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71話 話し相手
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古びた賽銭箱を覗き込んでみると蜘蛛の巣に五円玉が引っかかっていて、その更に下には底の板を貫通したらしい雑草が見える。
しかし、神社の方は違和感を覚える程度には綺麗で、まるでついさっき完成したかのような雰囲気がある。
「結衣ちゃん、お客さんだよ」
ぼーっと眺めていると佐藤さんが社に向けて声を掛け、中から少し驚いたような声と共にドタドタと騒がしい足音が鳴り始める。
どんな人が出て来るのだろうと少しワクワクしていると引き戸が勢いよく開けられ、可愛らしい女の子が姿を現した。
「お客さんが来たってホント?!」
「聞かずともここにいるだろ。自己紹介してやりなさい」
ニコニコと笑った佐藤さんに返事をした彼女はこちらを向くと、明るい笑みを見せて自己紹介を始める。
「私は八重垣結衣です! 大学が夏季休暇に入ってて暇だったのでお小遣い欲しさに神社の管理をしています!」
良くも悪くも素直な子なのだと察しながら、私も自己紹介を始める。
「私は深川桂里奈。詳しい事情は後で話すんだけど、ちょっと調べたい事があってここに来たの」
「猫田蒼馬です。深川の付き添いと手伝いのため来ました」
「お似合いのカップルですね! ささ、上がって行ってください!」
否定する隙も与えずに中へ上がって行った結衣に、私は思わず苦笑しながら社へ上がる。
明かりはろうそくだけなこともあって薄暗く、少し不気味な雰囲気がある。猫田さんからしたら苦手に違いない。
と、猫田さんは若干怯えながら結衣に尋ねる。
「結衣ちゃん、ここにいて怖くないの?」
「最初は怖かったですけど、気付いたら慣れちゃいました。それに、話し相手もいますからね」
「話し相手?」
その言葉で他にも誰かいるのかと部屋の中を見回すが、見た目より狭いこの部屋には誰も居らず、他の部屋へ続くような扉や廊下も見えない。
思わず首を傾げると彼女は引き戸を閉めてこちらを振り返ると。
「深川って、元々この辺に住んでいた方の苗字ですよね。ご先祖のあやかしについて調べに来た、と言ったところですか?」
「もしかして、結衣ちゃんもそうだったの?」
まるでお見通しかのように全てを言い当てた結衣に思わず聞き返すと、彼女はコクリと頷いて奥の方へ歩き出す。
そこには八つの頭を持つ蛇の像と、その周りにはミニチュアの八つの門と酒樽が飾られている棚があり、物語性のようなものを感じ取れる。
「猫田さんって化け猫か猫又の血族ですよね? 蛇が苦手だと思いますので、無理はしないで下さいね」
いきなり言い当てられて少し驚いた様子を見せた猫田さんは、しかし強がるような口調で。
「ここに来る途中で何匹も見たんで大丈夫です……多分」
「まあ、頑張って下さい」
そう言いながら結衣が蛇の像を持ち上げ、こちらを向くとーー
「よくぞ参った、我が孫よ」
固まって動かなかった蛇の像が、突如として言葉を発した。
しかし、神社の方は違和感を覚える程度には綺麗で、まるでついさっき完成したかのような雰囲気がある。
「結衣ちゃん、お客さんだよ」
ぼーっと眺めていると佐藤さんが社に向けて声を掛け、中から少し驚いたような声と共にドタドタと騒がしい足音が鳴り始める。
どんな人が出て来るのだろうと少しワクワクしていると引き戸が勢いよく開けられ、可愛らしい女の子が姿を現した。
「お客さんが来たってホント?!」
「聞かずともここにいるだろ。自己紹介してやりなさい」
ニコニコと笑った佐藤さんに返事をした彼女はこちらを向くと、明るい笑みを見せて自己紹介を始める。
「私は八重垣結衣です! 大学が夏季休暇に入ってて暇だったのでお小遣い欲しさに神社の管理をしています!」
良くも悪くも素直な子なのだと察しながら、私も自己紹介を始める。
「私は深川桂里奈。詳しい事情は後で話すんだけど、ちょっと調べたい事があってここに来たの」
「猫田蒼馬です。深川の付き添いと手伝いのため来ました」
「お似合いのカップルですね! ささ、上がって行ってください!」
否定する隙も与えずに中へ上がって行った結衣に、私は思わず苦笑しながら社へ上がる。
明かりはろうそくだけなこともあって薄暗く、少し不気味な雰囲気がある。猫田さんからしたら苦手に違いない。
と、猫田さんは若干怯えながら結衣に尋ねる。
「結衣ちゃん、ここにいて怖くないの?」
「最初は怖かったですけど、気付いたら慣れちゃいました。それに、話し相手もいますからね」
「話し相手?」
その言葉で他にも誰かいるのかと部屋の中を見回すが、見た目より狭いこの部屋には誰も居らず、他の部屋へ続くような扉や廊下も見えない。
思わず首を傾げると彼女は引き戸を閉めてこちらを振り返ると。
「深川って、元々この辺に住んでいた方の苗字ですよね。ご先祖のあやかしについて調べに来た、と言ったところですか?」
「もしかして、結衣ちゃんもそうだったの?」
まるでお見通しかのように全てを言い当てた結衣に思わず聞き返すと、彼女はコクリと頷いて奥の方へ歩き出す。
そこには八つの頭を持つ蛇の像と、その周りにはミニチュアの八つの門と酒樽が飾られている棚があり、物語性のようなものを感じ取れる。
「猫田さんって化け猫か猫又の血族ですよね? 蛇が苦手だと思いますので、無理はしないで下さいね」
いきなり言い当てられて少し驚いた様子を見せた猫田さんは、しかし強がるような口調で。
「ここに来る途中で何匹も見たんで大丈夫です……多分」
「まあ、頑張って下さい」
そう言いながら結衣が蛇の像を持ち上げ、こちらを向くとーー
「よくぞ参った、我が孫よ」
固まって動かなかった蛇の像が、突如として言葉を発した。
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