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64話 ホテル
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斐伊川から程近いホテルに到着したのは、八時を過ぎようとしている頃だった。
鬼塚社長が余裕をもってチェックインを遅めの時間にしていたから、というのもあるのだが、ここへ来るまでの道中でちょっと観光したりして遊んでいたらこんな時間になってしまったのだ。
久々にあちこち歩き回って少し疲れが溜まった足を軽く摩りながらホテルのロビーに入り、受付へ進む。
出迎えてくれた受付の女性からカギを受け取り、エレベーターで三階へと向かう。
すると、ここへ来る途中で買った伊達メガネを付けた猫田さんがスマホを取り出しながら。
「明日から調査始めるって言ってたけど、どこらへん調べる予定なんだ? 俺、詳しい事はあまり分かってないから教えて欲しいんだけど」
「詳しい事は部屋で教えるけど……斐伊川の上流の方にある村に行くつもり」
母の調べによって、その村がご先祖の住んでいた村であることが分かっている。
流石にどの家に住んでいたのかは分からなかったようだが、これについては現地の人たちに尋ねるか探索していればきっと分かるだろう。
……見つからなかった時は、兄妹全員をここに呼び出して探させるとしよう。どうせ暇だろうし。
そんな下らない事を考えている間に『三〇ニ』と書かれた部屋の前に到着した私たちは鍵を開けて中へと入る。
部屋はベッド二つが並んでいるそれなりに広い部屋で、二人で寝泊まりするには丁度良い広さだ。
「へえ、結構良い部屋じゃん。煙草の臭いも無いし」
「この部屋禁煙だからね」
猫又が関係しているのかは分からないが、ここへ来る途中で煙草などの悪臭に対して敏感に反応していた。
もしも鬼塚社長が喫煙部屋を取っていたら、今頃猫田さんは泣いていた頃だろう。
そんな事を考えながら荷物を奥側のベッドの脇に置いていると、ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らした。
手に取って見て見れば、メッセージの送り主は波留で。
『猫田さんとのデート上手く行ってる? ミワちゃんの画像送ってあげるから、これで緊張解してね』
余計なお世話だと言いたくなるそのメッセージと共に送られて来た画像を見てみれば、真っ白な犬と戯れるミワの姿だった。
これだけを見ればごく普通の可愛らしい幼女にしか見えず、いつもの生意気っぷりがいかにその可愛らしさを損なっているのかが分かる。
「ニヤニヤして何してんだ?」
「見る?」
言いながら写真を見せると猫田さんは納得した様子で笑う。
「こりゃニヤニヤするな」
「でしょ?」
余計なメッセージが付いていたとは言え、この画像が素晴らしいのは認めて、お土産は少し多めにしてあげるとしよう。
私はその写真をしっかりと保存してアプリを一度閉じた。
鬼塚社長が余裕をもってチェックインを遅めの時間にしていたから、というのもあるのだが、ここへ来るまでの道中でちょっと観光したりして遊んでいたらこんな時間になってしまったのだ。
久々にあちこち歩き回って少し疲れが溜まった足を軽く摩りながらホテルのロビーに入り、受付へ進む。
出迎えてくれた受付の女性からカギを受け取り、エレベーターで三階へと向かう。
すると、ここへ来る途中で買った伊達メガネを付けた猫田さんがスマホを取り出しながら。
「明日から調査始めるって言ってたけど、どこらへん調べる予定なんだ? 俺、詳しい事はあまり分かってないから教えて欲しいんだけど」
「詳しい事は部屋で教えるけど……斐伊川の上流の方にある村に行くつもり」
母の調べによって、その村がご先祖の住んでいた村であることが分かっている。
流石にどの家に住んでいたのかは分からなかったようだが、これについては現地の人たちに尋ねるか探索していればきっと分かるだろう。
……見つからなかった時は、兄妹全員をここに呼び出して探させるとしよう。どうせ暇だろうし。
そんな下らない事を考えている間に『三〇ニ』と書かれた部屋の前に到着した私たちは鍵を開けて中へと入る。
部屋はベッド二つが並んでいるそれなりに広い部屋で、二人で寝泊まりするには丁度良い広さだ。
「へえ、結構良い部屋じゃん。煙草の臭いも無いし」
「この部屋禁煙だからね」
猫又が関係しているのかは分からないが、ここへ来る途中で煙草などの悪臭に対して敏感に反応していた。
もしも鬼塚社長が喫煙部屋を取っていたら、今頃猫田さんは泣いていた頃だろう。
そんな事を考えながら荷物を奥側のベッドの脇に置いていると、ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らした。
手に取って見て見れば、メッセージの送り主は波留で。
『猫田さんとのデート上手く行ってる? ミワちゃんの画像送ってあげるから、これで緊張解してね』
余計なお世話だと言いたくなるそのメッセージと共に送られて来た画像を見てみれば、真っ白な犬と戯れるミワの姿だった。
これだけを見ればごく普通の可愛らしい幼女にしか見えず、いつもの生意気っぷりがいかにその可愛らしさを損なっているのかが分かる。
「ニヤニヤして何してんだ?」
「見る?」
言いながら写真を見せると猫田さんは納得した様子で笑う。
「こりゃニヤニヤするな」
「でしょ?」
余計なメッセージが付いていたとは言え、この画像が素晴らしいのは認めて、お土産は少し多めにしてあげるとしよう。
私はその写真をしっかりと保存してアプリを一度閉じた。
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