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89話 旧知
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白い蛇たちが当たり前のようにあちらこちらを這っている。
興味津々でじいっと見て来る子もいれば、こちらに全く興味を示さずにトグロを巻く子 もいる。
この前の一件で慣れてしまったらしい蒼馬はちょっと嫌そうな顔をしていれど、特段怖がる素振りを見せない。
疑問が湧いた私は先を歩く彼に一つ尋ねる。
「ここの白蛇たちは何なんですか?」
「大物主様に関連する、とだけ」
短く答えた彼は慣れた様子で獣道のように険しい足場をスイスイと進み、置いて行かれないようその後に続く。
と、ちょっと運動不足なミワが木の根に足を引っ掛けて転びそうになり、咄嗟に私が抱き上げた。
「こ、転びそうになったわけではないが礼を言う」
「素直にお礼が言えるのは偉い」
ちょっと前を歩いていたから良かったが、もしも後ろを歩いていたら派手に転んでいた。
ここからは私がしっかりと抱っこしておくとしよう。
「もう少し、ゆっくり歩いた方が良かったですね。申し訳ありません」
「うむ、我輩は平気だが、この二人は転ぶかもしれない。もっとゆっくり歩け」
「かしこまりました」
ミワが生意気を言うのはいつものことであるかのように微笑んだ彼は、静かに頭を下げると今度はゆっくりと歩き出す。
強面な人が相手でも平気で無礼な言い方をするのはそのうちトラブルを引き起こしそうで少し怖い。
帰ったら言葉遣いについて言わなければならないだろう。
と、何か大きな建物が見えて来る。
「さて、見えてきましたね」
「あんなの衛生写真になかったような……」
蒼馬が呟いたことで私も神社周辺の上空写真を思い出す。
写真では拝殿や三ツ鳥居の先は緑一色で何も見えなかった。ここまで大きな建物があったら絶対に映るはずだ。
と、こちらを振り返った神主はにっこりと笑って。
「ええ、運営会社にここが映らないよう、森しか無いように見せかけてもらっておりますから」
「ハイテクなんですね」
「古き時代に固執していては、大物主様を守れません。必要なら最先端の技術も存分に使わねば、職務怠慢ですから」
大昔のまま時が止まっている印象を抱いていたけれど、どうやらそれは間違いだったらしい。
そんなことを考えながら、金箔などで覆われた豪華で巨大な建物に近付いて行くと、掃除をする僧侶たちの姿が見え始め、こちらに気付くと一礼する。
「さて、ここは本殿です。簡単に言えば、大物主様の豪邸、と言ったところでしょうか」
「凄い……」
「だろう?」
思わず呟いた私にミワがドヤ顔をキメる。
自分で作ったわけでもないだろうにと、思わず苦笑してしまいつつ、屋敷の大きな入り口へと近付く。
「そう言えば、名乗っておりませんでしたね」
そう言ってこちらを振り返った神主は、にっこりと笑みを浮かべる。
「私の名は大国主……そこの大物主と共に国を作った神だ」
「おまっ……!」
ミワが驚いた声を出しながら私の腕からするりと降りる。
一度蛇の姿になって腕の隙間を縫うようにして抜け出し、地に降り立つと人の姿へ戻ると言う何とも器用な動きを見て感心していると、彼女はズカズカと大国主を名乗った彼の元へ寄り。
「なぜ坊主たちの真似事をしておる?」
「ドッキリってヤツよ。ツンデレ蛇が気付くかどうかってな!」
「やかましい」
身に纏う雰囲気がガラッと変わり、親戚の叔父さんとその姿が被って見える。
面倒くさそうな、でもちょこっと嬉しそうな、なんとも言えない表情を浮かべるミワを見ていると、二人はそこそこ仲が良いのだとわかる。
「ってことで、ツンデレちゃんの保護者もあの屋敷に案内してやるよ。山も追い出そうとはしないはずだからな」
「山?」
首を傾げた私たちを機にする様子なく、大国主は屋敷の入り口に手をかけた。
興味津々でじいっと見て来る子もいれば、こちらに全く興味を示さずにトグロを巻く子 もいる。
この前の一件で慣れてしまったらしい蒼馬はちょっと嫌そうな顔をしていれど、特段怖がる素振りを見せない。
疑問が湧いた私は先を歩く彼に一つ尋ねる。
「ここの白蛇たちは何なんですか?」
「大物主様に関連する、とだけ」
短く答えた彼は慣れた様子で獣道のように険しい足場をスイスイと進み、置いて行かれないようその後に続く。
と、ちょっと運動不足なミワが木の根に足を引っ掛けて転びそうになり、咄嗟に私が抱き上げた。
「こ、転びそうになったわけではないが礼を言う」
「素直にお礼が言えるのは偉い」
ちょっと前を歩いていたから良かったが、もしも後ろを歩いていたら派手に転んでいた。
ここからは私がしっかりと抱っこしておくとしよう。
「もう少し、ゆっくり歩いた方が良かったですね。申し訳ありません」
「うむ、我輩は平気だが、この二人は転ぶかもしれない。もっとゆっくり歩け」
「かしこまりました」
ミワが生意気を言うのはいつものことであるかのように微笑んだ彼は、静かに頭を下げると今度はゆっくりと歩き出す。
強面な人が相手でも平気で無礼な言い方をするのはそのうちトラブルを引き起こしそうで少し怖い。
帰ったら言葉遣いについて言わなければならないだろう。
と、何か大きな建物が見えて来る。
「さて、見えてきましたね」
「あんなの衛生写真になかったような……」
蒼馬が呟いたことで私も神社周辺の上空写真を思い出す。
写真では拝殿や三ツ鳥居の先は緑一色で何も見えなかった。ここまで大きな建物があったら絶対に映るはずだ。
と、こちらを振り返った神主はにっこりと笑って。
「ええ、運営会社にここが映らないよう、森しか無いように見せかけてもらっておりますから」
「ハイテクなんですね」
「古き時代に固執していては、大物主様を守れません。必要なら最先端の技術も存分に使わねば、職務怠慢ですから」
大昔のまま時が止まっている印象を抱いていたけれど、どうやらそれは間違いだったらしい。
そんなことを考えながら、金箔などで覆われた豪華で巨大な建物に近付いて行くと、掃除をする僧侶たちの姿が見え始め、こちらに気付くと一礼する。
「さて、ここは本殿です。簡単に言えば、大物主様の豪邸、と言ったところでしょうか」
「凄い……」
「だろう?」
思わず呟いた私にミワがドヤ顔をキメる。
自分で作ったわけでもないだろうにと、思わず苦笑してしまいつつ、屋敷の大きな入り口へと近付く。
「そう言えば、名乗っておりませんでしたね」
そう言ってこちらを振り返った神主は、にっこりと笑みを浮かべる。
「私の名は大国主……そこの大物主と共に国を作った神だ」
「おまっ……!」
ミワが驚いた声を出しながら私の腕からするりと降りる。
一度蛇の姿になって腕の隙間を縫うようにして抜け出し、地に降り立つと人の姿へ戻ると言う何とも器用な動きを見て感心していると、彼女はズカズカと大国主を名乗った彼の元へ寄り。
「なぜ坊主たちの真似事をしておる?」
「ドッキリってヤツよ。ツンデレ蛇が気付くかどうかってな!」
「やかましい」
身に纏う雰囲気がガラッと変わり、親戚の叔父さんとその姿が被って見える。
面倒くさそうな、でもちょこっと嬉しそうな、なんとも言えない表情を浮かべるミワを見ていると、二人はそこそこ仲が良いのだとわかる。
「ってことで、ツンデレちゃんの保護者もあの屋敷に案内してやるよ。山も追い出そうとはしないはずだからな」
「山?」
首を傾げた私たちを機にする様子なく、大国主は屋敷の入り口に手をかけた。
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