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98話 狐屋敷
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私たちが通された部屋は、テーブルが三列並ぶ客室だった。
たぬき娘たちがあちらこちらで七海の持って来たお菓子の入った箱を開け始め、それはそれは美味しそうにもぐもぐと食べる。
餌付け狐と言われていた事に納得していると、電話して来ると言って席を外していた狐の幼女が戻って来た。
「連絡したら、荷物の出荷中にいなくなったそうじゃな。何をしたらそうなる、土地神」
呆れたように問いかけられた土地神は、私の膝の上でお座りをしたまま。
「……屋敷で毛布にくるまって昼寝をしていたら、タケノコと間違われて出荷されたらしい」
「可愛い」
思わず笑ってしまいながらそう呟いた私に、真白は何とも言えない顔で見上げてくる。
一先ず背中を撫でてヨシヨシしていると、トイレから戻って来た七海が私の隣に座り、たぬき娘たちと共にお菓子へ手をつける。
そんな彼女に屋敷へ入る前からぶつけたかった疑問を投げかける。
「七海の本名は玉藻なの?」
「……バレちゃあ仕方ねえ」
ほっぺをリスみたいに膨らませながらそんなことを言った彼女は、ぽふんと音を立てて煙を纏った。
数秒で晴れるとそこには――可愛らしい狐が座っていた。
「狐がお菓子食べて大丈夫なの?」
「気にするとこ他にない?」
もぐもぐしながらジト目を向けて来る七海、改め玉藻。
しかし、そんな彼女は他のたぬき娘によちよちと撫でられ、私と蒼馬の手も自然と伸びる。
「あの、この子は稲荷の神様ですか?」
「そうじゃ。前まで山の神社で悠々自適にニートしておったわ」
狐の幼女が答えると、玉藻は青筋を浮かべて。
「待って、聞くなら普通私でしょ。それにニートじゃないし!」
尻尾をピンと立てて怒っていることをアピールする彼女だが、美農が手慣れた様子で背中を撫でると何とも言えない顔をしてその場にお座りする。
可愛い生き物しかいないこの空間に変な笑みが零れそうになりながら、私は淹れてもらっていたお茶を口にする。
と、蒼馬がメモ用紙を用意しながら。
「それで、玉藻……様とこの屋敷の皆さんとの関係は?」
「良いよ、呼び捨てで。私は元々ここからちょっと離れたところにある山で神様をやってたの」
「そこでニートしてたの?」
「次それ言ったら箪笥の角に小指ぶつけさせるからね」
地味に痛そうな罰だ。
コホンと咳払いした玉藻はぽふっと音を立てて、七海の姿に戻ると。
「その頃は山に小さな村がいくつかあって、私はそこの村々の守り神として崇められてたの。でも、時が経つと段々人が少なくなっちゃって……」
寂しかったようで目を伏せ、彼女が初めて見せた表情なだけに私は少し動揺する。
「寂しくなって童の元に泣き付いて来たのじゃ」
「このロリっ子めっ!」
余計な口を挟んだ狐の幼女を膝に乗せ、くすぐり攻撃を仕掛ける玉藻は、その寂しさからは逃れることが出来たようで、私はなんだかホッとしてしまう。
脇腹を指で揉まれてにゃははと笑い転げていた幼女は、突如煙を出して小さな丸太と化し、気付けば私の隣に座っていた。
「変わり身の術じゃ」
「す、すごい……」
「負けてんぞ稲荷」
「うっさい!」
蒼馬が揶揄うと玉藻は丸太を引っ叩きながら唸る。
凹んだ丸太を膝から退かした彼女を横目に、私はまた少し大きくなった真白を蒼馬に預け、今度は幼女を膝に乗せる。
「妖狐さんの名前は何て言うんですか?」
「童の名は美農。この地に何千年と住む神なのじゃ」
カッコ良い事を言う幼女であるが、頭に生えた獣耳を撫でられると嬉しそうに尻尾をぷりぷりさせ、先っぽの柔らかい毛が顔に触れて心地良い。
「真白とどっちが強いですか?」
「知らぬが、童はそこのちびっ子とは違って戦闘は得意でない」
「ちびっ子と言うな。喰うぞ」
「追い出して良いか?」
ふしゃーと蛇らしく威嚇するミワを見て、美農は気怠げにそんな事を言う。
神様同士の仲が悪いというのは本当らしい。
「知りたい事たくさん出来ちゃったなー」
私の独り言を聞いた蒼馬が、笑いながら「良かったな」と背中をポンポンする。
ここにいる可愛いあやかし達のことをもっと知りたい……そんな欲求を胸に、私は美農とミワを膝に乗せ、二人を良い子良い子と撫で回した。
たぬき娘たちがあちらこちらで七海の持って来たお菓子の入った箱を開け始め、それはそれは美味しそうにもぐもぐと食べる。
餌付け狐と言われていた事に納得していると、電話して来ると言って席を外していた狐の幼女が戻って来た。
「連絡したら、荷物の出荷中にいなくなったそうじゃな。何をしたらそうなる、土地神」
呆れたように問いかけられた土地神は、私の膝の上でお座りをしたまま。
「……屋敷で毛布にくるまって昼寝をしていたら、タケノコと間違われて出荷されたらしい」
「可愛い」
思わず笑ってしまいながらそう呟いた私に、真白は何とも言えない顔で見上げてくる。
一先ず背中を撫でてヨシヨシしていると、トイレから戻って来た七海が私の隣に座り、たぬき娘たちと共にお菓子へ手をつける。
そんな彼女に屋敷へ入る前からぶつけたかった疑問を投げかける。
「七海の本名は玉藻なの?」
「……バレちゃあ仕方ねえ」
ほっぺをリスみたいに膨らませながらそんなことを言った彼女は、ぽふんと音を立てて煙を纏った。
数秒で晴れるとそこには――可愛らしい狐が座っていた。
「狐がお菓子食べて大丈夫なの?」
「気にするとこ他にない?」
もぐもぐしながらジト目を向けて来る七海、改め玉藻。
しかし、そんな彼女は他のたぬき娘によちよちと撫でられ、私と蒼馬の手も自然と伸びる。
「あの、この子は稲荷の神様ですか?」
「そうじゃ。前まで山の神社で悠々自適にニートしておったわ」
狐の幼女が答えると、玉藻は青筋を浮かべて。
「待って、聞くなら普通私でしょ。それにニートじゃないし!」
尻尾をピンと立てて怒っていることをアピールする彼女だが、美農が手慣れた様子で背中を撫でると何とも言えない顔をしてその場にお座りする。
可愛い生き物しかいないこの空間に変な笑みが零れそうになりながら、私は淹れてもらっていたお茶を口にする。
と、蒼馬がメモ用紙を用意しながら。
「それで、玉藻……様とこの屋敷の皆さんとの関係は?」
「良いよ、呼び捨てで。私は元々ここからちょっと離れたところにある山で神様をやってたの」
「そこでニートしてたの?」
「次それ言ったら箪笥の角に小指ぶつけさせるからね」
地味に痛そうな罰だ。
コホンと咳払いした玉藻はぽふっと音を立てて、七海の姿に戻ると。
「その頃は山に小さな村がいくつかあって、私はそこの村々の守り神として崇められてたの。でも、時が経つと段々人が少なくなっちゃって……」
寂しかったようで目を伏せ、彼女が初めて見せた表情なだけに私は少し動揺する。
「寂しくなって童の元に泣き付いて来たのじゃ」
「このロリっ子めっ!」
余計な口を挟んだ狐の幼女を膝に乗せ、くすぐり攻撃を仕掛ける玉藻は、その寂しさからは逃れることが出来たようで、私はなんだかホッとしてしまう。
脇腹を指で揉まれてにゃははと笑い転げていた幼女は、突如煙を出して小さな丸太と化し、気付けば私の隣に座っていた。
「変わり身の術じゃ」
「す、すごい……」
「負けてんぞ稲荷」
「うっさい!」
蒼馬が揶揄うと玉藻は丸太を引っ叩きながら唸る。
凹んだ丸太を膝から退かした彼女を横目に、私はまた少し大きくなった真白を蒼馬に預け、今度は幼女を膝に乗せる。
「妖狐さんの名前は何て言うんですか?」
「童の名は美農。この地に何千年と住む神なのじゃ」
カッコ良い事を言う幼女であるが、頭に生えた獣耳を撫でられると嬉しそうに尻尾をぷりぷりさせ、先っぽの柔らかい毛が顔に触れて心地良い。
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「知らぬが、童はそこのちびっ子とは違って戦闘は得意でない」
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神様同士の仲が悪いというのは本当らしい。
「知りたい事たくさん出来ちゃったなー」
私の独り言を聞いた蒼馬が、笑いながら「良かったな」と背中をポンポンする。
ここにいる可愛いあやかし達のことをもっと知りたい……そんな欲求を胸に、私は美農とミワを膝に乗せ、二人を良い子良い子と撫で回した。
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