83 / 106
76話 来た意味
しおりを挟む
「殺しただけでは飽き足らず、死体を斬りつけるだなんてと怒った七人の娘たちはスサノオをボコボコに殴り付けました。ずっと八岐大蛇の元にいたため、その力は常人を優に上回るものだったようです」
ユイの言葉通り映像の方では首を掴んで持ち上げるというアニメのような芸当を見せつけていて、もはやどちらが化け物なのか分からない。
本当にこんな状態だったのだろうかと膝上に目を向ければ、寅吉が視線に気付いたようで私を見上げる。
「途中から見たがこうなってたぞ。あの爺さんと婆さんも腰抜かしてたな」
「えぇ……」
ガハハと楽しそうに笑った彼の言葉に、イメージ図ではなく事実だった驚きで乾いた笑いが出る。
「勝てないと見たスサノオは天叢雲剣とクシナダヒメの返却を条件に許しを受けて逃げて行きました。そうして死んでしまった夫たちを前に悲しんでいた彼女たちの元に、小さくなってしまった八岐大蛇が現れたのです」
そのセリフと共に画面の方ではすっかり小さくなってしまった可愛らしい八岐大蛇の姿があり、何となく膝上の八つの頭を撫でる。
「辛うじて生きていた肉片から蘇生することは出来たものの、力のほとんどを失ってしまった八岐大蛇でしたが、村人たちの誤解を解くことには成功し、水の神として信仰されるようになりました。現在は他所の人間に見つかってしまわないよう、信仰はひっそりと行われています」
その台詞と共にスクリーンは「終わり」の文字を映し、私と猫田さんはパチパチと拍手する。
機械音と共に映像を映していた布は巻き上げられ、結衣が後ろから現れる。
「とまあ、こんな感じです。映像はまだ作りかけなので紙芝居風だったり、アニメ風だったりしてて落ち着きが無くて申し訳無いです」
「いえ、だいたいこの子たちのことが分かったので大丈夫です」
そう言いながら八岐大蛇の背中を撫でて見せると、彼女は少し安心したように笑った。
と、猫田さんが一つ疑問を持った様子で手を挙げる。
「八岐大蛇について会社に報告しようと思ってるんですが大丈夫ですか?」
「この情報をその会社が何に利用するかにもよります。もし雑誌のような形で広げられてしまうと色々面倒なんです」
「何に利用するのかは分かりませんが、少なくともそれを広めるためでは無いと思います。話では社長の趣味だと聞いています」
「趣味、ですか……ちょっと私の一存では決められないですね。先祖に迷惑をかけたくないからと苗字を変えてる家系もあるくらいですし……」
私の苗字が深川で先祖とほとんど関係が無いのはそういう事だったのだろう。先祖がとても悪い事をしたから苗字を変えたのではと少し怖かったけど、そんな優しい理由なら安心だ。
一人安心していると結衣は考える素振りを見せ、どこかへ電話をかけながら寺を出た。
どうやら誰か偉い人に話して許可を取ろうとしているようで、全部やってもらっている申し訳なさから何かしたいという思いが湧き上がる。
と、左から二番目の頭の勝介が私の雰囲気から察した様子でケラケラと笑って。
「そんなにウズウズしてどうした。足が痺れたか?」
「足は大丈夫だけど……何から何までやってもらっちゃって申し訳ないなと思って」
「時々やって来る子どもたちに私たちの事を教えて、必要ならここを管理している者に話を聞く。それがあの子の仕事だから気にする事は無いよ」
そう言って微笑んだ一番右側の頭の頼直は撫でて欲しそうに顔を近付ける。
一先ずもちもちなほっぺを撫でて構っていると、猫田さんも恐る恐るといった様子で寅吉のほっぺを指で揉む。
「おお、すげえ」
「良い事を教えてやろう。猫は俺たちの好物だ」
「……失礼しました」
「もっと撫でろという意味だ。気にせず撫でとけ」
左から三番目、喜一は顔を少し青くした猫田さんにそう声を掛け、他の頭たちが楽しそうに笑う。
ほんわかとした雰囲気が漂っていると、結衣が電話を片手に戻って来て、猫田さんに差し出す。
「どこの会社か教えて欲しいそうです。どんな会社か調べて大丈夫そうであれば、お爺ちゃんが直接伝えるそうです」
「そんなにしてもらっちゃって良いの?」
「まあ、それが私たちの仕事ですから」
にっこり笑った彼女に私と猫田さんも笑い返す。
しかし、私たちの心の中では「来た意味、あまり無かったのでは?」と小さな疑問が湧き上がっていた。
ユイの言葉通り映像の方では首を掴んで持ち上げるというアニメのような芸当を見せつけていて、もはやどちらが化け物なのか分からない。
本当にこんな状態だったのだろうかと膝上に目を向ければ、寅吉が視線に気付いたようで私を見上げる。
「途中から見たがこうなってたぞ。あの爺さんと婆さんも腰抜かしてたな」
「えぇ……」
ガハハと楽しそうに笑った彼の言葉に、イメージ図ではなく事実だった驚きで乾いた笑いが出る。
「勝てないと見たスサノオは天叢雲剣とクシナダヒメの返却を条件に許しを受けて逃げて行きました。そうして死んでしまった夫たちを前に悲しんでいた彼女たちの元に、小さくなってしまった八岐大蛇が現れたのです」
そのセリフと共に画面の方ではすっかり小さくなってしまった可愛らしい八岐大蛇の姿があり、何となく膝上の八つの頭を撫でる。
「辛うじて生きていた肉片から蘇生することは出来たものの、力のほとんどを失ってしまった八岐大蛇でしたが、村人たちの誤解を解くことには成功し、水の神として信仰されるようになりました。現在は他所の人間に見つかってしまわないよう、信仰はひっそりと行われています」
その台詞と共にスクリーンは「終わり」の文字を映し、私と猫田さんはパチパチと拍手する。
機械音と共に映像を映していた布は巻き上げられ、結衣が後ろから現れる。
「とまあ、こんな感じです。映像はまだ作りかけなので紙芝居風だったり、アニメ風だったりしてて落ち着きが無くて申し訳無いです」
「いえ、だいたいこの子たちのことが分かったので大丈夫です」
そう言いながら八岐大蛇の背中を撫でて見せると、彼女は少し安心したように笑った。
と、猫田さんが一つ疑問を持った様子で手を挙げる。
「八岐大蛇について会社に報告しようと思ってるんですが大丈夫ですか?」
「この情報をその会社が何に利用するかにもよります。もし雑誌のような形で広げられてしまうと色々面倒なんです」
「何に利用するのかは分かりませんが、少なくともそれを広めるためでは無いと思います。話では社長の趣味だと聞いています」
「趣味、ですか……ちょっと私の一存では決められないですね。先祖に迷惑をかけたくないからと苗字を変えてる家系もあるくらいですし……」
私の苗字が深川で先祖とほとんど関係が無いのはそういう事だったのだろう。先祖がとても悪い事をしたから苗字を変えたのではと少し怖かったけど、そんな優しい理由なら安心だ。
一人安心していると結衣は考える素振りを見せ、どこかへ電話をかけながら寺を出た。
どうやら誰か偉い人に話して許可を取ろうとしているようで、全部やってもらっている申し訳なさから何かしたいという思いが湧き上がる。
と、左から二番目の頭の勝介が私の雰囲気から察した様子でケラケラと笑って。
「そんなにウズウズしてどうした。足が痺れたか?」
「足は大丈夫だけど……何から何までやってもらっちゃって申し訳ないなと思って」
「時々やって来る子どもたちに私たちの事を教えて、必要ならここを管理している者に話を聞く。それがあの子の仕事だから気にする事は無いよ」
そう言って微笑んだ一番右側の頭の頼直は撫でて欲しそうに顔を近付ける。
一先ずもちもちなほっぺを撫でて構っていると、猫田さんも恐る恐るといった様子で寅吉のほっぺを指で揉む。
「おお、すげえ」
「良い事を教えてやろう。猫は俺たちの好物だ」
「……失礼しました」
「もっと撫でろという意味だ。気にせず撫でとけ」
左から三番目、喜一は顔を少し青くした猫田さんにそう声を掛け、他の頭たちが楽しそうに笑う。
ほんわかとした雰囲気が漂っていると、結衣が電話を片手に戻って来て、猫田さんに差し出す。
「どこの会社か教えて欲しいそうです。どんな会社か調べて大丈夫そうであれば、お爺ちゃんが直接伝えるそうです」
「そんなにしてもらっちゃって良いの?」
「まあ、それが私たちの仕事ですから」
にっこり笑った彼女に私と猫田さんも笑い返す。
しかし、私たちの心の中では「来た意味、あまり無かったのでは?」と小さな疑問が湧き上がっていた。
24
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる