79 / 106
73話 生誕
しおりを挟む
棚の前に白い布がバサッと音を立てて降ろされ、そこへプロジェクターの光が照射される。
天井を見れば前の会社で使っていたのと同じプロジェクターが取り付けられていて、木造建築には似つかわしく無いように感じる。
「それじゃあ始めますので、座布団にでも座りながらご視聴ください」
何だか楽しそうな声色でそう言った彼女に従って隅に積まれている座布団を敷いて見る姿勢を取ると、白い再生ボタンが表示される。
さっきのカチッという音が再び鳴るのと同時に映像が再生され、「八岐大蛇伝説」の文字が浮かび上がる。
てっきり大昔の書物を使ったり、この子達の口から直接聞けるのだと思っていたのだが、かなり現代的な方法で教えてくれるらしい。
少しワクワクしていると、八人の子供のシルエットと共に文章が映し出される。
「二千年以上前、斐伊川の周辺で栄えた村に八人の兄弟が住んでいました」
幕の後ろから結衣の声が聞こえてきて、音声はまだ用意出来ていないのだと察する。
それにしても、二千年以上前ということはミワよりも年上なのだろうか。帰ったら聞いてみるとしよう。
そんなことを考えていると八人の子供が大人に鞭で打たれながら働く映像が映し出される。
生々しい表現を抑えるためなのか子供達の姿はシルエットで描かれているのだが、逆に痛々しい様を想像してしまう。
「彼ら八人は両親から単なる労働力として扱われ、名前すら与えられずに毎日奴隷のような生活を送っていました」
時代が時代であるため仕方ないのかもしれないが、幼い子供たちが悲惨な目に遭っていたと思うと心苦しいものがある。
八岐大蛇を抱きしめる腕に力が入っていると場面は切り替わり、荒れ狂う川の様子が映し出される。
「そんなある日、豪雨によって斐伊川で大洪水が起こります。これを神の怒りによるものだと思った村の人々は、彼ら八人の兄弟を生贄として捧げることで鎮めようと考えます」
結衣が話している間、話し合う村人たちの様子と怯える子供達が荒れ狂う川へ連れて行かれる映像が流れる。
チラと八岐大蛇に目を向けると、寅吉は少し不愉快そうな表情を浮かべ、それ以外の頭はなんとも無い様子で眺めている。
「酷いことするな。子供じゃなくても良かっただろ」
「全くです。そんなことを言い出した人が行けば良かったのに」
小声で話しかけてきた猫田さんに同意を返すと、八岐大蛇にも聞こえていたようで、小さく笑いながら。
「あいつらは自分たちが助かるためなら俺たちみたいなガキが何人死んだって構いやしないんだよ。いくらでも替えが利くからな」
「まあ、あのままカスどものところで奴隷生活するよりかはとっとと死んだ方がマシだと思ってたから気にすんな」
気を遣ってくれたらしい彼らに私は礼を口にして、その体を抱きしめる。
と、映像の方では村人たちが祈りを捧げるような行動を辞めると、正座をしていた八人が荒れ狂う川の中へ放り込まれた。
「そうして川へ捧げられた八人は溺死してしまうーーはずでした」
結衣がどことなく楽しそうにそういうのと同時、頭から川の中へ沈んでいく八人が光に包まれる。
すると川上の方へ視点は切り替わり、少し落ち着いた川の様子を見て喜び合う村人たちの姿が映し出される。
素直に喜べない複雑な心境からなんとも言えない気持ちが湧き上がっているとーー迫力のある咆哮が鳴り響いた。
天井を見れば前の会社で使っていたのと同じプロジェクターが取り付けられていて、木造建築には似つかわしく無いように感じる。
「それじゃあ始めますので、座布団にでも座りながらご視聴ください」
何だか楽しそうな声色でそう言った彼女に従って隅に積まれている座布団を敷いて見る姿勢を取ると、白い再生ボタンが表示される。
さっきのカチッという音が再び鳴るのと同時に映像が再生され、「八岐大蛇伝説」の文字が浮かび上がる。
てっきり大昔の書物を使ったり、この子達の口から直接聞けるのだと思っていたのだが、かなり現代的な方法で教えてくれるらしい。
少しワクワクしていると、八人の子供のシルエットと共に文章が映し出される。
「二千年以上前、斐伊川の周辺で栄えた村に八人の兄弟が住んでいました」
幕の後ろから結衣の声が聞こえてきて、音声はまだ用意出来ていないのだと察する。
それにしても、二千年以上前ということはミワよりも年上なのだろうか。帰ったら聞いてみるとしよう。
そんなことを考えていると八人の子供が大人に鞭で打たれながら働く映像が映し出される。
生々しい表現を抑えるためなのか子供達の姿はシルエットで描かれているのだが、逆に痛々しい様を想像してしまう。
「彼ら八人は両親から単なる労働力として扱われ、名前すら与えられずに毎日奴隷のような生活を送っていました」
時代が時代であるため仕方ないのかもしれないが、幼い子供たちが悲惨な目に遭っていたと思うと心苦しいものがある。
八岐大蛇を抱きしめる腕に力が入っていると場面は切り替わり、荒れ狂う川の様子が映し出される。
「そんなある日、豪雨によって斐伊川で大洪水が起こります。これを神の怒りによるものだと思った村の人々は、彼ら八人の兄弟を生贄として捧げることで鎮めようと考えます」
結衣が話している間、話し合う村人たちの様子と怯える子供達が荒れ狂う川へ連れて行かれる映像が流れる。
チラと八岐大蛇に目を向けると、寅吉は少し不愉快そうな表情を浮かべ、それ以外の頭はなんとも無い様子で眺めている。
「酷いことするな。子供じゃなくても良かっただろ」
「全くです。そんなことを言い出した人が行けば良かったのに」
小声で話しかけてきた猫田さんに同意を返すと、八岐大蛇にも聞こえていたようで、小さく笑いながら。
「あいつらは自分たちが助かるためなら俺たちみたいなガキが何人死んだって構いやしないんだよ。いくらでも替えが利くからな」
「まあ、あのままカスどものところで奴隷生活するよりかはとっとと死んだ方がマシだと思ってたから気にすんな」
気を遣ってくれたらしい彼らに私は礼を口にして、その体を抱きしめる。
と、映像の方では村人たちが祈りを捧げるような行動を辞めると、正座をしていた八人が荒れ狂う川の中へ放り込まれた。
「そうして川へ捧げられた八人は溺死してしまうーーはずでした」
結衣がどことなく楽しそうにそういうのと同時、頭から川の中へ沈んでいく八人が光に包まれる。
すると川上の方へ視点は切り替わり、少し落ち着いた川の様子を見て喜び合う村人たちの姿が映し出される。
素直に喜べない複雑な心境からなんとも言えない気持ちが湧き上がっているとーー迫力のある咆哮が鳴り響いた。
14
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる