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90話
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通されたのは広い和室。
清掃が行き届いているようで清潔感溢れるここは居心地が良く、ここに住みたいと思ってしまう。
と、僧侶たちがお茶の入った湯呑をもってやって来た。
「さて、君たちは何を知りたい?」
お茶を啜りながら尋ねてくる大国主に、私は少し緊張しながら答える。
「え、ええっと……ミワと大国主さんの関係が知りたいです」
「オーケー、分かった! 可愛い女の子の頼みなら引き受けよう!」
酔っ払っているのだろうか。
「このちびっ子と俺の出会いってのは、二千年以上前だな。ハッキリ言って、昔過ぎて記憶は曖昧だな」
「えっ」
「しゃあねえだろ? 生まれた時のこと覚えてっか?」
「覚えてないです……」
二千年以上前ともなると、確かに私でも覚えていられるか分からない。
「まあ、覚えてる感じだと……俺が国造ってたら小生意気な白蛇がどっからかやって来てな、神として祀れとか言い始めたんだよ」
「喧嘩がしたいのか?」
ミワがジト目を向けるが大国主は一切気にする様子なく話を続ける。
「まあ、喋れる蛇ってことは神か何か何だろうって事で祀ってやったんだがな、そしたら難航してた国造りがすんなり成功しちまったんだよ」
「吾輩のおかげだな。感謝しろ」
今度は誇らしげにそんな事を言い、情緒にバグが生じているのではないかとすら思ってしまう。
と、彼女は何か感じ取ったのかこちらをじいっと見つめ始め、一先ず抱き締めて誤魔化す。
「まあ、せめてもの恩返しって事で、俺の国に住み着いた人間どもに俺と一緒に信仰させてやったら、知らんうちに山まで自分の体にしやがってるし、分体で遊び歩くようになりやがるし、正直ビビったわ」
「……あの、山を自分の体にするってどういう事ですか?」
「ああ、意味わからんよなあ。俺も最初は死ぬほど混乱したしなあ」
そう言いながら湯呑みをグイッと傾けた彼は、大きなため息を吐く。
「この山、木々や建物含む全てが大物主の体なんだよ。山の中が禁域指定されてんのは、神の体を踏み付ける行為と同等になっちまうからなんだな」
「さっきおっしゃってた魂が引き抜かれると言うのは、その無礼に大物主が怒るから、という事ですか?」
「いんや、中身はこうやって遊んでっから怒る怒らないは関係無いんだよ。神としての格が上がり過ぎて、普通の人間じゃ立ち入っただけで逝っちまう。大蛇のこと知ってんなら意味も分かるんじゃねえのか?」
その言葉で、大蛇村で聞いたあの話を思い出す。
スサノオが八岐大蛇をオーバーキルしている時、神の傍に居続けた事で人間離れした奥さん達が、ならず者の首を掴んで持ち上げていた。
もしかしたら、彼女たちには神や妖の血が流れていただけで、普通の人間だったら近付いただけで死んでしまうほどのパワーを持っていたのかもしれない。
「ま、後で山頂まで行ってみると良い。本体がスヤスヤ寝てっからよ」
「貴様はどんなものを食えばそこまで性格が悪くなる?」
「しゃあねえだろ? 俺は生まれた時からこんなもんだ」
「どうしようも無い奴だな……」
自分の本体は見られたく無いらしく、嫌悪感を丸出しで大国主に悪態を吐く。
しかし、本体がどんな見た目をしているのか気になるのは事実だ。人ならざる姿なのか、それともどんな人よりも美しい姿をしているのか……はたまた愛らしい白蛇がいるのか。
「そんなに見たいのか?」
「顔に出てた?」
「分かりやすいほどな」
呆れた目をしながら見上げてそう言った彼女に、私はほっぺを触りながら「見たい」と本音を伝える。
蒼馬も同じなようでコクコクと頷いて見せ、ミワは大きなため息を吐く。
「しょうがない。見せてやる」
「そう来なきゃな! じゃ、付いてこい」
そう言って立ち上がった彼は、僧侶達に何かを用意するよう言いながら屋敷の奥へ向けて歩き出す。
曲がりくねった長い廊下を進んでいくと一つの部屋の前で彼は立ち止まり、機械音が聞こえ始める。
「用意、完了しました」
「お、早えな。じゃ乗ってくぞ」
「乗るって何に――」
尋ねるより先に大国主が襖を開けたことで、山頂まで続くロープウェイの設備が顕となり、私は顔を引き攣らせた。
清掃が行き届いているようで清潔感溢れるここは居心地が良く、ここに住みたいと思ってしまう。
と、僧侶たちがお茶の入った湯呑をもってやって来た。
「さて、君たちは何を知りたい?」
お茶を啜りながら尋ねてくる大国主に、私は少し緊張しながら答える。
「え、ええっと……ミワと大国主さんの関係が知りたいです」
「オーケー、分かった! 可愛い女の子の頼みなら引き受けよう!」
酔っ払っているのだろうか。
「このちびっ子と俺の出会いってのは、二千年以上前だな。ハッキリ言って、昔過ぎて記憶は曖昧だな」
「えっ」
「しゃあねえだろ? 生まれた時のこと覚えてっか?」
「覚えてないです……」
二千年以上前ともなると、確かに私でも覚えていられるか分からない。
「まあ、覚えてる感じだと……俺が国造ってたら小生意気な白蛇がどっからかやって来てな、神として祀れとか言い始めたんだよ」
「喧嘩がしたいのか?」
ミワがジト目を向けるが大国主は一切気にする様子なく話を続ける。
「まあ、喋れる蛇ってことは神か何か何だろうって事で祀ってやったんだがな、そしたら難航してた国造りがすんなり成功しちまったんだよ」
「吾輩のおかげだな。感謝しろ」
今度は誇らしげにそんな事を言い、情緒にバグが生じているのではないかとすら思ってしまう。
と、彼女は何か感じ取ったのかこちらをじいっと見つめ始め、一先ず抱き締めて誤魔化す。
「まあ、せめてもの恩返しって事で、俺の国に住み着いた人間どもに俺と一緒に信仰させてやったら、知らんうちに山まで自分の体にしやがってるし、分体で遊び歩くようになりやがるし、正直ビビったわ」
「……あの、山を自分の体にするってどういう事ですか?」
「ああ、意味わからんよなあ。俺も最初は死ぬほど混乱したしなあ」
そう言いながら湯呑みをグイッと傾けた彼は、大きなため息を吐く。
「この山、木々や建物含む全てが大物主の体なんだよ。山の中が禁域指定されてんのは、神の体を踏み付ける行為と同等になっちまうからなんだな」
「さっきおっしゃってた魂が引き抜かれると言うのは、その無礼に大物主が怒るから、という事ですか?」
「いんや、中身はこうやって遊んでっから怒る怒らないは関係無いんだよ。神としての格が上がり過ぎて、普通の人間じゃ立ち入っただけで逝っちまう。大蛇のこと知ってんなら意味も分かるんじゃねえのか?」
その言葉で、大蛇村で聞いたあの話を思い出す。
スサノオが八岐大蛇をオーバーキルしている時、神の傍に居続けた事で人間離れした奥さん達が、ならず者の首を掴んで持ち上げていた。
もしかしたら、彼女たちには神や妖の血が流れていただけで、普通の人間だったら近付いただけで死んでしまうほどのパワーを持っていたのかもしれない。
「ま、後で山頂まで行ってみると良い。本体がスヤスヤ寝てっからよ」
「貴様はどんなものを食えばそこまで性格が悪くなる?」
「しゃあねえだろ? 俺は生まれた時からこんなもんだ」
「どうしようも無い奴だな……」
自分の本体は見られたく無いらしく、嫌悪感を丸出しで大国主に悪態を吐く。
しかし、本体がどんな見た目をしているのか気になるのは事実だ。人ならざる姿なのか、それともどんな人よりも美しい姿をしているのか……はたまた愛らしい白蛇がいるのか。
「そんなに見たいのか?」
「顔に出てた?」
「分かりやすいほどな」
呆れた目をしながら見上げてそう言った彼女に、私はほっぺを触りながら「見たい」と本音を伝える。
蒼馬も同じなようでコクコクと頷いて見せ、ミワは大きなため息を吐く。
「しょうがない。見せてやる」
「そう来なきゃな! じゃ、付いてこい」
そう言って立ち上がった彼は、僧侶達に何かを用意するよう言いながら屋敷の奥へ向けて歩き出す。
曲がりくねった長い廊下を進んでいくと一つの部屋の前で彼は立ち止まり、機械音が聞こえ始める。
「用意、完了しました」
「お、早えな。じゃ乗ってくぞ」
「乗るって何に――」
尋ねるより先に大国主が襖を開けたことで、山頂まで続くロープウェイの設備が顕となり、私は顔を引き攣らせた。
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