上 下
80 / 106

74話

しおりを挟む
 川から八つの太く長い首が勢いよく飛び出す。
 さっきまで喜んでいたはずの村人たちは何が起きたのかわからない様子で逃げ出し、村長と思わしき人間が尻餅を突いてただただ巨大生物を見上げる。
 さっきまでとは打って変わってぬるぬると動く八岐大蛇が描かれ、そして美しい黒い光沢が描かれている。
 まるで映画のようなクオリティの高さに少し驚かされていると、結衣が口を開く

「こうして生まれた八岐大蛇は、村人たちに条件付きで彼らの非道な行いを許す事にしました」

 てっきり今までの仕返しとばかりに暴れ回るものだと思っていたのだが、どうやらその器は私よりも大きいらしい。

「その条件とは月の満ちる日に供物として全員が腹を満たせる量の作物を持って来る事。それを守っている間は川の氾濫も抑えるが、守らなかったら人も家畜も全て喰らう、というものでした」
 
 当時の食糧事情は知らないが、川の氾濫が無くなる上に殺されないなら安いものだろう。
 そう考えていると画面は暗転し、「百年後」と文字が出る。

「長い時が経ったある日、彼らは人の姿も取れることに気付きます」

 その言葉と共に成長した八人のシルエットが映し出され、その立ち姿から少し困惑しているのが見て取れる。
 ふと気になった私は膝の上でボソボソと何かを話している八岐大蛇に問いかける。

「今も人の姿になれるの?」

「なろうと思えばな。ガキの姿になるからやらねえけど」

 何か嫌な記憶でも思い出したように寅吉は小さく唸り、生贄にされてしまう前の辛い記憶を思い出してしまうからなのだろうと察する。
 と、映像の方では八岐大蛇が村に近付く様子が映し出される。

「人の姿になれた彼らは子孫を残したいという思いが強まり、村に訪れて毎年若い娘を一人寄越すように要求します」

 それを聞いて何となく先の展開が予想出来てしまい、何とも言い難い気持ちが湧き上がる。
 映像には可愛らしい少女が生贄を送り出すかのように、彼らへ差し出される様子が描かれる。

「彼らの元へ行った少女たちは食べられてしまうのだと最初こそ怖がっていましたが、事情を知ると好意的に接するようになりました」

 その言葉でチラと八岐大蛇に目を向けると、一番左側の頭が気恥ずかしそうに頭を下げ、他の頭が面白がるような目を向ける。
 
「ではここで一番左側の頭、日向さんの奥様が残した日記を見てみましょう」

「んなっ?!」

 日向と呼ばれた頭が驚いた声を上げ、この子達がこの映像を見るのも初めてなのだと察する。
 と、スクリーンには古い言葉で書かれた文章が映し出され、その横に翻訳文が出る。
 そこには村の人たちよりも大切に扱われた事や、初々しい反応が可愛らしかった事、そして幸せだった事が記されている。

「他の子の妻が残した日記や遺書にも似たような事が書かれている事から、女の子には優しかったようです」

「そうなんだ?」

「……我らと同じ思いを出来るだけさせたくなくてな」

 中央の頭が気恥ずかしそうに呟き、横で聞いていた猫田さんが思わずと言った様子で微笑む。
 と、スクリーンに刀を携えた一人の男の姿が映し出され、不穏な空気が漂い始めた。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...