106 / 106
99話 犬屋敷
しおりを挟む
屋敷の裏に位置する駐車場に移動すると、たくさんの車が並んでいた。
少し古いセダンやワゴン車、軽トラなどなど、様々な用途に合わせているのが分かる。
「そこのワゴン車に乗るのじゃ。土地神の屋敷まで送ってやろう」
「ありがとう……でも、こんな大所帯で詰め掛けて大丈夫?」
私たち三人と真白、美農だけでなく、たぬき娘たちも十人ほど付いてくる様子。
可愛らしい彼女たちが来てくれるのは嬉しいが、あちらで迷惑がられそうで少し不安だ。
「大丈夫じゃ。こやつの配下が一緒に来ることも珍しくない」
頭をなでなでされて何とも言えない顔をする真白。
そんな彼はこの屋敷に来て三時間ほどで中型犬サイズにまで育ち、凛々しい横顔は柴犬っぽさがある。
しかし、柴犬は体毛が硬いのに対してこの子はかなり柔らかく、自然と手が伸びてしまう。
こんなもの、どうぞ撫でて下さいと言っているようなものである。
そんなことを考えながらみんなで車に乗り込むと、運転席に座った美農が煙を纏う。
数秒で妖艶な美女と化した彼女は、尻尾を座席に開けられている穴に通すと、手慣れた動作で車を動かし始めた。
マニュアル車であるにも関わらず自然な運転で駐車場を出たワゴン車は、山の方へ向けて走り始める。
シフトレバーとハンドルをそれぞれ片手で操作しながら運転するその姿と、可愛らしい獣耳と尻尾のギャップで悶えている私に、隣に座っていた七海が。
「美農たんは運転凄く上手でしょ? あれ、私が運転教えてあげたの」
「免許持ってないんじゃ……」
「あっ……。ごめん、忘れて」
ここへ来るまでの道中、免許持ってないとか何とかで、運転は私と蒼馬がしていた。
嘘吐いてサボったかもしれない彼女にジト目を向けながら頬を引っ張り、こちらを向かせると面白いくらい目を泳がせる。
「どういう、ことかな?」
「ごめんにゃしゃいっ」
「本当は持ってるんだね?」
「途中でやっぱり持ってるって言い出せなくて……」
いつものイタズラ狐な顔がしなしなと叱られた子どものようになり、それが面白くて許してしまいそうになる。
と、運転をしながら話を聞いていたらしい美農がおかしそうに笑って。
「帰りは玉藻にだけ運転させると良いのじゃ」
「過労死しちゃうっ」
涙目で叫んだ彼女のせいで、車内は笑いで包まれた。
そうしている間に車は山の中に入り、ワゴン車はエンジンを唸らせながら坂道を上っていく。
やがて山の頂上まで近付くと美農たちの屋敷にも負けない大きな屋敷が見え始めた。
鬱蒼と茂る木々に囲まれているというのに、どこか上品な雰囲気を放ち、よく整備されているのか外壁が木漏れ日を反射している。
「屋敷、大きいんだね」
膝でお利口にお座りしていた真白に話しかけると、尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がこちらを向いた。
「配下がたくさんいますから」
「たぬきの女の子みたいな感じなの?」
「犬娘たちがおります。きっと、主君がいなくなって遠吠えしている事でしょう……」
「自由だ―って喜んでおったぞ?」
美農が余計なことを言ったせいでしゅんと膝の上で丸くなる。
申し訳程度に背中をナデナデして慰めていると、屋敷の入り口で車は止まり、私たちはぞろぞろと車を降りる。
すると、頭に犬耳を生やした女の子たちが現れる。
「ようこそいらっしゃいました! さあさ、上がって行ってください!」
犬娘たちのリーダーなのだろう、サモエドを彷彿とさせる少女が笑顔を弾けさせながら歓迎した。
どうやら犬種は統一されていないらしく、迎えに来た彼女たちの犬耳と尻尾は多種多様で、しかし例外なくご機嫌そうにふりふりしている。
「うちの当主がごめんねー。出荷しちゃったから今世の別れだと思っちゃったー」
「おい、俺の事を諦めるな」
大型犬サイズにまで大きくなっていた真白は、そう言いながら煙を纏い。
――白髪の偉丈夫が現れた。
少し古いセダンやワゴン車、軽トラなどなど、様々な用途に合わせているのが分かる。
「そこのワゴン車に乗るのじゃ。土地神の屋敷まで送ってやろう」
「ありがとう……でも、こんな大所帯で詰め掛けて大丈夫?」
私たち三人と真白、美農だけでなく、たぬき娘たちも十人ほど付いてくる様子。
可愛らしい彼女たちが来てくれるのは嬉しいが、あちらで迷惑がられそうで少し不安だ。
「大丈夫じゃ。こやつの配下が一緒に来ることも珍しくない」
頭をなでなでされて何とも言えない顔をする真白。
そんな彼はこの屋敷に来て三時間ほどで中型犬サイズにまで育ち、凛々しい横顔は柴犬っぽさがある。
しかし、柴犬は体毛が硬いのに対してこの子はかなり柔らかく、自然と手が伸びてしまう。
こんなもの、どうぞ撫でて下さいと言っているようなものである。
そんなことを考えながらみんなで車に乗り込むと、運転席に座った美農が煙を纏う。
数秒で妖艶な美女と化した彼女は、尻尾を座席に開けられている穴に通すと、手慣れた動作で車を動かし始めた。
マニュアル車であるにも関わらず自然な運転で駐車場を出たワゴン車は、山の方へ向けて走り始める。
シフトレバーとハンドルをそれぞれ片手で操作しながら運転するその姿と、可愛らしい獣耳と尻尾のギャップで悶えている私に、隣に座っていた七海が。
「美農たんは運転凄く上手でしょ? あれ、私が運転教えてあげたの」
「免許持ってないんじゃ……」
「あっ……。ごめん、忘れて」
ここへ来るまでの道中、免許持ってないとか何とかで、運転は私と蒼馬がしていた。
嘘吐いてサボったかもしれない彼女にジト目を向けながら頬を引っ張り、こちらを向かせると面白いくらい目を泳がせる。
「どういう、ことかな?」
「ごめんにゃしゃいっ」
「本当は持ってるんだね?」
「途中でやっぱり持ってるって言い出せなくて……」
いつものイタズラ狐な顔がしなしなと叱られた子どものようになり、それが面白くて許してしまいそうになる。
と、運転をしながら話を聞いていたらしい美農がおかしそうに笑って。
「帰りは玉藻にだけ運転させると良いのじゃ」
「過労死しちゃうっ」
涙目で叫んだ彼女のせいで、車内は笑いで包まれた。
そうしている間に車は山の中に入り、ワゴン車はエンジンを唸らせながら坂道を上っていく。
やがて山の頂上まで近付くと美農たちの屋敷にも負けない大きな屋敷が見え始めた。
鬱蒼と茂る木々に囲まれているというのに、どこか上品な雰囲気を放ち、よく整備されているのか外壁が木漏れ日を反射している。
「屋敷、大きいんだね」
膝でお利口にお座りしていた真白に話しかけると、尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がこちらを向いた。
「配下がたくさんいますから」
「たぬきの女の子みたいな感じなの?」
「犬娘たちがおります。きっと、主君がいなくなって遠吠えしている事でしょう……」
「自由だ―って喜んでおったぞ?」
美農が余計なことを言ったせいでしゅんと膝の上で丸くなる。
申し訳程度に背中をナデナデして慰めていると、屋敷の入り口で車は止まり、私たちはぞろぞろと車を降りる。
すると、頭に犬耳を生やした女の子たちが現れる。
「ようこそいらっしゃいました! さあさ、上がって行ってください!」
犬娘たちのリーダーなのだろう、サモエドを彷彿とさせる少女が笑顔を弾けさせながら歓迎した。
どうやら犬種は統一されていないらしく、迎えに来た彼女たちの犬耳と尻尾は多種多様で、しかし例外なくご機嫌そうにふりふりしている。
「うちの当主がごめんねー。出荷しちゃったから今世の別れだと思っちゃったー」
「おい、俺の事を諦めるな」
大型犬サイズにまで大きくなっていた真白は、そう言いながら煙を纏い。
――白髪の偉丈夫が現れた。
98
お気に入りに追加
1,440
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(172件)
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です
黄舞
ファンタジー
祝書籍化ヾ(●´∇`●)ノ
3月25日発売日です!!
「嫌なら辞めろ。ただし、お前みたいな無能を使ってくれるところなんて他にない」
何回聞いたか分からないその言葉を聞いた俺の心は、ある日ポッキリ折れてしまった。
「分かりました。辞めます」
そう言って文字通り育ててもらった最大手ギルドを辞めた俺に、突然前世の記憶が襲う。
前世の俺は異世界で化学者《ケミスト》と呼ばれていた。
「なるほど。俺の独自の錬成方法は、無意識に前世の記憶を使っていたのか」
通常とは異なる手法で、普通の錬金術師《アルケミスト》では到底及ばぬ技能を身に付けていた俺。
さらに鮮明となった知識を駆使して様々な規格外の良品を作り上げていく。
ついでに『ホワイト』なギルドの経営者となり、これまで虐げられた鬱憤を晴らすことを決めた。
これはある化学者が錬金術師に転生して、前世の知識を使い絶品を作り出し、その高待遇から様々な優秀なメンバーが集うギルドを成り上がらせるお話。
お気に入り5000です!!
ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ
よろしければお気に入り登録お願いします!!
他のサイトでも掲載しています
※2月末にアルファポリスオンリーになります
2章まで完結済みです
3章からは不定期更新になります。
引き続きよろしくお願いします。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
長らくお待たせして申し訳ないです!
次回、もしかしたら出るかもしれません……しばしお待ちを……
大丈夫だ、問題ない。
※ものすごく澄んだ目
今後とも幼女たちをよろしくお願いいたしますm(_ _)m
長らくお待ちいただきありがとうございます!
増やし過ぎたような気がしていますが、不思議と後悔はしておりませぬ(笑)