96 / 106
89話 旧知
しおりを挟む
白い蛇たちが当たり前のようにあちらこちらを這っている。
興味津々でじいっと見て来る子もいれば、こちらに全く興味を示さずにトグロを巻く子 もいる。
この前の一件で慣れてしまったらしい蒼馬はちょっと嫌そうな顔をしていれど、特段怖がる素振りを見せない。
疑問が湧いた私は先を歩く彼に一つ尋ねる。
「ここの白蛇たちは何なんですか?」
「大物主様に関連する、とだけ」
短く答えた彼は慣れた様子で獣道のように険しい足場をスイスイと進み、置いて行かれないようその後に続く。
と、ちょっと運動不足なミワが木の根に足を引っ掛けて転びそうになり、咄嗟に私が抱き上げた。
「こ、転びそうになったわけではないが礼を言う」
「素直にお礼が言えるのは偉い」
ちょっと前を歩いていたから良かったが、もしも後ろを歩いていたら派手に転んでいた。
ここからは私がしっかりと抱っこしておくとしよう。
「もう少し、ゆっくり歩いた方が良かったですね。申し訳ありません」
「うむ、我輩は平気だが、この二人は転ぶかもしれない。もっとゆっくり歩け」
「かしこまりました」
ミワが生意気を言うのはいつものことであるかのように微笑んだ彼は、静かに頭を下げると今度はゆっくりと歩き出す。
強面な人が相手でも平気で無礼な言い方をするのはそのうちトラブルを引き起こしそうで少し怖い。
帰ったら言葉遣いについて言わなければならないだろう。
と、何か大きな建物が見えて来る。
「さて、見えてきましたね」
「あんなの衛生写真になかったような……」
蒼馬が呟いたことで私も神社周辺の上空写真を思い出す。
写真では拝殿や三ツ鳥居の先は緑一色で何も見えなかった。ここまで大きな建物があったら絶対に映るはずだ。
と、こちらを振り返った神主はにっこりと笑って。
「ええ、運営会社にここが映らないよう、森しか無いように見せかけてもらっておりますから」
「ハイテクなんですね」
「古き時代に固執していては、大物主様を守れません。必要なら最先端の技術も存分に使わねば、職務怠慢ですから」
大昔のまま時が止まっている印象を抱いていたけれど、どうやらそれは間違いだったらしい。
そんなことを考えながら、金箔などで覆われた豪華で巨大な建物に近付いて行くと、掃除をする僧侶たちの姿が見え始め、こちらに気付くと一礼する。
「さて、ここは本殿です。簡単に言えば、大物主様の豪邸、と言ったところでしょうか」
「凄い……」
「だろう?」
思わず呟いた私にミワがドヤ顔をキメる。
自分で作ったわけでもないだろうにと、思わず苦笑してしまいつつ、屋敷の大きな入り口へと近付く。
「そう言えば、名乗っておりませんでしたね」
そう言ってこちらを振り返った神主は、にっこりと笑みを浮かべる。
「私の名は大国主……そこの大物主と共に国を作った神だ」
「おまっ……!」
ミワが驚いた声を出しながら私の腕からするりと降りる。
一度蛇の姿になって腕の隙間を縫うようにして抜け出し、地に降り立つと人の姿へ戻ると言う何とも器用な動きを見て感心していると、彼女はズカズカと大国主を名乗った彼の元へ寄り。
「なぜ坊主たちの真似事をしておる?」
「ドッキリってヤツよ。ツンデレ蛇が気付くかどうかってな!」
「やかましい」
身に纏う雰囲気がガラッと変わり、親戚の叔父さんとその姿が被って見える。
面倒くさそうな、でもちょこっと嬉しそうな、なんとも言えない表情を浮かべるミワを見ていると、二人はそこそこ仲が良いのだとわかる。
「ってことで、ツンデレちゃんの保護者もあの屋敷に案内してやるよ。山も追い出そうとはしないはずだからな」
「山?」
首を傾げた私たちを機にする様子なく、大国主は屋敷の入り口に手をかけた。
興味津々でじいっと見て来る子もいれば、こちらに全く興味を示さずにトグロを巻く子 もいる。
この前の一件で慣れてしまったらしい蒼馬はちょっと嫌そうな顔をしていれど、特段怖がる素振りを見せない。
疑問が湧いた私は先を歩く彼に一つ尋ねる。
「ここの白蛇たちは何なんですか?」
「大物主様に関連する、とだけ」
短く答えた彼は慣れた様子で獣道のように険しい足場をスイスイと進み、置いて行かれないようその後に続く。
と、ちょっと運動不足なミワが木の根に足を引っ掛けて転びそうになり、咄嗟に私が抱き上げた。
「こ、転びそうになったわけではないが礼を言う」
「素直にお礼が言えるのは偉い」
ちょっと前を歩いていたから良かったが、もしも後ろを歩いていたら派手に転んでいた。
ここからは私がしっかりと抱っこしておくとしよう。
「もう少し、ゆっくり歩いた方が良かったですね。申し訳ありません」
「うむ、我輩は平気だが、この二人は転ぶかもしれない。もっとゆっくり歩け」
「かしこまりました」
ミワが生意気を言うのはいつものことであるかのように微笑んだ彼は、静かに頭を下げると今度はゆっくりと歩き出す。
強面な人が相手でも平気で無礼な言い方をするのはそのうちトラブルを引き起こしそうで少し怖い。
帰ったら言葉遣いについて言わなければならないだろう。
と、何か大きな建物が見えて来る。
「さて、見えてきましたね」
「あんなの衛生写真になかったような……」
蒼馬が呟いたことで私も神社周辺の上空写真を思い出す。
写真では拝殿や三ツ鳥居の先は緑一色で何も見えなかった。ここまで大きな建物があったら絶対に映るはずだ。
と、こちらを振り返った神主はにっこりと笑って。
「ええ、運営会社にここが映らないよう、森しか無いように見せかけてもらっておりますから」
「ハイテクなんですね」
「古き時代に固執していては、大物主様を守れません。必要なら最先端の技術も存分に使わねば、職務怠慢ですから」
大昔のまま時が止まっている印象を抱いていたけれど、どうやらそれは間違いだったらしい。
そんなことを考えながら、金箔などで覆われた豪華で巨大な建物に近付いて行くと、掃除をする僧侶たちの姿が見え始め、こちらに気付くと一礼する。
「さて、ここは本殿です。簡単に言えば、大物主様の豪邸、と言ったところでしょうか」
「凄い……」
「だろう?」
思わず呟いた私にミワがドヤ顔をキメる。
自分で作ったわけでもないだろうにと、思わず苦笑してしまいつつ、屋敷の大きな入り口へと近付く。
「そう言えば、名乗っておりませんでしたね」
そう言ってこちらを振り返った神主は、にっこりと笑みを浮かべる。
「私の名は大国主……そこの大物主と共に国を作った神だ」
「おまっ……!」
ミワが驚いた声を出しながら私の腕からするりと降りる。
一度蛇の姿になって腕の隙間を縫うようにして抜け出し、地に降り立つと人の姿へ戻ると言う何とも器用な動きを見て感心していると、彼女はズカズカと大国主を名乗った彼の元へ寄り。
「なぜ坊主たちの真似事をしておる?」
「ドッキリってヤツよ。ツンデレ蛇が気付くかどうかってな!」
「やかましい」
身に纏う雰囲気がガラッと変わり、親戚の叔父さんとその姿が被って見える。
面倒くさそうな、でもちょこっと嬉しそうな、なんとも言えない表情を浮かべるミワを見ていると、二人はそこそこ仲が良いのだとわかる。
「ってことで、ツンデレちゃんの保護者もあの屋敷に案内してやるよ。山も追い出そうとはしないはずだからな」
「山?」
首を傾げた私たちを機にする様子なく、大国主は屋敷の入り口に手をかけた。
23
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる