髪の偉丈夫が現れた。
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