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68話 八が原
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バスを降りると『八が原』の文字がある古めかしいバス停が私たちを迎え、軽く辺りを見回してみると緑豊かな風景と水田が並び、バスが去って行った事でぽつぽつと並ぶ古民家がその反対側に見える。
実家の周辺よりも田舎な景色を見るのは何気にこれが初めてで新鮮な気分が湧き上がっていると、スマホの地図を見ていた猫田さんが道路を超えた先にある山の中へと続く道を指差して。
「この村があるのってこの先か?」
「はい、その先です。ちょっと先まで行くと二つに道が分かれているので、右側の道をしばらく進めば村が見えてくるはずです」
「分かった。それにしても、やっぱり敬語に戻っちゃうんだな」
「あ、ホントですね。気を付けます」
おっと、つい癖で敬語になってしまっていた。次からは気を付けよう。
そんな事を考えながら車の通りがほとんど皆無の車道を渡って、森の中へと続く坂道を進む。
するとすぐに別れ道が現れ、左側の道は工事中の看板が立てられていて通る事は出来なくなっていて、右側の道だけが通れる状態になっている。
しかし、その道の片隅には少し古い家電や家具が放置されていて、不快な気分にさせられる。
「これ、不法投棄か?」
「多分そうだと思う。酷いね」
「だな」
少し不快そうに眉を顰めた猫田さんは先を歩き始め、私もその横に並んで進む。
車の走る音も人の話し声も、人工的な音は何一つとして聞こえず、ただ木の葉が擦れる音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。
すっかり都会の喧騒というものに慣れてしまっていたが、自然の声だけ聞こえる空間は気分が落ち着く。
と、少し先に崩壊寸前の一軒家が見え始め、猫田さんが少し興味がある様子でそれを指差して。
「あれ、廃屋かな? もしかしてまだ人が住んでるなんてことあったりする?」
「無いと思うけど……ちょっと寄ってみる?」
「いや、やめとく」
そう言って笑った猫田さんは、しかしその建物に興味がある様子でじいっと見つめる。
こんな人気の無い場所に誰かが住んでいた人がいたと思うと、少し不思議な気分になる。村が近い事を考えるとそこまで不便では無いのだろうか。
考え事をしながら建物の前を通過すると、玄関の扉は外れてしまっていて――奥の部屋を歩く人影が見えて私は思わず立ち止まる。
「どうした?」
「今、奥の方に人影が……」
「そ、そうやって俺を怖がらせるのは良くないと思うんだよ」
怯えた声色でそう言った猫田さんは、私の影に隠れながら家の中を覗き込む。
私もよく目を凝らして中を見てみるが、見間違いだったのかもう人影は見えず、不気味な雰囲気を醸し出す廊下だけが見えて、思わず首を傾げる。
「み、見間違いだったみたいだな」
「ちゃんと動いてるの見えたんだけどな……」
かなりくっきりと動いている人が見えたのだが、気のせいだったのだろうか。
「い、行こうぜ? 祟られたりしたら笑えないからさ」
「そうだね」
怖いのは苦手な様子でそう言った彼は歩き出し、私も続こうとして誰かと目が合った。
「あっ」
「どうした?」
若干怯えたように声を掛けて来た猫田さんは私の横へ来て再び家の中を覗き込み――
「うおっ?!」
情けない声を出しながらバックステップで距離を取った猫田さんを見て私は思わず笑う。
すると建物の中から青い作業着に身を包んだ老人が出て来て、ケラケラと笑いながら私たちに尋ねる。
「驚かせて悪かったねえ。それにしても、こんな若い子がどうしてこんなところまで?」
「この先にある村で調べたいことがあって来ました」
「そうかい、よく来たね。案内ならしてあげるよ」
そう言って先を歩き始めた老人の後に続いて歩き始めると、猫田さんは疲れた様子で大きな溜息を吐く。
どことなく可愛らしさを感じながら、老人を先頭に木漏れ日に照らされる道をのんびりと進んだ。
実家の周辺よりも田舎な景色を見るのは何気にこれが初めてで新鮮な気分が湧き上がっていると、スマホの地図を見ていた猫田さんが道路を超えた先にある山の中へと続く道を指差して。
「この村があるのってこの先か?」
「はい、その先です。ちょっと先まで行くと二つに道が分かれているので、右側の道をしばらく進めば村が見えてくるはずです」
「分かった。それにしても、やっぱり敬語に戻っちゃうんだな」
「あ、ホントですね。気を付けます」
おっと、つい癖で敬語になってしまっていた。次からは気を付けよう。
そんな事を考えながら車の通りがほとんど皆無の車道を渡って、森の中へと続く坂道を進む。
するとすぐに別れ道が現れ、左側の道は工事中の看板が立てられていて通る事は出来なくなっていて、右側の道だけが通れる状態になっている。
しかし、その道の片隅には少し古い家電や家具が放置されていて、不快な気分にさせられる。
「これ、不法投棄か?」
「多分そうだと思う。酷いね」
「だな」
少し不快そうに眉を顰めた猫田さんは先を歩き始め、私もその横に並んで進む。
車の走る音も人の話し声も、人工的な音は何一つとして聞こえず、ただ木の葉が擦れる音と鳥の鳴き声だけが聞こえる。
すっかり都会の喧騒というものに慣れてしまっていたが、自然の声だけ聞こえる空間は気分が落ち着く。
と、少し先に崩壊寸前の一軒家が見え始め、猫田さんが少し興味がある様子でそれを指差して。
「あれ、廃屋かな? もしかしてまだ人が住んでるなんてことあったりする?」
「無いと思うけど……ちょっと寄ってみる?」
「いや、やめとく」
そう言って笑った猫田さんは、しかしその建物に興味がある様子でじいっと見つめる。
こんな人気の無い場所に誰かが住んでいた人がいたと思うと、少し不思議な気分になる。村が近い事を考えるとそこまで不便では無いのだろうか。
考え事をしながら建物の前を通過すると、玄関の扉は外れてしまっていて――奥の部屋を歩く人影が見えて私は思わず立ち止まる。
「どうした?」
「今、奥の方に人影が……」
「そ、そうやって俺を怖がらせるのは良くないと思うんだよ」
怯えた声色でそう言った猫田さんは、私の影に隠れながら家の中を覗き込む。
私もよく目を凝らして中を見てみるが、見間違いだったのかもう人影は見えず、不気味な雰囲気を醸し出す廊下だけが見えて、思わず首を傾げる。
「み、見間違いだったみたいだな」
「ちゃんと動いてるの見えたんだけどな……」
かなりくっきりと動いている人が見えたのだが、気のせいだったのだろうか。
「い、行こうぜ? 祟られたりしたら笑えないからさ」
「そうだね」
怖いのは苦手な様子でそう言った彼は歩き出し、私も続こうとして誰かと目が合った。
「あっ」
「どうした?」
若干怯えたように声を掛けて来た猫田さんは私の横へ来て再び家の中を覗き込み――
「うおっ?!」
情けない声を出しながらバックステップで距離を取った猫田さんを見て私は思わず笑う。
すると建物の中から青い作業着に身を包んだ老人が出て来て、ケラケラと笑いながら私たちに尋ねる。
「驚かせて悪かったねえ。それにしても、こんな若い子がどうしてこんなところまで?」
「この先にある村で調べたいことがあって来ました」
「そうかい、よく来たね。案内ならしてあげるよ」
そう言って先を歩き始めた老人の後に続いて歩き始めると、猫田さんは疲れた様子で大きな溜息を吐く。
どことなく可愛らしさを感じながら、老人を先頭に木漏れ日に照らされる道をのんびりと進んだ。
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