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87話
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ミワを抱っこしたまま三輪駅から出て、静かな住宅街の道をスマホ頼りに進む。
ほっぺをふにふにと触ってみると、気持ち良いのかちょっとだけ笑みを浮かべ、嫌がる素振りをしているだけで本当は喜んでいるのではと勘繰ってしまう。
蒼馬も興味があるのかチラチラとこちらを見ていることに気付き、私は触りやすいようにそちらへ近付けながら。
「起こさないように、そっとね」
「おう……こいつ、眠ってりゃ天使なのにな」
ほっぺを指で優しく撫でながらそんな軽口を叩く。
何故かは分からないが、ミワはいつでも蒼馬に対してだけ反抗的だ。父親を嫌うお年頃なのかもしれない。
そんなことを考えていると木々が生い茂り、和風の建築物が並ぶ道が見えて来た。
「何でこんな大量に旗立ってんだ?」
「講社崇敬会大祭って書いてあるし、何か祭りごとでもしてるんじゃないかな?」
「むぅ?」
私たちの声で起こしてしまったらしく、ミワが変な声を上げながら周囲をキョロキョロと見回す。
何となく察した様子ながら、現実を受け止めたくないような顔をしてこちらを見ると。
「ここはどこだ?」
「神社のすぐ近くだよ」
「な、なぜ起こさない?」
「幸せそうに寝てたし、起こすのかわいそうかなって」
「ぐぬぬ……」
悔しそうな声を出した彼女はひょいと私の腕から抜け出し、体を伸ばすと歩き出す。
道はある程度分かっていそうなその様子を見て後に付いて歩こうとすると、正面から数人の僧侶らしき人たちがこちらへ歩いて来る事に気付く。
邪魔にならないよう端に寄るが、彼らは鏡のように動きを真似て、私たちと相対することになった。
「な、何かご用でしょうか?」
流石に僧侶の集団は恐いらしく、蒼馬は少し声を震わせながら問いを発する。
菅笠で全員の顔が隠れているため表情一つ読み取れず、不気味な雰囲気が彼らの間を漂っている。
「喧嘩を売っておるのか?」
「滅相も御座いません」
ミワの不快そうな声が掛かると、僧侶たちの間からガタイの良い強面の男が現れた。
彼だけ菅笠を被っておらず、そして身なりが良い事から彼らの中ではリーダーのような存在であると察する。
しかし、そんな見た目とは裏腹に、彼は可愛い者を見る目をミワに注いでいて、悪い人ではなさそうだ。
「お待ちしておりました、大物主様。お付きの方もご一緒に歓迎致します」
「ど、どうも。神主さんですか?」
「違いますが……大体そんな感じに思って頂いて結構です」
苦笑を浮かべた彼は付いて来るように言って神社の方へ歩き出す。
沢山の人達から視線を浴びながら二の鳥居をくぐり、真っすぐに続く参道を進む。
誰一人として口を開かないため私たちの足音と葉音、そして他の客の声だけが聞こえる。
「ミワはあの人分かるの?」
「……見覚えはある」
「あの人も神様だったりする?」
「知らん」
偉そうな口調でそんなことを言ったミワのほっぺを指でフニフニしていると、数人の僧侶がこちらを振り返る。
すぐに前を向いてしまったが、一瞬だけ口元が笑っていたのは見えていて、彼らもまた恐い人というわけでは無いと知る。
「ミワは人気者だね」
「我輩は国を作った神なのだぞ。八百万の信徒がいて当然だろう?」
「大物主様は変わらず可愛らしいですね」
「貴様が言うと気色悪い」
私の後ろに隠れながら嫌悪感を露にするミワを優しく撫でる。
チラと神主を見ると彼は寂しそうな笑みを浮かべて前を向き、その姿は反抗期の私に酷いことを言われた時の父にそっくりである。
何となく同情していると、何かの鳥居が見え始める。
「あちらにあるのは夫婦岩です。夫婦円満のご利益がありますが、行きますか?」
「行きます」
蒼馬が即答した。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じる中、ガハハと鬼塚社長のように笑いながら、先を歩いて行く彼の後に続くと、木の柵で囲まれた二つの岩が姿を現す。
夫婦が寄り添っているように見えるそれの名の由来を察しつつ、蒼馬と並んで岩を拝む。
「末永くお幸せに」
「どうも」
蒼馬がどこか嬉しそうに返事をすると、まるで見せつけるかのように私の手を握る。
私を照れ殺しにするつもりなのだろうか?
ほっぺをふにふにと触ってみると、気持ち良いのかちょっとだけ笑みを浮かべ、嫌がる素振りをしているだけで本当は喜んでいるのではと勘繰ってしまう。
蒼馬も興味があるのかチラチラとこちらを見ていることに気付き、私は触りやすいようにそちらへ近付けながら。
「起こさないように、そっとね」
「おう……こいつ、眠ってりゃ天使なのにな」
ほっぺを指で優しく撫でながらそんな軽口を叩く。
何故かは分からないが、ミワはいつでも蒼馬に対してだけ反抗的だ。父親を嫌うお年頃なのかもしれない。
そんなことを考えていると木々が生い茂り、和風の建築物が並ぶ道が見えて来た。
「何でこんな大量に旗立ってんだ?」
「講社崇敬会大祭って書いてあるし、何か祭りごとでもしてるんじゃないかな?」
「むぅ?」
私たちの声で起こしてしまったらしく、ミワが変な声を上げながら周囲をキョロキョロと見回す。
何となく察した様子ながら、現実を受け止めたくないような顔をしてこちらを見ると。
「ここはどこだ?」
「神社のすぐ近くだよ」
「な、なぜ起こさない?」
「幸せそうに寝てたし、起こすのかわいそうかなって」
「ぐぬぬ……」
悔しそうな声を出した彼女はひょいと私の腕から抜け出し、体を伸ばすと歩き出す。
道はある程度分かっていそうなその様子を見て後に付いて歩こうとすると、正面から数人の僧侶らしき人たちがこちらへ歩いて来る事に気付く。
邪魔にならないよう端に寄るが、彼らは鏡のように動きを真似て、私たちと相対することになった。
「な、何かご用でしょうか?」
流石に僧侶の集団は恐いらしく、蒼馬は少し声を震わせながら問いを発する。
菅笠で全員の顔が隠れているため表情一つ読み取れず、不気味な雰囲気が彼らの間を漂っている。
「喧嘩を売っておるのか?」
「滅相も御座いません」
ミワの不快そうな声が掛かると、僧侶たちの間からガタイの良い強面の男が現れた。
彼だけ菅笠を被っておらず、そして身なりが良い事から彼らの中ではリーダーのような存在であると察する。
しかし、そんな見た目とは裏腹に、彼は可愛い者を見る目をミワに注いでいて、悪い人ではなさそうだ。
「お待ちしておりました、大物主様。お付きの方もご一緒に歓迎致します」
「ど、どうも。神主さんですか?」
「違いますが……大体そんな感じに思って頂いて結構です」
苦笑を浮かべた彼は付いて来るように言って神社の方へ歩き出す。
沢山の人達から視線を浴びながら二の鳥居をくぐり、真っすぐに続く参道を進む。
誰一人として口を開かないため私たちの足音と葉音、そして他の客の声だけが聞こえる。
「ミワはあの人分かるの?」
「……見覚えはある」
「あの人も神様だったりする?」
「知らん」
偉そうな口調でそんなことを言ったミワのほっぺを指でフニフニしていると、数人の僧侶がこちらを振り返る。
すぐに前を向いてしまったが、一瞬だけ口元が笑っていたのは見えていて、彼らもまた恐い人というわけでは無いと知る。
「ミワは人気者だね」
「我輩は国を作った神なのだぞ。八百万の信徒がいて当然だろう?」
「大物主様は変わらず可愛らしいですね」
「貴様が言うと気色悪い」
私の後ろに隠れながら嫌悪感を露にするミワを優しく撫でる。
チラと神主を見ると彼は寂しそうな笑みを浮かべて前を向き、その姿は反抗期の私に酷いことを言われた時の父にそっくりである。
何となく同情していると、何かの鳥居が見え始める。
「あちらにあるのは夫婦岩です。夫婦円満のご利益がありますが、行きますか?」
「行きます」
蒼馬が即答した。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じる中、ガハハと鬼塚社長のように笑いながら、先を歩いて行く彼の後に続くと、木の柵で囲まれた二つの岩が姿を現す。
夫婦が寄り添っているように見えるそれの名の由来を察しつつ、蒼馬と並んで岩を拝む。
「末永くお幸せに」
「どうも」
蒼馬がどこか嬉しそうに返事をすると、まるで見せつけるかのように私の手を握る。
私を照れ殺しにするつもりなのだろうか?
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