さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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66話 出発

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「おはよう、よく眠れたか?」

「はい、夢も見ないくらいぐっすり眠れました」

 そう答えると猫田さんはどこか安心したような雰囲気を醸し出す。
 やっぱりこの人は優しいのだなと実感しながらベッドから立ち上がり、時間には余裕があるが出発の準備を始めた。
 
 ホテルを出る予定の時刻は十時。ここから徒歩十分程度のバス停にバスが到着する時間の四十分前だ。
 そのバスは唯一、私たちが調査に向かう村に行けるもので、逃してしまうと次の便は夜になってしまうため、タクシーで向かわなければならなくなってしまう。
 ……今日で突き止められる事を願おう。

 そんな事を考えている間に準備は終わり、何となく猫田さんに目を向けるとコーヒーを飲みながらパソコンの画面を眺めていた。
 その場からモニターを見てみると猫がなでなでされてくすぐったそうにしている映像が少しだけ見えて、微笑ましく感じてしまう。
 と、そんなタイミングで私のベッドの枕元に放置されていたスマホが着信音を鳴らし、何となく誰からのメッセージなのか察しながら手に取ってみれば、やはりその送り主は波留だった。
 
『猫田さんとの初夜はいかがでした?』

『帰ったら覚えときなさい。泣いて嫌がる事してあげるから』

 顔が熱くなるのを感じながらそんな返信をした私は、チラと猫田さんの方を見る。
 幸いにもまだ猫の映像を眺めていて、こちらを見ようとする様子はなく、思わずホッとする。

 あの愚妹はよくもまあそんなとんでもないメッセージを送れたものだ。
 もし何かの事故で猫田さんに見られたらどう落とし前を付けてくれるのだろうか。
 帰ったらどんな仕返しをしてやろうかと考えていると、再び波留からメッセージが送られて来た。

『今日のミワちゃん送るから許して……』

 その一言と少し遅れて送信されて来た写真は、蛇の姿でとぐろを巻くミワを映した物だった。
 日の光が白銀の細長な体を照らし出し、なぜ白蛇は縁起が良いと言われるのか分かったような気がする。

『泣かない程度の嫌がらせにして上げる』

『嫌がらせはするんだ?』

 当たり前である。くすぐり地獄でも味合わせてやろう。
 そんな事をしている間に丁度良い時間になろうとしていることに気付き、猫田さんに声を掛けようと振り返ると。

「もう出ても良い時間だな。深川は準備出来てるか?」

「はい、出来てます」

 何なら声を掛けようと思っていたところだ。
 私はスマホをポケットに仕舞いながらベッドから立ち上がり、リュックを片手に二人で部屋を出た。
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