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86話 移動
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「飛んでおる! 飛んでおるぞ!」
「静かにしなさい」
窓際の席でやんや騒ぐお子ちゃまに笑ってしまいながら注意する。
神は空を飛んだくらいじゃ驚かないと鷹を括っていたのにこれである。
周囲の乗客が笑っていることに気付いて少し恥ずかしく感じていると、蒼馬がちょこっと顔を青くしてることに気付く。
「具合悪い?」
「飛び上がる時のGが苦手なんだよ……」
飛行機で行くと決まった時、蒼馬が夜行バスにしようぜと進めて来た。
しかし、社長がミワに飛行機に乗る経験を積ませてやったらどうだと言われてしょんぼりと諦めていた。
あれはそういうことだったらしい。
「か弱い男め。猫又の名が泣くぞ」
「うっせ」
ミワの言葉に蒼馬はちょっとだけ悔しそうに言い返す。
普段揶揄われている分、ここでやり返したいのだろうと察しながら、私は空港で買った本を取り出す。
と、ミワはさっき機内モードに設定した端末を取り出して絵を描き始める。
チラリと覗き込んでみれば、和風と洋風を組み合わせたようなテイストの絵があり、コンテストにでも出したら一発で優勝してしまいそうだ。
「私たちが仕事してる間に練習してたの?」
「家でも鬼の元でも暇だったからな。この玩具の分は絵で返してやる」
「お金のことは気にしなくていいのに」
「吾輩は気になる」
そう言いながら慣れた手つきでタッチペンを動かす彼女を見ていると、大物の絵描きになりそうな雰囲気がある。
将来、この子が一体どんな絵を描くようになるのだろうと色々興味が湧き上がる。
「桂里奈、もしも吐いた時はそっと背中をさすってくれ……」
「その絶望的な話し方なんとかならない?」
二日前に風邪を引いた時もこんな感じだったなと思い出しながら、私は本を片手に背を摩る。
この様子だとあんまりゆっくりと読書は出来なさそうだと、買ったばかりの本を閉じながら考えた。
そんなこんなで空港に到着した頃には蒼馬はだいぶ落ち着きを取り戻し、ミワは和服姿の私を書き上げてくれた。
まっすぐに駅へと向かうとまばらに人が並ぶ構内に出て、あまり人が並んでいない場所を選んでそこに並ぶ。
「タクシー使えたら良かったのにな」
「飛行機使わせてもらってるんだから文句は言えないでしょ」
「まあな。夜行バスだと九時間掛かったっぽいし」
「ホテルついたらお礼言わないとね」
安くて手軽に済む夜行バスの方を選ぶのが普通だろうに、わざわざ飛行機のチケットを予約してくれるとは中々のホワイトぶりな気がする。
それとも、どこぞの破産した会社がブラックすぎただけで、これが普通なのだろうか。
「お、来たな」
「ほんとだね」
呟いた蒼馬に返事をしながらそちらを向く。
ミワは電車を見るのも乗るのも初めてなことに気付いて見やると、目をキラキラさせてホームに入ろうとする電車を見つめていた。
「興味津々?」
「うむ。あれはこの新型の汽車か?」
「まあ、そんな感じ。でも汽車とは違って電気で動いてるの」
「電気とは万能だな」
感心した様子でミワがそう言うのと同時、電車の扉が開き、前に並んでいた人に続いて中へ乗り込む。
丁度三人で座れる席があり、ミワを真ん中にして座る。
「内装はかなり変わっているのだな」
「ミワが見たのはどんな感じだったの?」
「二人掛けの席が前向きに並んでいた」
「って言うと、大正とかか?」
「大正……だった気がする」
年号の記憶もやっぱり曖昧なようで、思い出そうとする素振りを見せながらそう呟く。
暇つぶしにふっくらとしたほっぺをムニムニと触って遊びつつ、のんびりと窓に映し出される大海原を眺める。
「吾輩が知らぬ間に、人間の暮らしは発達したのだな」
「お爺ちゃんみたいなこと言わないの」
ほっぺを指でつつきながらそう言うと、ミワは頬を膨らませて抵抗した。
と、蒼馬が疑問を抱いた様子で。
「ミワって何歳……いや、覚えてないか」
「馬鹿にしているのか?」
「覚えてるの?」
「……数えていないだけだ。最低でも二千年だな」
お爺ちゃんたちもそのくらいだったようだし、もしかして同年代だったりするのだろうか。
この子は覚えていないだけで過去に関わりがあったりしたのかもしれないと興味を抱いていると、乗り換えの駅に到着した。
「はい、ここで一回降りるよー」
「わかった」
短く答えた彼女は座席から降りると、私と手を繋いで一緒に下車する。
入れ替わるように他の乗客たちが乗り込むのを横目に、スマホの案内図を頼りに構内を進み、奈良行きの電車に乗り込む。
「そろそろか?」
「まだ一時間くらい掛かるね。眠かったら寝てて良いよ?」
「吾輩のことを調べるためにわざわざ来ているのに寝るわけにはいかん」
目をきらりと輝かせて高らかに言い放ったミワだったが、二十分も経たぬ内にすやぴーと寝息を立てた。
「静かにしなさい」
窓際の席でやんや騒ぐお子ちゃまに笑ってしまいながら注意する。
神は空を飛んだくらいじゃ驚かないと鷹を括っていたのにこれである。
周囲の乗客が笑っていることに気付いて少し恥ずかしく感じていると、蒼馬がちょこっと顔を青くしてることに気付く。
「具合悪い?」
「飛び上がる時のGが苦手なんだよ……」
飛行機で行くと決まった時、蒼馬が夜行バスにしようぜと進めて来た。
しかし、社長がミワに飛行機に乗る経験を積ませてやったらどうだと言われてしょんぼりと諦めていた。
あれはそういうことだったらしい。
「か弱い男め。猫又の名が泣くぞ」
「うっせ」
ミワの言葉に蒼馬はちょっとだけ悔しそうに言い返す。
普段揶揄われている分、ここでやり返したいのだろうと察しながら、私は空港で買った本を取り出す。
と、ミワはさっき機内モードに設定した端末を取り出して絵を描き始める。
チラリと覗き込んでみれば、和風と洋風を組み合わせたようなテイストの絵があり、コンテストにでも出したら一発で優勝してしまいそうだ。
「私たちが仕事してる間に練習してたの?」
「家でも鬼の元でも暇だったからな。この玩具の分は絵で返してやる」
「お金のことは気にしなくていいのに」
「吾輩は気になる」
そう言いながら慣れた手つきでタッチペンを動かす彼女を見ていると、大物の絵描きになりそうな雰囲気がある。
将来、この子が一体どんな絵を描くようになるのだろうと色々興味が湧き上がる。
「桂里奈、もしも吐いた時はそっと背中をさすってくれ……」
「その絶望的な話し方なんとかならない?」
二日前に風邪を引いた時もこんな感じだったなと思い出しながら、私は本を片手に背を摩る。
この様子だとあんまりゆっくりと読書は出来なさそうだと、買ったばかりの本を閉じながら考えた。
そんなこんなで空港に到着した頃には蒼馬はだいぶ落ち着きを取り戻し、ミワは和服姿の私を書き上げてくれた。
まっすぐに駅へと向かうとまばらに人が並ぶ構内に出て、あまり人が並んでいない場所を選んでそこに並ぶ。
「タクシー使えたら良かったのにな」
「飛行機使わせてもらってるんだから文句は言えないでしょ」
「まあな。夜行バスだと九時間掛かったっぽいし」
「ホテルついたらお礼言わないとね」
安くて手軽に済む夜行バスの方を選ぶのが普通だろうに、わざわざ飛行機のチケットを予約してくれるとは中々のホワイトぶりな気がする。
それとも、どこぞの破産した会社がブラックすぎただけで、これが普通なのだろうか。
「お、来たな」
「ほんとだね」
呟いた蒼馬に返事をしながらそちらを向く。
ミワは電車を見るのも乗るのも初めてなことに気付いて見やると、目をキラキラさせてホームに入ろうとする電車を見つめていた。
「興味津々?」
「うむ。あれはこの新型の汽車か?」
「まあ、そんな感じ。でも汽車とは違って電気で動いてるの」
「電気とは万能だな」
感心した様子でミワがそう言うのと同時、電車の扉が開き、前に並んでいた人に続いて中へ乗り込む。
丁度三人で座れる席があり、ミワを真ん中にして座る。
「内装はかなり変わっているのだな」
「ミワが見たのはどんな感じだったの?」
「二人掛けの席が前向きに並んでいた」
「って言うと、大正とかか?」
「大正……だった気がする」
年号の記憶もやっぱり曖昧なようで、思い出そうとする素振りを見せながらそう呟く。
暇つぶしにふっくらとしたほっぺをムニムニと触って遊びつつ、のんびりと窓に映し出される大海原を眺める。
「吾輩が知らぬ間に、人間の暮らしは発達したのだな」
「お爺ちゃんみたいなこと言わないの」
ほっぺを指でつつきながらそう言うと、ミワは頬を膨らませて抵抗した。
と、蒼馬が疑問を抱いた様子で。
「ミワって何歳……いや、覚えてないか」
「馬鹿にしているのか?」
「覚えてるの?」
「……数えていないだけだ。最低でも二千年だな」
お爺ちゃんたちもそのくらいだったようだし、もしかして同年代だったりするのだろうか。
この子は覚えていないだけで過去に関わりがあったりしたのかもしれないと興味を抱いていると、乗り換えの駅に到着した。
「はい、ここで一回降りるよー」
「わかった」
短く答えた彼女は座席から降りると、私と手を繋いで一緒に下車する。
入れ替わるように他の乗客たちが乗り込むのを横目に、スマホの案内図を頼りに構内を進み、奈良行きの電車に乗り込む。
「そろそろか?」
「まだ一時間くらい掛かるね。眠かったら寝てて良いよ?」
「吾輩のことを調べるためにわざわざ来ているのに寝るわけにはいかん」
目をきらりと輝かせて高らかに言い放ったミワだったが、二十分も経たぬ内にすやぴーと寝息を立てた。
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