さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

文字の大きさ
上 下
104 / 106

97話 妖狐

しおりを挟む
 後部座席のチャイルドシートでスヤスヤ眠るミワと真白ーーそして、それをニヤニヤと笑みを浮かべて眺める七海キツネ
 なぜ彼女が一緒に来たのかといえば、知人がこちらに住んでいるとかで道が分かるらしく、案内役として来てもらったのである。
 バックミラーに映る可愛らしいあやかしと不審者を横目に、木々ばかりが生える外の景色を見やる。

「眠くなってくるな、この道」

「だね。時々廃屋があるくらいだし……」

 そんな会話をしていると、急に視界がパッと晴れ渡った。
 木々が無くなったと思えば今度は一面に広がる畑ばかりの景色で、それは衛生写真で見た光景と一致する。
 まだタネは植えられていないようで、畑には何の植物も生えていないが、それはそれでしっかりと手入れが行き届いている証拠で、人かあやかしのどちらかがいるのではと期待を寄せる。

「お、なんかデカイ屋敷が見えてきたな」

「ホントだー。七海、あれが知り合いのお家?」

「あれだねー。私の友達の家だよー」

「おっきいね……」

 そこそこの距離があるのにも関わらずクッキリとその姿形がわかり、和風な豪邸であることが窺える。
 田舎には広くて大きな家が多いけれど、それでもあの屋敷は別格であることがわかり、私の実家でも敵わないと察する。
 
「蒼馬の家もいいけどさ、田舎の広い家で生活するのも楽しそうだよね」

「通勤が面倒だけどな」

 あやかしの調査を行う部署に異動する事になってしまったし、田舎に家があったのでは遠距離へ赴く時が大変か。
 ちょっとだけワクワクしながら今後のことを考えている間に、屋敷がどんどん近くなってくる。
 やがて屋敷横の空き地に車を停めると、七海がワクワクした顔をして車を降りると、トランクに詰め込んでいたお菓子の入った段ボールを手にして、正面の両開きの門へ歩いて行った。
 それを横目にミワをチャイルドシートから下ろしていると。

玉藻たまも様?!」

 驚いたような声が聞こえると同時、塀の奥でざわざわと女の子たちの声が聞こえて来る。
 それを聞いていると人が来た事に驚いているのではなく、七海が来た事に驚きを隠せない様子で、玄関の方が騒がしくなる。
 私は眠りこけるミワを、蒼馬は真白を抱っこしてそちらに向かうと、たぬきの耳と尻尾を生やした女の子たちがキャッキャと騒いでいた。
 あっさりと人ではない存在に出会えてしまって拍子抜けしていると、私に気付いた一人のたぬき娘が。

「玉藻様のお付きの方々ですね! どうぞ、上がってください!」

「は、はい」

 早く早くと少し興奮気味に急かされながら門をくぐると、立派な庭園が広がっていた。
 よく手入れのされた池には色とりどりの鯉が悠々と泳ぎ、外側を覆うように植えられた植物もまたしっかりと剪定されている。
 門から伸びる石畳の先には家紋らしき紋様の刻まれた古めかしくも美しい引き戸があり、私たちが近付くと中から開かれた。

「なんじゃ、騒々しい」

 現れたのはミワと同じくらい小さな幼女だった。
 しかし、その頭には黄金色に輝く狐耳、尻には自分の身長と同じ程度には大きな尻尾が生え、そのふわふわ具合に視線が吸い寄せられる。

「玉藻様です!」

「餌付け狐が来おったか」

「とかなんとか言っちゃって。尻尾ぷりぷりじゃん」

「やかましいのじゃ」

 本当に甘い物が好きなようで、ふわふわな尻尾が大きく揺れ動く。
 と、私の腕の中ですやすや寝ていたミワが「ふへっ」と変な声を出しながら目を覚まし。

「なんだ、そこのふわふわは」

「何だとはなんじゃ。童は歴とした妖狐じゃ」

 幼女同士睨み合うのを見て、神様同士は仲が悪いとする話があった事を思い出す。
 可愛い物同士仲良くなってくれないだろうかなんて考えつつ、私はミワを降ろしてあげながら。

「私は深川桂里奈と言います。この子の家探しと、近辺のあやかしについて調査しに来ました」

 言いながら蒼馬に抱っこされたまま寝息を立てる子犬を手で示すと、妖狐と名乗った彼女は驚いた顔をする。

「む? 土地神ではないか」

「お知り合いなんですね」

「うむ。まあ、上がって行けばよい」

 そう言って中へ入って行く彼女の後ろを七海が付いて行き、私は蒼馬から真白を受け取りながらその後ろに続く。
 ――少しだけ、腕の中で真白が大きくなった気がした。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...