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76話 来た意味

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「殺しただけでは飽き足らず、死体を斬りつけるだなんてと怒った七人の娘たちはスサノオをボコボコに殴り付けました。ずっと八岐大蛇の元にいたため、その力は常人を優に上回るものだったようです」

 ユイの言葉通り映像の方では首を掴んで持ち上げるというアニメのような芸当を見せつけていて、もはやどちらが化け物なのか分からない。
 本当にこんな状態だったのだろうかと膝上に目を向ければ、寅吉が視線に気付いたようで私を見上げる。

「途中から見たがこうなってたぞ。あの爺さんと婆さんも腰抜かしてたな」

「えぇ……」

 ガハハと楽しそうに笑った彼の言葉に、イメージ図ではなく事実だった驚きで乾いた笑いが出る。
 
「勝てないと見たスサノオは天叢雲剣とクシナダヒメの返却を条件に許しを受けて逃げて行きました。そうして死んでしまった夫たちを前に悲しんでいた彼女たちの元に、小さくなってしまった八岐大蛇が現れたのです」

 そのセリフと共に画面の方ではすっかり小さくなってしまった可愛らしい八岐大蛇の姿があり、何となく膝上の八つの頭を撫でる。
 
「辛うじて生きていた肉片から蘇生することは出来たものの、力のほとんどを失ってしまった八岐大蛇でしたが、村人たちの誤解を解くことには成功し、水の神として信仰されるようになりました。現在は他所の人間に見つかってしまわないよう、信仰はひっそりと行われています」

 その台詞と共にスクリーンは「終わり」の文字を映し、私と猫田さんはパチパチと拍手する。
 機械音と共に映像を映していた布は巻き上げられ、結衣が後ろから現れる。

「とまあ、こんな感じです。映像はまだ作りかけなので紙芝居風だったり、アニメ風だったりしてて落ち着きが無くて申し訳無いです」

「いえ、だいたいこの子たちのことが分かったので大丈夫です」

 そう言いながら八岐大蛇の背中を撫でて見せると、彼女は少し安心したように笑った。
 と、猫田さんが一つ疑問を持った様子で手を挙げる。

「八岐大蛇について会社に報告しようと思ってるんですが大丈夫ですか?」

「この情報をその会社が何に利用するかにもよります。もし雑誌のような形で広げられてしまうと色々面倒なんです」

「何に利用するのかは分かりませんが、少なくともそれを広めるためでは無いと思います。話では社長の趣味だと聞いています」

「趣味、ですか……ちょっと私の一存では決められないですね。先祖に迷惑をかけたくないからと苗字を変えてる家系もあるくらいですし……」

 私の苗字が深川で先祖とほとんど関係が無いのはそういう事だったのだろう。先祖がとても悪い事をしたから苗字を変えたのではと少し怖かったけど、そんな優しい理由なら安心だ。
 一人安心していると結衣は考える素振りを見せ、どこかへ電話をかけながら寺を出た。
 どうやら誰か偉い人に話して許可を取ろうとしているようで、全部やってもらっている申し訳なさから何かしたいという思いが湧き上がる。
 と、左から二番目の頭の勝介しょうすけが私の雰囲気から察した様子でケラケラと笑って。

「そんなにウズウズしてどうした。足が痺れたか?」

「足は大丈夫だけど……何から何までやってもらっちゃって申し訳ないなと思って」

「時々やって来る子どもたちに私たちの事を教えて、必要ならここを管理している者に話を聞く。それがあの子の仕事だから気にする事は無いよ」

 そう言って微笑んだ一番右側の頭の頼直よりなおは撫でて欲しそうに顔を近付ける。
 一先ずもちもちなほっぺを撫でて構っていると、猫田さんも恐る恐るといった様子で寅吉のほっぺを指で揉む。

「おお、すげえ」

「良い事を教えてやろう。猫は俺たちの好物だ」

「……失礼しました」

「もっと撫でろという意味だ。気にせず撫でとけ」

 左から三番目、喜一きいちは顔を少し青くした猫田さんにそう声を掛け、他の頭たちが楽しそうに笑う。
 ほんわかとした雰囲気が漂っていると、結衣が電話を片手に戻って来て、猫田さんに差し出す。

「どこの会社か教えて欲しいそうです。どんな会社か調べて大丈夫そうであれば、お爺ちゃんが直接伝えるそうです」

「そんなにしてもらっちゃって良いの?」

「まあ、それが私たちの仕事ですから」

 にっこり笑った彼女に私と猫田さんも笑い返す。
 しかし、私たちの心の中では「来た意味、あまり無かったのでは?」と小さな疑問が湧き上がっていた。
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