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97話 妖狐
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後部座席のチャイルドシートでスヤスヤ眠るミワと真白ーーそして、それをニヤニヤと笑みを浮かべて眺める七海。
なぜ彼女が一緒に来たのかといえば、知人がこちらに住んでいるとかで道が分かるらしく、案内役として来てもらったのである。
バックミラーに映る可愛らしいあやかしと不審者を横目に、木々ばかりが生える外の景色を見やる。
「眠くなってくるな、この道」
「だね。時々廃屋があるくらいだし……」
そんな会話をしていると、急に視界がパッと晴れ渡った。
木々が無くなったと思えば今度は一面に広がる畑ばかりの景色で、それは衛生写真で見た光景と一致する。
まだタネは植えられていないようで、畑には何の植物も生えていないが、それはそれでしっかりと手入れが行き届いている証拠で、人かあやかしのどちらかがいるのではと期待を寄せる。
「お、なんかデカイ屋敷が見えてきたな」
「ホントだー。七海、あれが知り合いのお家?」
「あれだねー。私の友達の家だよー」
「おっきいね……」
そこそこの距離があるのにも関わらずクッキリとその姿形がわかり、和風な豪邸であることが窺える。
田舎には広くて大きな家が多いけれど、それでもあの屋敷は別格であることがわかり、私の実家でも敵わないと察する。
「蒼馬の家もいいけどさ、田舎の広い家で生活するのも楽しそうだよね」
「通勤が面倒だけどな」
あやかしの調査を行う部署に異動する事になってしまったし、田舎に家があったのでは遠距離へ赴く時が大変か。
ちょっとだけワクワクしながら今後のことを考えている間に、屋敷がどんどん近くなってくる。
やがて屋敷横の空き地に車を停めると、七海がワクワクした顔をして車を降りると、トランクに詰め込んでいたお菓子の入った段ボールを手にして、正面の両開きの門へ歩いて行った。
それを横目にミワをチャイルドシートから下ろしていると。
「玉藻様?!」
驚いたような声が聞こえると同時、塀の奥でざわざわと女の子たちの声が聞こえて来る。
それを聞いていると人が来た事に驚いているのではなく、七海が来た事に驚きを隠せない様子で、玄関の方が騒がしくなる。
私は眠りこけるミワを、蒼馬は真白を抱っこしてそちらに向かうと、たぬきの耳と尻尾を生やした女の子たちがキャッキャと騒いでいた。
あっさりと人ではない存在に出会えてしまって拍子抜けしていると、私に気付いた一人のたぬき娘が。
「玉藻様のお付きの方々ですね! どうぞ、上がってください!」
「は、はい」
早く早くと少し興奮気味に急かされながら門をくぐると、立派な庭園が広がっていた。
よく手入れのされた池には色とりどりの鯉が悠々と泳ぎ、外側を覆うように植えられた植物もまたしっかりと剪定されている。
門から伸びる石畳の先には家紋らしき紋様の刻まれた古めかしくも美しい引き戸があり、私たちが近付くと中から開かれた。
「なんじゃ、騒々しい」
現れたのはミワと同じくらい小さな幼女だった。
しかし、その頭には黄金色に輝く狐耳、尻には自分の身長と同じ程度には大きな尻尾が生え、そのふわふわ具合に視線が吸い寄せられる。
「玉藻様です!」
「餌付け狐が来おったか」
「とかなんとか言っちゃって。尻尾ぷりぷりじゃん」
「やかましいのじゃ」
本当に甘い物が好きなようで、ふわふわな尻尾が大きく揺れ動く。
と、私の腕の中ですやすや寝ていたミワが「ふへっ」と変な声を出しながら目を覚まし。
「なんだ、そこのふわふわは」
「何だとはなんじゃ。童は歴とした妖狐じゃ」
幼女同士睨み合うのを見て、神様同士は仲が悪いとする話があった事を思い出す。
可愛い物同士仲良くなってくれないだろうかなんて考えつつ、私はミワを降ろしてあげながら。
「私は深川桂里奈と言います。この子の家探しと、近辺のあやかしについて調査しに来ました」
言いながら蒼馬に抱っこされたまま寝息を立てる子犬を手で示すと、妖狐と名乗った彼女は驚いた顔をする。
「む? 土地神ではないか」
「お知り合いなんですね」
「うむ。まあ、上がって行けばよい」
そう言って中へ入って行く彼女の後ろを七海が付いて行き、私は蒼馬から真白を受け取りながらその後ろに続く。
――少しだけ、腕の中で真白が大きくなった気がした。
なぜ彼女が一緒に来たのかといえば、知人がこちらに住んでいるとかで道が分かるらしく、案内役として来てもらったのである。
バックミラーに映る可愛らしいあやかしと不審者を横目に、木々ばかりが生える外の景色を見やる。
「眠くなってくるな、この道」
「だね。時々廃屋があるくらいだし……」
そんな会話をしていると、急に視界がパッと晴れ渡った。
木々が無くなったと思えば今度は一面に広がる畑ばかりの景色で、それは衛生写真で見た光景と一致する。
まだタネは植えられていないようで、畑には何の植物も生えていないが、それはそれでしっかりと手入れが行き届いている証拠で、人かあやかしのどちらかがいるのではと期待を寄せる。
「お、なんかデカイ屋敷が見えてきたな」
「ホントだー。七海、あれが知り合いのお家?」
「あれだねー。私の友達の家だよー」
「おっきいね……」
そこそこの距離があるのにも関わらずクッキリとその姿形がわかり、和風な豪邸であることが窺える。
田舎には広くて大きな家が多いけれど、それでもあの屋敷は別格であることがわかり、私の実家でも敵わないと察する。
「蒼馬の家もいいけどさ、田舎の広い家で生活するのも楽しそうだよね」
「通勤が面倒だけどな」
あやかしの調査を行う部署に異動する事になってしまったし、田舎に家があったのでは遠距離へ赴く時が大変か。
ちょっとだけワクワクしながら今後のことを考えている間に、屋敷がどんどん近くなってくる。
やがて屋敷横の空き地に車を停めると、七海がワクワクした顔をして車を降りると、トランクに詰め込んでいたお菓子の入った段ボールを手にして、正面の両開きの門へ歩いて行った。
それを横目にミワをチャイルドシートから下ろしていると。
「玉藻様?!」
驚いたような声が聞こえると同時、塀の奥でざわざわと女の子たちの声が聞こえて来る。
それを聞いていると人が来た事に驚いているのではなく、七海が来た事に驚きを隠せない様子で、玄関の方が騒がしくなる。
私は眠りこけるミワを、蒼馬は真白を抱っこしてそちらに向かうと、たぬきの耳と尻尾を生やした女の子たちがキャッキャと騒いでいた。
あっさりと人ではない存在に出会えてしまって拍子抜けしていると、私に気付いた一人のたぬき娘が。
「玉藻様のお付きの方々ですね! どうぞ、上がってください!」
「は、はい」
早く早くと少し興奮気味に急かされながら門をくぐると、立派な庭園が広がっていた。
よく手入れのされた池には色とりどりの鯉が悠々と泳ぎ、外側を覆うように植えられた植物もまたしっかりと剪定されている。
門から伸びる石畳の先には家紋らしき紋様の刻まれた古めかしくも美しい引き戸があり、私たちが近付くと中から開かれた。
「なんじゃ、騒々しい」
現れたのはミワと同じくらい小さな幼女だった。
しかし、その頭には黄金色に輝く狐耳、尻には自分の身長と同じ程度には大きな尻尾が生え、そのふわふわ具合に視線が吸い寄せられる。
「玉藻様です!」
「餌付け狐が来おったか」
「とかなんとか言っちゃって。尻尾ぷりぷりじゃん」
「やかましいのじゃ」
本当に甘い物が好きなようで、ふわふわな尻尾が大きく揺れ動く。
と、私の腕の中ですやすや寝ていたミワが「ふへっ」と変な声を出しながら目を覚まし。
「なんだ、そこのふわふわは」
「何だとはなんじゃ。童は歴とした妖狐じゃ」
幼女同士睨み合うのを見て、神様同士は仲が悪いとする話があった事を思い出す。
可愛い物同士仲良くなってくれないだろうかなんて考えつつ、私はミワを降ろしてあげながら。
「私は深川桂里奈と言います。この子の家探しと、近辺のあやかしについて調査しに来ました」
言いながら蒼馬に抱っこされたまま寝息を立てる子犬を手で示すと、妖狐と名乗った彼女は驚いた顔をする。
「む? 土地神ではないか」
「お知り合いなんですね」
「うむ。まあ、上がって行けばよい」
そう言って中へ入って行く彼女の後ろを七海が付いて行き、私は蒼馬から真白を受け取りながらその後ろに続く。
――少しだけ、腕の中で真白が大きくなった気がした。
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