さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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73話 生誕

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 棚の前に白い布がバサッと音を立てて降ろされ、そこへプロジェクターの光が照射される。
 天井を見れば前の会社で使っていたのと同じプロジェクターが取り付けられていて、木造建築には似つかわしく無いように感じる。

「それじゃあ始めますので、座布団にでも座りながらご視聴ください」

 何だか楽しそうな声色でそう言った彼女に従って隅に積まれている座布団を敷いて見る姿勢を取ると、白い再生ボタンが表示される。
 さっきのカチッという音が再び鳴るのと同時に映像が再生され、「八岐大蛇伝説」の文字が浮かび上がる。
 てっきり大昔の書物を使ったり、この子達の口から直接聞けるのだと思っていたのだが、かなり現代的な方法で教えてくれるらしい。
 少しワクワクしていると、八人の子供のシルエットと共に文章が映し出される。

「二千年以上前、斐伊川の周辺で栄えた村に八人の兄弟が住んでいました」

 幕の後ろから結衣の声が聞こえてきて、音声はまだ用意出来ていないのだと察する。
 それにしても、二千年以上前ということはミワよりも年上なのだろうか。帰ったら聞いてみるとしよう。
 
 そんなことを考えていると八人の子供が大人に鞭で打たれながら働く映像が映し出される。
 生々しい表現を抑えるためなのか子供達の姿はシルエットで描かれているのだが、逆に痛々しい様を想像してしまう。

「彼ら八人は両親から単なる労働力として扱われ、名前すら与えられずに毎日奴隷のような生活を送っていました」

 時代が時代であるため仕方ないのかもしれないが、幼い子供たちが悲惨な目に遭っていたと思うと心苦しいものがある。
 八岐大蛇を抱きしめる腕に力が入っていると場面は切り替わり、荒れ狂う川の様子が映し出される。

「そんなある日、豪雨によって斐伊川で大洪水が起こります。これを神の怒りによるものだと思った村の人々は、彼ら八人の兄弟を生贄として捧げることで鎮めようと考えます」

 結衣が話している間、話し合う村人たちの様子と怯える子供達が荒れ狂う川へ連れて行かれる映像が流れる。
 チラと八岐大蛇に目を向けると、寅吉は少し不愉快そうな表情を浮かべ、それ以外の頭はなんとも無い様子で眺めている。
 
「酷いことするな。子供じゃなくても良かっただろ」

「全くです。そんなことを言い出した人が行けば良かったのに」

 小声で話しかけてきた猫田さんに同意を返すと、八岐大蛇にも聞こえていたようで、小さく笑いながら。

「あいつらは自分たちが助かるためなら俺たちみたいなガキが何人死んだって構いやしないんだよ。いくらでも替えが利くからな」

「まあ、あのままカスどものところで奴隷生活するよりかはとっとと死んだ方がマシだと思ってたから気にすんな」

 気を遣ってくれたらしい彼らに私は礼を口にして、その体を抱きしめる。
 と、映像の方では村人たちが祈りを捧げるような行動を辞めると、正座をしていた八人が荒れ狂う川の中へ放り込まれた。
 
「そうして川へ捧げられた八人は溺死してしまうーーはずでした」

 結衣がどことなく楽しそうにそういうのと同時、頭から川の中へ沈んでいく八人が光に包まれる。
 すると川上の方へ視点は切り替わり、少し落ち着いた川の様子を見て喜び合う村人たちの姿が映し出される。
 素直に喜べない複雑な心境からなんとも言えない気持ちが湧き上がっているとーー迫力のある咆哮が鳴り響いた。
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