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88話 参拝
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「それでは、拝殿へ参りましょう。お前たちは祈祷殿と斎庭の掃除をしてきなさい」
静かだけれど不思議と迫力のある返事をした僧侶たちは左側の道へ歩いて行き、残された私たちは神主の後に続いて左に曲がる。
神主はゆったりとした歩き方で拝殿の方へ進み、その後に続いて行くと、大きな建物が徐々に姿を現す。
お爺ちゃんたちの神社と比べるまでも無いほどの差があり、当然と言えば当然ではあるが、ちょっと悔しい思いがある。
と、何か思い出した様子のミワがこちらを向いて。
「八岐大蛇とやらの神社はこのくらいデカかったか?」
「ううん、小さかった。教えたよね?」
「つまり我輩の方が偉大ということだな」
ガハハと笑いやがった生意気な口を閉ざすべく両頬を引っ張る。
おマヌケな顔と共にうぃーと変な声を出す彼女を見て思わず吹き出していると、こちらを振り返った神主が。
「そこまで人間に懐いているところを見るのは初めてですね。一体どのようにしてそこまで仲良くなったのですか?」
「自分の子供のように接しました」
横で「我輩を動物のように言いやがって」と悪態を吐くミワを撫でながら答えると、彼は難しそうな顔をする。
「ふむ……私も我が子のように接したのですが中々好いてもらえなかったのですよ。何が悪いのでしょう?」
「自分の発言を振り返れ」
懐くという言葉を使われるのが嫌なようで、プンスカと怒りを露わにする。
以前にもミワに会っているような口振りをしている辺り、慣れすぎているのが言葉や態度に出てしまっているのが一番の原因だろう。
教えてあげるべきか悩んでいると、いつの間にやら拝殿がすぐそこにあり、周囲からチラチラと視線が向けられている事に気付く。
こんな目立つ格好をしている人が私たちを引き連れるように歩いていたら当然目を向けられるかと思いつつ、階段を上がって賽銭箱の前に立つ。
「お賽銭、御座いますか?」
「僕が出します」
そう言って蒼馬はポケットからお財布をポケットから取り出し、そこから百円玉を三枚手に取って私とミワに渡す。
「んじゃ、やろうか」
「うん」
二礼二拍手一礼をしながら何を祈っておくか考える。
夫婦円満はさっきの岩で願ってしまったし、かと言ってお金の事をミワの神社に頼むのはちょっと嫌だ。
……そうだ。
「むぅ……」
横でミワがちょっと恥ずかしそうな唸り声を上げた事に気付き、顔を上げてそちらを見る。
少し顔を赤くして俯いている彼女は照れているようにも喜んでいるようにも、恥ずかしそうにも見える。
もしかしたら、神様パワーで私が何を祈ったのかバレてしまったのかもしれない。
「ミワ、どうしたの?」
「こっち見るな」
すぐに顔を逸らしてしまったあたり、私の予想は正しそうだ。
やはり、自分のことを祈ってもらえるのは、神様であっても喜ばしいようだ。
ーーもっとも、私はこの子を神様として見たことはほとんどないのだけど。
「では、お参りはお済みのようですので、三ツ鳥居へ参りましょうか」
そう言って先を歩き出した彼の後に続く。
前以ってこの神社について調べているけど、確か三ツ鳥居の先は禁足地だったはずだ。
もしや、その先はミワに纏わる重要なことが書かれているのかもしれない。
「あの、質問良いですか?」
「何でしょう?」
「ミワの正式な名前をウェブで検索したのですが、何一つヒットしなかったんですよ。この子も隠匿されてるんですか?」
「ええ、生ける神はどこでも隠しますよ。害を加えようとする罰当たりな畜生がたくさんいますから」
にこやかな笑みを浮かべていて口調も穏やかなのに、奥底では怒りを感じられて、村で聞いた襲撃事件の話を思い出す。
この子も昔、ロクデナシから命を狙われるような事があったのかもしれない。
「怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません。色々ありましたもので」
蒼馬の方へ目が向けられていることに気付いてチラと目を向ければ、私の斜め後ろに隠れる彼の姿があった。
可愛いような、残念なような、何とも言えない感情が湧き立ちながら背中を摩ってあげると、気恥ずかしそうに隣へ戻る。
「ビビリめ」
「うっせ」
デジャブを感じる会話を聞いている間に、三つの鳥居が合体したかのような、大きな鳥居が見えて来る。
その先は禁足地とされているだけあって格子状の柵が張られていて、大きな南京錠まで掛けられている。
と、少し怖がった様子の蒼馬は私の手を握りながら神主に尋ねる。
「この先にはいるんですか?」
「ええ、入ります。本来、人間が入ってしまえば肉体と魂が引き剥がされると言われていますが……妖の血を持ってる皆様なら大丈夫でしょう」
「やっぱり分かります?」
「ええ、長く生きてると一目で分かるものですね。特に八岐大蛇は力が大きいですから、とても分かりやすい」
社長や妖の血を持ってる人たちでも見抜けなかったのに、なぜこの人は私が八岐大蛇だと分かったのだろう。
やはり、この人も妖の血を受け継いでいるか、或いは神に近しい何かなのだろうか。
「さて、驚かすのはこのくらいにして、この先に行きましょうか。足場が悪いですからご注意を」
「は、はい」
私が返事をすると、神主は懐から歪な鍵を取り出し開錠する。
後ろの方でガヤガヤと騒ぐような声が聞こえ始める中、格子状の扉が開き、私は禁足地に足を踏み込んだ。
静かだけれど不思議と迫力のある返事をした僧侶たちは左側の道へ歩いて行き、残された私たちは神主の後に続いて左に曲がる。
神主はゆったりとした歩き方で拝殿の方へ進み、その後に続いて行くと、大きな建物が徐々に姿を現す。
お爺ちゃんたちの神社と比べるまでも無いほどの差があり、当然と言えば当然ではあるが、ちょっと悔しい思いがある。
と、何か思い出した様子のミワがこちらを向いて。
「八岐大蛇とやらの神社はこのくらいデカかったか?」
「ううん、小さかった。教えたよね?」
「つまり我輩の方が偉大ということだな」
ガハハと笑いやがった生意気な口を閉ざすべく両頬を引っ張る。
おマヌケな顔と共にうぃーと変な声を出す彼女を見て思わず吹き出していると、こちらを振り返った神主が。
「そこまで人間に懐いているところを見るのは初めてですね。一体どのようにしてそこまで仲良くなったのですか?」
「自分の子供のように接しました」
横で「我輩を動物のように言いやがって」と悪態を吐くミワを撫でながら答えると、彼は難しそうな顔をする。
「ふむ……私も我が子のように接したのですが中々好いてもらえなかったのですよ。何が悪いのでしょう?」
「自分の発言を振り返れ」
懐くという言葉を使われるのが嫌なようで、プンスカと怒りを露わにする。
以前にもミワに会っているような口振りをしている辺り、慣れすぎているのが言葉や態度に出てしまっているのが一番の原因だろう。
教えてあげるべきか悩んでいると、いつの間にやら拝殿がすぐそこにあり、周囲からチラチラと視線が向けられている事に気付く。
こんな目立つ格好をしている人が私たちを引き連れるように歩いていたら当然目を向けられるかと思いつつ、階段を上がって賽銭箱の前に立つ。
「お賽銭、御座いますか?」
「僕が出します」
そう言って蒼馬はポケットからお財布をポケットから取り出し、そこから百円玉を三枚手に取って私とミワに渡す。
「んじゃ、やろうか」
「うん」
二礼二拍手一礼をしながら何を祈っておくか考える。
夫婦円満はさっきの岩で願ってしまったし、かと言ってお金の事をミワの神社に頼むのはちょっと嫌だ。
……そうだ。
「むぅ……」
横でミワがちょっと恥ずかしそうな唸り声を上げた事に気付き、顔を上げてそちらを見る。
少し顔を赤くして俯いている彼女は照れているようにも喜んでいるようにも、恥ずかしそうにも見える。
もしかしたら、神様パワーで私が何を祈ったのかバレてしまったのかもしれない。
「ミワ、どうしたの?」
「こっち見るな」
すぐに顔を逸らしてしまったあたり、私の予想は正しそうだ。
やはり、自分のことを祈ってもらえるのは、神様であっても喜ばしいようだ。
ーーもっとも、私はこの子を神様として見たことはほとんどないのだけど。
「では、お参りはお済みのようですので、三ツ鳥居へ参りましょうか」
そう言って先を歩き出した彼の後に続く。
前以ってこの神社について調べているけど、確か三ツ鳥居の先は禁足地だったはずだ。
もしや、その先はミワに纏わる重要なことが書かれているのかもしれない。
「あの、質問良いですか?」
「何でしょう?」
「ミワの正式な名前をウェブで検索したのですが、何一つヒットしなかったんですよ。この子も隠匿されてるんですか?」
「ええ、生ける神はどこでも隠しますよ。害を加えようとする罰当たりな畜生がたくさんいますから」
にこやかな笑みを浮かべていて口調も穏やかなのに、奥底では怒りを感じられて、村で聞いた襲撃事件の話を思い出す。
この子も昔、ロクデナシから命を狙われるような事があったのかもしれない。
「怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません。色々ありましたもので」
蒼馬の方へ目が向けられていることに気付いてチラと目を向ければ、私の斜め後ろに隠れる彼の姿があった。
可愛いような、残念なような、何とも言えない感情が湧き立ちながら背中を摩ってあげると、気恥ずかしそうに隣へ戻る。
「ビビリめ」
「うっせ」
デジャブを感じる会話を聞いている間に、三つの鳥居が合体したかのような、大きな鳥居が見えて来る。
その先は禁足地とされているだけあって格子状の柵が張られていて、大きな南京錠まで掛けられている。
と、少し怖がった様子の蒼馬は私の手を握りながら神主に尋ねる。
「この先にはいるんですか?」
「ええ、入ります。本来、人間が入ってしまえば肉体と魂が引き剥がされると言われていますが……妖の血を持ってる皆様なら大丈夫でしょう」
「やっぱり分かります?」
「ええ、長く生きてると一目で分かるものですね。特に八岐大蛇は力が大きいですから、とても分かりやすい」
社長や妖の血を持ってる人たちでも見抜けなかったのに、なぜこの人は私が八岐大蛇だと分かったのだろう。
やはり、この人も妖の血を受け継いでいるか、或いは神に近しい何かなのだろうか。
「さて、驚かすのはこのくらいにして、この先に行きましょうか。足場が悪いですからご注意を」
「は、はい」
私が返事をすると、神主は懐から歪な鍵を取り出し開錠する。
後ろの方でガヤガヤと騒ぐような声が聞こえ始める中、格子状の扉が開き、私は禁足地に足を踏み込んだ。
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